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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第17回 紙・木材製品のグリーン調達で森林経営の改善を支援する

  • 2005年6月9日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

紙・木材製品のグリーン調達で森林経営の改善を支援する・国際環境NGO FoEジャパン森林プログラム 中澤 健一(なかざわ・けんいち)

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危機に瀕する世界の森林

 世界の森林減少が止まらない。今でも毎年1,250万ha以上のペースで減少を続けており、とりわけ熱帯林では1,420万haものペースで減少を続けている(国連食糧農業機関(FAO)『FRA 2000』)。

 森林減少だけではなく、森林劣化も問題である。FAOの定義では樹冠率が10%以上を森林と定義しており、大規模に伐採しても10%以上残っていれば統計上森林のままであるし、10%以下にまで伐採しても天然更新を見込んでいれば、その土地は森林のままということになる。このような問題は、森林減少の数字には表れてこないことに注意が必要だ。WRI(世界資源研究所)によれば世界の原生林は8000年前と比べて、すでにその8割が失われてしまっている。

 このような森林減少や劣化を引き起こす主な原因として、違法伐採や非持続的な商業伐採が挙げられる。

 途上国や経済移行国においては、相次ぐ制度の変更や法改正による混乱、行政や警察に蔓延する汚職や腐敗など、法の施行やガバナンスの問題から違法伐採が横行している国も多い。インドネシアでは7割以上、ロシアでも2〜5割が違法伐採であるとWWFは報告しており、これらは日本の主要な木材輸入先でもある。違法伐採は森林環境への影響はもとより、地域社会や経済に与える影響(税収減、木材価格のダンピング、マフィア組織の資金源など)も大きい。

 また、違法ではないが、森林環境に多大な影響を及ぼす商業伐採も問題である。とりわけ、北米やオーストラリアなど広大な天然林を持つ国では、保護価値の高い天然林も次々と伐採されている。こうした森林は、経済的価値の高い木材を産出する森林でもあり、ゆえに商業伐採の対象になりやすい。各地で市民やNGOによる保護運動もみられるが、地元の経済や政治に対する林産業の影響力が強く、対立が長引くケースも多い。

荒廃する国内人工林

 日本は国土の3分の2が森林で覆われている世界有数の森林国だ。しかもその4割が人工林であり、年間成長量は9,000万平方メートルになる。これは、日本の総木材需要に匹敵する量だ。しかしながら、外材に押されて国内林業は切っても売れない状態が続き、木材の自給率は20%を切った。国内の人工林資源は大量にだぶついてしまっている。

 日本の人工林は、1ha当たり2,000〜数千本という高い密度で植えられるため、定期的な除間伐や枝打ちにより、林内に光を入れるような管理を行い、健康な木材と健全な森林を育成するようにしなければならない。伐期は通常50年〜80年程度であるため、2世代に渡って管理を続ける必要がある。しかも、急峻な地形で行われていることが多く、非常に過酷で手間のかかる作業だ。その割には切っても売れない、売っても儲からない、という状態が続いたため、林業経営は立ち行かず、林業に従事する後継者が激減している。

 林業経営が成り立たなくなれば、森は放置される。密植された人工林は、除間伐されずに放置され、次第に鬱閉してくる。光が差さなくなった林内は真っ暗となり、林床には草も生えなくなる。草がなくなれば虫も小動物も鳥もすめなくなる。むき出しになった土壌は降雨のたびに流出し、川を濁らせる。根がむき出しにされ、ひょろひょろの樹木ばかりになった森は台風や大雪でなぎ倒される。大雨が降れば、土砂崩れや土石流を起こして人的被害も引き起こす。日本は一見、豊かな緑に覆われているが、実際には各地にこのような森が増えている。

欧米で始まった需要側の取り組み

 伐採により破壊される海外の天然林と、伐採されずに荒廃する日本の人工林。この二つの異なる問題を結ぶのは、木材市場のグローバル化であり、グローバル市場を通して安くて高品質な木材資源を求める買い手の存在である。木材は、非常に広域かつ複雑なルートで流通している。消費者の手元に来たときには、原産地がどこなのかを知ることは困難だ。食料品と違って自分の健康に直結するわけではないから、生産地の情報を求める消費者もほとんどいない。消費者は製品を見るとき、ドアや床や家具として質感やデザインを比べ、それらが同等であれば結局は値段で決めることになる。必然的に、太径で優良な木が多い天然林を効率的に伐採した木材が市場で評価を得ることになる。

 問題の解決には、木材生産の現地だけではどうしようもないことも多い。どんな木材でも、買い続ける需要者がいて、価格重視の取引を求められれば、生産者は余計なコストを払ってまで改善する意欲は持たない。逆に、どんなに手間をかけて育てた木であっても、買い手がこれをサポートしなければ、生産者は手入れを続けることができない。生産者に対して最も影響力を持つのは、買い手、とりわけ行政や企業などの大口の需要者である。

 日本と並び大きな木材需要を持つ欧米各国では近年、需要側からの取り組みが盛んになってきている。

 イギリスでは、政府が木材調達方針を2000年に発表、公共調達において合法性の確認と、認証材の優遇をしており、改善を重ねながら着実に効果を上げてきている。政府の木材調達方針は、イギリス以外にも、デンマーク、フランス、オランダで導入済みであり、ドイツでも検討が進められている。

 業界の動きも活発になってきており、数多くの欧米トップ企業が、自らのCSR(企業の社会的責任)の一環として、原生林からの木材や紙を使わないとの方針を出している。アメリカでは異業種のトップ企業らが集まって作った「ペーパー・ワーキンググループ」が、環境に配慮した紙の調達方針の共通化を進めている。

 イギリスでは、300社の木材輸入企業からなる木材貿易連盟(TTF)が「責任ある調達方針」プログラムを作り、加盟企業へ参加を呼びかけ、現在70社のメンバーがこれに署名をしている。また、欧州最大のDIY(日曜大工用品店)であるB&Qなどの木材取扱企業は、主として熱帯広葉樹のFSC(森林管理協議会)認証材の供給力を増やすため、熱帯林トラスト(TFT)という枠組みを設立している。

巨大市場・日本への期待

 日本も、欧米に並ぶ木材の巨大消費市場である。インドネシアやロシアなどの違法伐採が問題となっている国や、カナダやオーストラリアなど原生林伐採が問題となっている国からの木材も大量に輸入している。大口の需要者である企業や行政は率先して、木材や紙のグリーン調達に取り組むべきである。とりわけ紙はあらゆる業種で使用され、組織や事業規模が大きいほど使用量も多い。

 まずは、調達方針を策定し、仕入先や顧客に対して通知するところから始めるべきだ。調達物品をリストアップし、それぞれの判断基準を作るとともに、現状のサプライチェーンを把握し、トレーサビリティを確立する。また、期限付きの改善計画を立てて実施体制を整え、達成状況は環境報告書などで定期的に公表することが大切だ。

 日本と並び大きな木材需要を持つ欧米各国では近年、需要側からの取り組みが盛んになってきている。

 昨年6月、リコーが「紙製品に関する環境規定」を策定し、紙製品の仕入先に対して保護価値の高い森林の保護を求める調達方針を発表した。同社にはこの着実な実施を期待するとともに、他の企業にもぜひこのような取り組みを進めていただきたい。

 われわれは、地球上に残された2割の原生林がゼロになるまで伐採し続けてはならない。残された貴重な森林を保全しつつ、二次林や人工林で持続可能な森林管理をしながら木材利用をしていかなければならない。

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