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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第134回 社会福祉施設を元気にする生物資源の活用

  • 2015年3月12日

社会福祉施設を元気にする生物資源の活用

 イギリスにプレイグループという活動があります。保育園や幼稚園があまり普及していないということで、親たちがその空白を埋めようと、週に3回、広場や自然の中で子供たちを遊ばせる活動です。リスやウサギと遊んだり、自然の中で遊び回ります。

 日本では駅中保育園が人気です。出勤する時に子供をぽんと駅の中の保育所に預ければいいので便利です。鉄道の好きな子供は育つかもしれないけれども、果たして自然のない人工的な空間で育った子供たちの将来が心配になります。

 今回のテーマである福祉施設での生物資源の活用ということを考えると、保育所の保育士さんにしても、特別養護老人ホームの介護士さんにしても、どうも生物のことは苦手だという人がかなりいるのではないかと思います。幼稚園の教育要領にも保育園の保育指針にも自然に対する理解を深めようと書いてあります。しかし、実践の場を見ると、極めて不十分だと思っています。

生物資源との関わり

 兵庫県西宮市は環境学習都市を宣言している日本唯一の市です。保育士さんは、自然の中での環境学習を行う研修プログラムを必ず受けます。保育園では農作業、川の観察、山に登って自然観察をする環境学習が行われています。社会福祉施設等においても生物資源を活用すれば、大変有効なことがたくさんあります。

 私のふるさとである富山県で、同級生の会社社長が非常に使いやすいビオトープを開発しました。人工的に作った自然で、主に池のような水辺を作ります。夏ならホタルが出る、魚やアメンボが泳ぐ、鳥が来るようにする。県内の氷見市にある速川保育園に導入して大変効果が上がっています。今年の2月に同保育園は日本生態系協会から自然体験の優れたケースとして表彰されています。

 セラピー犬が入所者に安らぎを与えているケースもあります。大阪府岸和田市の阪南福祉会の運営する児童養護施設では、虐待で心に傷を負った子供たちが、セラピー犬と戯れて遊びます。子供たちに大変良い効果があって、傷ついた心が癒されているそうです。東京杉並区にある社会福祉法人浴風会でも、セラピー犬を導入しています。高齢者はセラピー犬をかわいがって、認知症にも良い効果を与えています。

 私が理事長をしている社会福祉法人済生会は、世界で一番大きい非営利の医療と福祉を行う団体で、山形市に特別養護老人ホームを経営しています。そこでは草花を育てる園芸療法で、認知症の高齢者に対する効果を実証しています。

障がい者が自然のままに地域で一緒に暮らしているドイツ

 今年の6月にドイツ・ベルリンに行ってきました。現在のヨーロッパでは、障がい者も健常者も対等な関係にあるとするノーマライゼーションの思想から、ソーシャルインクルージョンの理念に100%変わっています。ソーシャルインクルージョンというのは、障がい者を地域社会の中に組み入れて一緒に暮らそうという理念ですが、もう、自然のままで一緒に暮らしているというのが今のドイツです。日本の障がい者政策とは大きな違いがあります。それではこれをどうしたらいいのか。普通の人と同じように障がい者が就労することが基本になると考えます。

 北海道の新得町にある農事組合法人共働学舎は今年の6月に25周年を迎えました。70人の障がい者や引きこもりだった若者が共同生活をしています。お金を稼ぐために、酪農を始め、今ではJALの国際線のファーストクラスで出されるチーズを作るほど、成功しています。6月にはフランスのジャルダン・ド・コカーニュという組織の代表者を招きました。ジャルダンは刑務所から出所した人など約3,000人が農業で成功している例です。共働学舎はジャルダンと農業製品の交換をして、お互いの付加価値を高めていこうということになりました。

生物資源をより活用するための提案

 社会福祉施設での生物資源の活用を広げるためにはどうすればいいのでしょうか。いくつかのことを提案したいと思います。まずは活用方法の開発が必要です。これは、身近にあるものを利用することが第一です。施設の周りにあるものを利用する。栃木県の野木町にある社会福祉法人パステルでは、従来からあった桑畑の葉っぱを利用して、クッキーやパンを作っています。町おこしにも役立つということで、隣の小山市も巻き込んだ大きなプロジェクトに発展しています。

 第二番目の要素として、こういう発表の機会に成功例、先進的な実践例を紹介していきたいと思っています。外国では成功例が多いのに、日本での成功例は限られている。日本は福祉は福祉、生物の問題は生物と分けて考えられていることが原因ではないかと思います。それから何よりも、先進的な事例に、社会福祉施設の経営者が理解を持つかどうか。冒頭で話した速川保育園のビオトープは、富山県の教育委員会から補助は出ていますが、やはり持ち出しがあるので、経営者の理解がないとなかなか導入はできないのです。

 そして最後に、行政上の支援が重要ではないかと思います。私自身も役人でしたが、役人で福祉をやっている人に、やはりもっと関心を持ってもらう必要があるのではないかと思います。環境部局との連携も大事です。その点でうまくいっているのが兵庫県西宮市です。約10年前、私が環境省の事務次官をやっているときに環境学習都市宣言をしました。昨年の12月に10周年を迎え私も再訪しましたが、福祉の関係者、とくに冒頭に話した保育士さんも熱心に環境学習を重ね、園児たちが自然環境に触れる取り組みを続けており、大変心強い思いをしました。

グローバルネット:2014年11月号より


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