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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第143回 東京はロンドンを越えられるか―より持続可能な大会を目指して

  • 2015年12月10日

東京はロンドンを越えられるか―より持続可能な大会を目指して 自然エネルギー財団 常務理事大野 輝之さん

都市のイニシアチブ、NGOの役割

 最近では、オリンピック大会の準備と開催にあたって、国際オリンピック委員会(IOC)が、環境や持続可能性を重要な要素の一つとして位置付けていることは、比較的よく知られてきている。あまり知られていないのは、環境が大切な要素と認識されるようになったのは、IOCのイニシアチブというよりは、過去の開催都市の取り組みによるものであり、その背景には各国、各都市のNGOの活動があった、ということである。

 オリンピック、とくに冬季オリンピックは、大会施設の建設による自然破壊が長らく批判の対象になっていた。1992年のアルベールビル・オリンピックが「ローヌ川上流を運河に変えた」と厳しく批判された後、1994年のリレハンメル・オリンピックが、初めて「持続可能な大会」の理念を掲げた。この後、夏の大会としては2000年のシドニー・オリンピックが初の「グリーンゲーム」として開催された。

 開催都市において大会プランニングの当初から、NGOも深く関わりながら持続可能なオリンピックを実現していった過程は、別に書いたので、ここでは詳述しない(季刊『環境研究』2014/No.175参照)。大事なのは、オリンピック大会が持続可能なものになるかどうかは、IOCに依存するのではなく、開催都市のイニシアチブにかかっているということを、東京大会が5年後に迫った今の時点で再確認することだ。また、そのためにもNGOを含む幅広いステークホルダーの参加を得ながら、準備を進めることの重要性を東京オリンピック組織委員会も含めた共通認識とすることだ。

 著者は2006年から、東京都環境局においてオリンピック招致の環境施策面を担当した。現在は、公益財団法人 自然エネルギー財団において、NGOの立場から持続可能な東京オリンピックの実現に取り組んでいる。この小論では、2016年オリンピック招致に取り組んだ時から、東京都が持続可能性の問題やNGOの参加にどんなスタンスで臨んできたのかを振り返り、最後に、現在、何が必要なのかを述べてみたい。

東京招致への環境の視点の導入

 2016年オリンピックの立候補ファイルの作成にあたって、2006年当時、まず参考にしたのは前年2005年に2012年オリンピック招致に成功したロンドンの取り組みである。ロンドンの立候補ファイルには、WWFなどのNGOが提唱した「地球1個分のオリンピック」を中心的なテーマとして、オリンピックパークの電気はすべて再生可能エネルギーで供給し、うち2割はオンサイトで、その他はオフサイトの風力発電などから供給する、廃棄物ゼロの大会の実現など、極めて意欲的な目標が掲げられていた。

 この年の10月には環境局の調査チームとしてロンドンを訪問した。活動を始めたばかりだった組織委員会、NGO、大ロンドン市、さらに招致活動を担当したコンサルタント会社などを訪ね、オリンピック招致活動の中で、いかに環境や持続可能性が重要な要素か、ロンドンの経験を調査してきた。2009年2月にIOCに提出した2016年オリンピックの立候補ファイルは、こうした経緯を踏まえ、「環境最優先のオリンピック」を提唱するものになった。

 東京都の2016年招致活動に関して明記しておきたいのは、これらの環境対策の作成にあたって、外部専門家とともに環境NGOの参加を求めたことであった。これは、ロンドンのオリンピック招致が最初の段階からバイオリージョナルやWWFといったNGOの参加を得て行われたことに学んだものである。設置した「2016年東京オリンピック環境ガイドライン専門家会議」には、都市づくり、環境アセスメントなどの分野の専門家とともに、5団体のNGOからの参加を得た。また、これとは別に「2016年東京オリンピック・パラリンピックNGO会議」を設置し、WWFジャパン、グリーンピース・ジャパン、気候ネットワークなど11団体のNGO がメンバーとして参加した。リレハンメル・オリンピック以来の経緯を見れば当然ともいえるが、東京でもこうした取り組みが始まっていたことは記録に値するものだと思う。

 2020年東京オリンピック招致を目指した立候補ファイルの環境項目の内容は、基本的に2016年に向けた立候補ファイルを引き継いだものである。そこには、先行したロンドンの取り組みを超えることを目指し、省エネルギー化や自然エネルギー利用などに関する、積極的な目標が提起されている。東京オリンピックが開催されるのはロンドン大会から8年後であり、エネルギー効率化や自然エネルギー技術における、ここ数年の、そして今後数年に進むであろう急速な進化を考えれば、立候補ファイルの意欲的な目標を達成することは、簡単ではないだろうが、技術的には十分に可能だ。

 むしろ、達成のカギを握るのは、オリンピックにおける持続可能性目標の重要性を認識し、これをこれから本格化する大会準備のプロセスに明確に位置付けられるか、という点である。2020年オリンピックへの立候補ファイルには、2016年招致のときに設置した上記二つの組織を継続し、環境対策が確実に実施されるようにすることが明記されている。

WWFと自然エネルギー財団の共同声明

 本年(2015年)4月、WWFジャパンと自然エネルギー財団の共催で、「東京はロンドンを超えられるか—より持続可能なオリンピックをめざして—」と題するシンポジウムを開いた。その内容は各プレゼンターの発表資料、動画、インタビューとともに自然エネルギー財団のホームページでご覧いただける。ここでは、当日発表した共同声明の内容を簡単に紹介しておきたい。具体的な提言は以下の3点である。

  1. 大会開催にあたって、環境負荷を最小限に抑える持続可能性マネジメントの仕組みと実践例をつくるとともに、開催を契機に大会のレガシーとして、国内で広く導入され、日本が持続可能な社会に大きく近づく変革の契機としていく。また、その取り組みを国外にも広く発信する。
  2. マルチ・ステークホルダー形式で、大会組織委員会、東京都と環境NGOを含む各種関係者が積極的に持続可能性方針・計画・目標の設定についての合意形成を図り、また、その進捗の測定と成果の発信において協働し、大会の持続可能性マネジメントを成功させる。
  3. 大会の準備、開催、閉会後のレガシー形成の全プロセスを通じて、自然エネルギーの最大限の活用・スマートな消費活動・持続可能な調達方針の採用・生物多様性の保全・環境教育を促進し、持続可能性の重要性に関する日本での普及啓発の機会としていく。

 この中で最も重要なことは、マルチ・ステークホルダー形式によるNGOを含む合意形成と協働を提案していることだ。上述のように、東京でも2016年オリンピック招致の時点から、それまでのオリンピックでの経験を学び、NGOなどの参加を得ることの重要性が認識されていた。残念ながら、招致決定後の組織委員会の取り組みからは、少なくともこれまでのところ、こうした点への留意があまり見られないように思える。

 ロンドンを超える持続可能なオリンピックを東京で実現する技術は、もちろん日本にある。実現に向けた意欲も、企業やNGOの中で高まっている。問題は大会の運営主体がそれを受け止めることができるかだ。まだ時間はあるが、そんなに余裕はない。2020年オリンピックがロンドンを超えられるか後退するのか、今、その岐路にあることは間違いない。

グローバルネット:2015年8月号より


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