このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。
「都市農業・都市と農村交流の可能性」というテーマでお話しますが、結論から言いますと、その可能性は大いにあり、その可能性が日本の農業をリードしていくのではないかと期待をしていますし、日本という国を変えていく、世直しにもつながっていくのではないかと思います。
キーワードの「都市農業」ですが、都市と農業がくっつくことは今まで考えられなかった。都市は都市、農村、農業から離れることで都市が形成されてきたのがこれまでの流れです。経済成長が重視される中で、都市は優等生で、田舎は落伍者という位置付けにあったのではないでしょうか。
ところがこの都市と農村、農業が今、くっつき始めたことは実にすごいことだと思います。都市での大変合理的で便利な、お金があれば何でもできるという生活が実現してみたが、一体、幸福に近づいているのだろうか。われわれが本当に求めているものが農業なり農村にあるということが徐々にわかってきたのではないのか。やっと今、都市と農業が対立する概念ではなく、共生する概念としてお互いがその良さを引き出していく時代になってきたと思います。
その象徴に、この銀座が存在している。銀座のミツバチが大事な役割を果たしてくれたのではないかと思います。ミツバチが「農と緑の縁結び」をしたと思っていますが、農と緑を一緒にしていく触媒の役割をミツバチが果たしてくれている。今年は生物多様性条約第10回締約国会議が名古屋でありますが、生物多様性といっても抽象的にしか受け止められない。しかし、銀座のミツバチプロジェクトは一番象徴的に生物多様性を表しているのではないでしょうか。花が実を結ぶためには、風で受粉する場合もありますが、ミツバチが活動することで実がなり、いろいろな昆虫も増えてきます。
都市の中の農業はどういう状況なのかというと、1968年に「都市計画法」が成立し、都市近郊の農地が二つに大きく区分されました。「市街化調整区域」と「市街化区域」で、市街化区域は基本的に10年以内に宅地等に転用することを想定して都市計画法は作られました。一方で市街化調整区域は原則として農地として使っていく、転用する場合は厳しい審査があり、基本的には農地として守っていくこととされました。
1968年には市街化区域の農地面積は30万haあったのですが、現在は9万haに減少しています。3分の1以下に減少した都会の中の農地を守っていきたい、農業を守っていきたいということで、市街化区域の中に「生産緑地」として利用する指定を受け、農地として安い税金で済むようになりました。それ以外の市街化区域内の「宅地化農地」と一般的に呼ばれている土地は減ってきていて、相続等が発生する度に土地を処分して売っていく。都市の農地を守るのが非常に難しい中で、屋上を都市農園として使っていくのは大変意義があると思っています。
自然と自然の関係も随分狂ってきています。私は「循環」の大切さを強調したいのですが、食物の連鎖、あるいは農産物から人間、たい肥、森、里、海というつながり。土があるからこそ、この循環ができている。循環の流れを守っていく必要がありますが、その関係性が崩れてきた。これをどうやって変えていったら良いのか、この関係性を見直していくためにも都市と農村の距離を出来るだけ縮めていく、あるいは生産と消費の時間をできるだけ短くしていく。そういった意味で、生産者と消費者の関係、もっといえば生産者と消費者ができるだけ一体化していくことが、おそらく良い関係、命を守る関係をつないでいくということになると感じています。
ロシアにダーチャという制度があります。都市住民のかなりの人たちが都市近郊に農地を持っています。600㎡が平均的で、小屋を作って週末はそこに泊まって農業をする生活をしているのです。花を植え、野菜を作り、食糧の安全保障は自らの手で国民が守っている。都市と農村の距離というものは世界的に縮まってきているというのが最近の実態です。
農業には食糧の安定供給という役割がありますが、今、人間が人間らしく、まともな感覚を持って生きて行くためにも農業は必須です。本来私たちが持っている美的センスや感覚は自然から教えられるものです。パソコンやゲームはすべてプログラムを組み合わせた合理的なものですが、自然は人間の意のままにならない、ある意味、非合理的といいましょうか、人間の予測のつかないものを持っています。人間を越えたもっと大きな世界があるということを農業がよく示してくれていると思います。私は国民全員が農業をやるべきだというのが持論です。できればロシアのダーチャのような制度を日本に確立したいと思っています。
いって見れば週末農業です。近郊なり農村地帯の空いている農地を借りてそこで週末、農業を楽しむ。その先には私は、定年帰農という考えもあると思うのです。都市と農村とのご縁をいただいてそこで本格的に農業をやる。歳を取ったら都心に戻ってくる。ライフスタイルに応じて農業との距離が変わっても良いのではないでしょうか。若い時はキッチンガーデン、市民農園、余裕ができてきたら週末農業、そしてリタイアしたら定年帰農。そして最後、介護施設が1階にあるマンションに入って、上と下を通う。そういうライフサイクルも一つの考え方です。
やろうと思えば、ずいぶん身近な所で農業に触れる事ができるようになりました。まさにその象徴がこの銀座ではないかと思います。ぜひ、都市と農村の交流活動に参画して、農業に触れて、農村との関係を見直す体験の輪を広げていきたいと思います。農業も近代化にかなり毒されて売り上げ至上主義に陥っているところも多いのですが、本来的な農業は経済性だけではなくて多面的な機能を持っています。
やはりその地域にいて幸せを一番実感できるのは、コミュニティー、コミュニケーション、関係性ではないかと思います。人と人との関係、生産者と消費者の関係、これを農村と都市の地産地消でつなげていく。とくにこの都市農園を目指す銀座。ここは人と人がすれ違う所です。都会だからこそ、お互いにコミュニケーションが取れる。そこに農が入り込むことによって深い意味のあるコミュニケーションができるのではないかと思っています。銀座ミツバチプロジェクト、銀座里山計画、銀座の農業法人の活動を応援して、本当に日本の農業、日本自体が、もっとソフトな生きがいを実感できる、幸せが実感できるように、お互い頑張りましょう。
(2010年3月28日東京都内にて)
(グローバルネット:2010年5月号より)