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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第138回 食品メーカー、卸、小売店における取り組み~食品ロス削減のために商習慣を検討

  • 2015年7月9日

食品ロスをなくそう~「もったいない」に取り組む企業、行政、消費者 食品メーカー、卸、小売店における取り組み~食品ロス削減のために商習慣を検討

食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチームとは

 世界で食料生産量の3分の1の13億tが毎年廃棄されている。人口増加とそれに対して食料生産の増加率は追いつかず、今後食料需給は厳しくなるのが必至である。そのため食品ロス削減は世界で課題視されつつある。

 「もったいない」という言葉を生んだわが国でも、農林水産省の推計で年間500~800万t(事業系300~400万t、家庭系200~400万t)発生しているとされる。これは世界の年間の食料援助量に匹敵する。食品ロスはわが国においても大きな問題である。

 国内事業系の食品ロスの一部は流通過程で生じる。例えば、小売業などの流通業から食品メーカーに商品が返品されると、衛生上多くは再販されず、廃棄処分される。こうした食品の返品は年間約800億円に達している。返品以外にも、規格外品、売れ残り、食べ残し、生産過程での過剰除去、直接廃棄などにより食品ロスが出る。これが事業系300~400万tの食品ロスにつながっている。

 流通における食品ロスの一部は、食品流通事業者の商慣習が原因で発生している。例えば欠品(品切れ)の許容の程度の問題がある。欠品を防ぐには、発注変動を見込み、常に実需を上回る在庫を持たねばならず、商品が余りやすくなる。わが国の欠品許容基準は諸外国と比べ極めて厳しい。安全在庫を原因とした食品ロスが一つの例だ。小売店頭で、頻繁に商品が入れ替わることも食品ロスを発生させ得る。販売棚から排除された商品は、まだ流通過程にある在庫共々行き場を失う。それがやがて食品ロスとなる。

 こうした流通でのロス削減のための議論が始まった。その一つが「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」(WT)である。食品メーカー、卸、小売業20社(一部業界団体委員含む)で商慣習の見直しを検討しており、筆者は事務局を務めている。個別企業等の取り組みでは解決が難しく、フードチェーン全体で解決していくことが必要となる過剰在庫や返品等によって発生する食品ロス等を削減するため、食品メーカー・卸売業・小売業が業界を越えて集まり、問題や情報を共有し、商慣習の改善策を話し合っている。

 WTでは、食品流通の商慣習における論点を整理し、優先順位が高く、連携すべき重点テーマとして、(1)卸売業・小売業の多くで取引条件として設定されている納品期限の見直し・再検討(2)賞味期限の延長、年月表示化の推進(3)日配品の食品ロス削減(4)消費者理解の促進―を定め取り組んでいる。

納品期限の見直しに向けたプロジェクトの実施に至るまで

 WTが取り組むテーマに納品期限がある。小売業は消費者への安心・安全の確保に向けた商品管理のため、納品期限や販売期限を設定する。納品期限とは商品を小売業に納入するまでの期限、販売期限は小売業が商品を店頭から撤去する際の期限である。小売業の設定に合わせて、卸売業も設定する。

 納品期限・販売期限とも、製造日から賞味期限までの期間を3等分して設定される場合が多く(いわゆる3分の1ルール)、納品期限までに納入できない商品、販売期限までに売れない商品が食品ロスになるとされる。多くの企業で採用され、物流などのオペレーションにおける「標準」となった。しかし、3分の1が合理的との根拠もなく、海外と比べて厳しいとの指摘もあり、食品ロス削減に向け見直しが必要との意見があった。1社では解決が難しく、フードチェーン全体で取り組むために、WTで取り組むことになった。

 しかし、納品期限は長年の商慣習で、消費者に対する商品鮮度確保に一定程度必要な重要なものでもある。商品鮮度の低下やオペレーション変化に伴う混乱を心配する意見もあり、改善に向けて十分な分析を実施するために、WTは業界を挙げた実験・検証を提案した。業界の主要35社(表)の賛同があり、パイロットプロジェクトを行う運びとなった。

