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ミレニアム生態系評価(以下MAとする)では、生態系の機能(ecosystem services)を、栄養素循環や土壌形成といった生態系自身を支持(supporting)している側面および、人間の幸福増進に資する側面として食料や木材などの提供(provisioning)、気候や洪水などの緩和(regulating)、そして美的あるいは精神的な文化的側面(cultural)に分類している。水は生態系の維持に不可欠であると同時に、生態系の機能によって淡水が供給されたり水質が改善されたりするし、文化的な生活や美的感性にはもちろん水の存在が不可欠である等、水の場合はそうした分類のいずれにも横断的にあてはまっている。 そこで、MAの中核をなす「現状分析と今後の傾向(Condition and Trends)」ワーキンググループレポートでは、食料や木材、燃料など生態系が人間社会に提供している材と並んで7章で淡水が、海洋や海岸、森林等の生態系と並んで20章で陸上水系生態系が陸上生態系とは別途とりあげられている。 7章のタイトルが結果的に「淡水」となり、生態系という視点が抜け落ちた。しかし、先に述べたように生態系そのものの持続に不可欠な淡水資源をどれほど人間社会が利用するようになり、このまま放っておけば生態系と人間社会との間にどのようなあつれきが生じる懸念があるかといった点が、最新のデータに基づいて示されたという面においては十分に意味があるものと思われる。 |
筆者が関わった第7章「淡水」でとりまとめられた主なメッセージを以下に紹介する。なお、背景として、国連のミレニアム開発目標では、2015年までに安全な水へアクセスできない人口割合を(1990年に比べて)半減する、という数値目標が掲げられていることを念頭においておく必要があるだろう。
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前節に示したような現状認識、傾向分析に対し、有望で有効な水に関する対応策としては次の項目が挙げられている。
MAでは、人間社会と生態系両者の持続的な共存とともに、生態系から人間社会が得ている便益という視点にも重点が置かれている。 水は人間社会にとって、健康、摂食、経済発展等に不可欠であり、たとえ人口増大と経済的発展に伴って人間の水利用が増大し、グローバルにもその影響が見られるほどになったにしても、すぐさま人間活動を縮小すべきだ、という論点にはなっていない。むしろ、無意識のうちにそういう状況になってしまった事態を改めて自覚し、科学者以外の一般社会、そして為政者に現状と今後懸念される事態を伝えることによって議論を巻き起こし、経済発展や利益追求と対立しない形で生態系の保全が図られることを期待しているのだと思われる。 こうした問題意識は当該第7章主要執筆者間で共有され、国際学術連合(ICSU)傘下の世界気候研究計画(WCRP)、地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)、国際生物多様性研究計画(DIVER SITAS)等の横断的国際プロジェクトとして提案されているグローバルな水システム研究計画(GWSP)にも引き継がれ、世界規模の水循環に人間活動が及ぼしている影響具合やそのメカニズム、その変化が他の地球システムに及ぼす影響や持続可能性等について今後国際的に協調しつつ研究が進められることになっている。MAにならって社会への成果の広報にも重点が置かれることとなっており、日本でも対応プロジェクトの立ち上げが検討されており、生態系・生物多様性分野からも多くの参画が期待されている。 |