今回は漫画「美味しんぼ」の単行本、104巻と105巻について紹介したいと思います。なんと言ってもまず、その長寿連載っぷりに驚きますが、現在に至るまで料理対決の漫画として常に人気を博してきました。2冊はどちらも「食と環境問題」というテーマで描かれています。料理の素材に対して、その産地が抱える環境問題、とくに国内の問題について焦点を当てています。
この「美味しんぼ」、山岡士郎や海原雄山(かいばらゆうざん)といった主要な登場人物以外に、実在する人物が漫画のなかに登場して、話をさらに幅広く展開させるスタイルを取り入れています。おそらくこの2巻も、ここに登場する方々や現地での綿密な取材をもとに描かれていると思うのですが、当コラムでたまに紹介している環境映画同様、漫画という表現に変換して社会が抱える問題をとても分かりやすく伝えてくれます。以前僕が都内のイベントなどでお世話になった、環境活動家の田中優さんも104巻で登場していました。
話は海原雄山が静岡県の中田島砂丘を訪れ、その砂浜が以前訪れたときよりも縮小しているというところから始まります。その大きな要因は、天竜川にダムがいくつも作られ、川からの砂の供給が止められたため、と地元で海岸浸食を守る活動をしている方が答えます。痩せた砂浜はその付近に生息する小さな魚を減少させ、浅瀬に作られた消波ブロックと共に、アカウミガメの産卵に大きな影響を及ぼしているそうです。
天竜川だけではなくその隣の長良川では、河口堰を作ったことで稚魚が海に下ることが出来ず、サツキマスや天然の鮎の数が減っている、ということも取り上げられていました。数々の公共事業によって生態系のバランスが崩れ、それがやがて料理の食材にも影響を与えているのです。ちなみにこの漫画の興味深いところは、必要な食材が不足した原因を探ることによって環境問題を発見するという風に、あえて視点を逆にして現代社会の不条理を捉えることが出来る点だと思います。
それ以外にも数々の事例を取り上げています。沖縄にある泡瀬干潟のまわりの干拓事業によって、海藻の数の減少をはじめ動植物全体に影響を与えている問題。東京・築地市場の移転計画地の土壌と地下水汚染の問題。ネオニコチノイド系の農薬によりミツバチが大量死し、結果的に農作物にも影響を与えている問題、などなど。いちばんドキリとしたのは、青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場にまつわる話題から、放射性物質の危険性や風評被害を描いた回でした。この2巻はどちらも2010年に発行されたのですが、もしも大きな原発事故が起きたら、というコマの絵は、まるでその後の福島第一原発の事故を予知しているかのようでした。
いずれも日本の今の社会状況を象徴する問題だと思います。興味のある方は、ぜひこの「美味しんぼ」104巻と105巻を手に取って読んでみてください。僕ももっともっと勉強すること、知りたいことがたくさんあるなと感じました。
さて、今年の連載はこの回が最後になります。1年で25回ということは、お隣のゴスペラーズ北山さんは4年以上続けていらっしゃる。凄いですね。この「フィールドスケッチ・シェアリング」は来年も続きますので、これからも皆さんといろんな環境にまつわる話題をシェアしていければいいなと思っています。どうかよろしくお願いします。
そして最後に皆さんにお知らせです!今年の12/24のクリスマス・イブは、お昼から東京・吉祥寺のキチムにて、エコと音楽のイベント「きこえる・シンポジウム 2012 冬」を開催しています。warmerwarmerの高橋一也さんをお迎えして、昔から受け継がれて来た古来種野菜のお話をたっぷりお聞きし、そのあとには僕とQuinkaによるHARQUAのライブを行います。古来種野菜を使ったフードもご用意していますよ。詳しくはvol.22をご覧ください。ご来場、お待ちしていま〜す。