納品期限見直しパイロットプロジェクトの枠組みと成果

 清涼飲料(細かい設定は企業により異なるが、おおむね常温で流通させるドライ飲料が対象で、紙パックを除いている)と菓子を対象に、実施期間中(2013年8月から半年程度)、飲料・菓子の一部品目の店舗への納品期限を現行より緩和し(賞味期限の3分の1残し→2分の1残し等)、それに伴う返品や食品ロス削減量を効果測定した。 小売業では店舗納品期限を緩和した結果、店頭で販売期限切れ商品が増加しないか確認した。小売業の物流センターを運営している卸売業では、小売業と連携し、物流センターにおける「納品期限切れ発生数」と物流センターからメーカーへの「返品数」の変化を検証した。メーカーでは、全国の小売業が納品期限を緩和した場合に、出荷可能商品が増える結果、追加的に行う「鮮度対応生産量」をどの程度削減し得るかシミュレーションし、算出した。

 納品期限見直しパイロットプロジェクトの結果は、メーカーの追加的な生産と、物流センターからの返品を相当程度削減し得ること、その結果を全国に引き延ばした場合、食品ロス削減に相当の効果(飲料と賞味期間180日以上の菓子で約4万t)があることがわかった。小売業の報告によれば、飲料および賞味期間180日以上の菓子について、販売期限切れによる廃棄増や値引ロス等の問題は発生しなかった。消費者からの「日付が古い」などの指摘はなく、現場での納品・荷受業務に支障は出なかった。一方、賞味期間が180日未満の菓子については、納品期限の緩和により小売店舗での廃棄増等が出る場合も見られた。だた、その場合もそれを上回るロス削減効果が物流センターで確認され、フードチェーン全体では食品ロス削減の可能性があることがわかった。

納品期限見直しパイロットプロジェクト参加企業(35社)

業種 企業名
小売業 スーパー イオンリテール、イズミヤ、イトーヨーカドー、東急ストア、ユニー
コンビニエンスストア セブンイレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソン
卸売業 伊藤忠食品、加藤産業、国分、コンフェックス、昭和、高山、 トモシアホールディングス、ドルチェ、ナシオ、日本アクセス、ハセガワ、三井食品、三菱食品、ヤマエ久野、山星屋
実証参加メーカー 飲料 アサヒ飲料、伊藤園、キリンビバレッジ、サントリー食品インターナショナル、日本コカ・コーラ
菓子 江崎グリコ、亀田製菓、不二家、ブルボン、明治、森永製菓、ロッテ

その後の動きと今後の展望

 パイロットプロジェクトの成果を踏まえて、WTとして飲料および賞味期間180日以上の菓子について納品期限を2分の1等に見直していくべきと提言した。これを受け、新基準の実運用が拡大している。イトーヨーカドー、東急ストア、ユニー、セブンイレブン・ジャパンで、商品・時期は異なるが、2015年2月末までに、納品期限の新基準での運用が始まっている。

 コンビニの業界団体、日本フランチャイズチェーン協会は、加盟企業に取り組みを推奨、ローソンやファミリーマート等これに賛同した企業が、新基準への転換時期・品目・地域に関する具体的計画を策定した。新基準に転換していない企業でも、社内や得意先を交えて検討・議論が進みつつある。なお新基準に転換した企業で問題は生じていないようである。

 WTとしては、一連の企業・団体の取り組みを評価し、続く企業を創出したい。飲料・菓子(賞味期限日数180日以上)の納品期限見直しの提唱を続け、賛同する業界団体と連携し、加盟企業への呼びかけを強化する。また、対象商品拡大を目指し、必要に応じパイロットプロジェクトを行い、実施効果とリスクを検証、「効果ある」「問題がない」が検証できれば、取り組み拡大へとリードしたい。何より、取り組み企業が注目され、取り組み意義が理解されることが重要で、そのための仕組みづくりや消費者に向けた情報発信にもこれまで以上に取り組みたいと考えている。

グローバルネット:2015年3月号より

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