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『エネルギー白書2015』によると、2013年度に日本で利用されたバイオマスエネルギーは原油換算1,216万klで、一次エネルギー国内供給量に占める割合は、2.2%だった。世界的に、バイオマスは再生可能エネルギーの中で最も多く利用されているが、日本においても同様である。また、2011年度の日本のバイオマス・廃棄物のエネルギー利用の概要は、図1の通りである。製紙業で半分以上が使われ、次に清掃工場が2割弱となっている。今後は、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)による発電が増加するものと考えられる。ただし、世界的には、バイオマス利用のほとんどは熱利用である(図2)。
(作成=ポンプワークショップ)
FITが2012年7月に開始されて、3年が経過した。当初、認定・稼働は太陽光発電に集中していたが、次第にバイオマス発電も増加し、2015年4月末時点で認定件数は284件、認定容量は約200万kWに上り、その中でも未利用木材と一般木質バイオマス発電が約170万kWと8割以上を占めている(下表)。
メタン 発酵 |
未利用木質 | 一般木材 | リサイクル 木材 |
廃棄物 | 合計 | ||
2,000kW 未満 |
2,000kW 以上 |
||||||
稼働件数 | 50 | 3 | 12 | 8 | 2 | 31 | 106 |
認定件数 | 111 | 6 | 45 | 50 | 4 | 68 | 284 |
稼働容量kW | 11,294 | 2,345 | 82,236 | 68,276 | 3,867 | 101,463 | 269,481 |
認定容量kW | 35,179 | 3,865 | 365,550 | 1,370,681 | 11,377 | 297,462 | 2,084,114 |
出所:資源エネルギー庁
170万kWの木質バイオマス発電では、年間3,000万m3の木材が必要になるが、これは、日本の木材生産量の1.5倍に相当する膨大な量である。さらに、2015年7月に経済産業省が発表した2030年までの「長期エネルギー需給見通し」において、木質バイオマスの一般木質発電は、最大400万kWと見込まれている。これに要する木材は、約8,000万m3である。世界の産業用丸太貿易量が1億3,000万m3であることを考えると、実現不可能な数字である。
日本の国土の3分の2は森林で、人工林を中心とする森林成長量は8,000万m3にも上るが、木材生産量は、2,000万m3程度にとどまっている。林地の半分以上で所有者や境界が確定されていない、伐採しても利益が見込めない、国内の木材需要は右肩下がり、日本の林産業は近代化が遅れ、「産業」ではなく「公共事業」の色彩が強いなど、さまざまな要因が重なってのことだが、木質バイオマス発電は、停滞した林業の「救世主」となるのでは、と期待された。
しかし実際には、大量の燃料用の低質材を安価に集めることは非常に難しい。多くの地域では1〜2万m3程度が収集可能な量とされているが、5,000kW規模の木質バイオマス発電で必要となる木材の量は、10万m3に上る。ここ1、2年の研究では、5,000kW規模の未利用木質バイオマス発電は、事業リスクが非常に高いことが明らかとなった。
FIT制度での「未利用材」には、間伐材の他、国有林や森林経営計画対象林からの材であれば、主伐・皆伐材も入る。主伐材の方が間伐材より伐採搬出コストが低いため、すでに稼働している「未利用」木質バイオマス発電では、燃料の8割近くが主伐材という事例も出ている。
主伐・皆伐材が拡大する一方で、財政難などから、林務課のマンパワーが1名程度の自治体も多く、また、専門知識に欠けることもあり、伐採届や再造林・天然更新のチェックなどを行うことが難しい。そのため、県などがフォローしながら、何らかの方法で伐採や伐採後のチェックをきちんと行う必要があろう。でなければ、伐採後に十分植生が回復せず、水害の原因などになる恐れがある。
さらに、現在のFIT制度では、バイオマス発電による電力買い取り価格は、大規模発電については規模別となっていない。このため、規模の経済が働くバイオマス発電では、大規模になるほど、有利になる。とくに石炭火力へのバイオマス混焼発電では、発電コストが13円/kWh程度にもかかわらず、24円/kWhで買い取られるため、過大な国民負担となる恐れが大きい。早急に、規模別の買い取り価格設定が求められる。
また、国内の木質バイオマス調達には限界があることから、海外からの輸入が始まっており、このままだと世界の木材・バイオマス市場に大きなインパクトを与えかねない量が輸入される可能性がある。バイオマスは、カーボンニュートラル(炭素中立)で温暖化の原因とならない、と言われているが、利用量と同量の炭素が、森林や農地で固定されなければ、カーボンニュートラルとはならないし、生産・輸送・加工において化石燃料が使われれば、その分、温暖化対策効果は低くなる。
バイオ燃料ブームの際に世界的に問題となったが、大量のバイオマス利用は、生産地の生態系や地域社会に大きな負の影響を及ぼす恐れがある。そのため、国際的に持続可能性基準の導入が進められている。日本では、液体バイオ燃料の持続可能性基準はすでに法制化された※が、固体バイオマスについては、まだ導入されていない。欧州ではすでに導入が始まっており、欧州で「持続可能でない」とされたバイオマスが日本に輸入されるリスクもある。こうしたことから、早急に、固体バイオマスの持続可能性基準も導入すべきと考えられる。
バイオマス発電では、5,000kW規模でも発電効率は20%台でしかない一方で、熱利用では、薪ストーブのように小型であっても熱効率は80%程度である。無理に発電や液体化するよりも、とくに間伐材のように大量に集めるのが難しい資源は、ボイラーやストーブなどの熱利用に適している。
日本では、エネルギー=電力、という思い込みが強いが、日本のエネルギー最終消費の半分は、暖房、給湯、調理、工場での熱利用などの熱であり、電力は20数%でしかない。今後のエネルギー政策を考える上でも、バイオマスに限らず熱利用をどう効率的に行うかが、重要である。
日本のバイオマス利用はこれまでも迷走してきたが、現在も大きな問題を抱えた政策が進められている。商用化が容易な技術を中心に、費用対効果に優れ、効率の高い利用方法を促進すべきと考える。
※液体バイオ燃料の持続可能性基準導入には、バイオマス産業社会ネットワーク、地球・人間環境フォーラム、FoE Japanなどによる「持続可能なバイオ燃料キャンペーン」が大きな役割を果たした。詳細は、http://www.npobin.net/Biofuel.htm参照
本稿の詳細については、『バイオマス白書2015』参照