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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第129回 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)における最新の気候シナリオについて

  • 2014年10月9日

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)における最新の気候シナリオについて

 大気中の温室効果ガスが人間生活によって増えて地球温暖化が起こるのですが、それは地球から宇宙に赤外線という形でのエネルギーが出て行きにくくなるためです。そうして、地球の温度が全体的に長期的に上がっていきます。実際には温度が上がるだけでなく、氷が溶けたり海面が上昇したり、雨の降り方が変わったりします。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)というのは、地球の温暖化について、何がどれくらいわかっているのか、あるいはわかっていないのかを科学的に評価する国連の機関です。各国政府の依頼を受けた科学者が集まって評価報告書を作成し、科学的な情報を国連や各国政府の政策決定者などに提供しています。IPCCの第5次評価報告書が昨年から順次発表されており、私は温暖化の科学的根拠について書かれた第一作業部会の執筆者として参加しました。

 世界中の科学者が、物理法則に基づく気候モデルを用いて、1950~2100年までの世界平均気温の変化をシミュレーションしています。過去について、温室効果ガスの変化、太陽活動、火山の噴火などのデータを入れてコンピュータで計算すると、実際に起こった温度上昇が再現されます。

対策取らないと2100年に平均気温が4℃、海面は約80cm上昇

 将来どれぐらいの温室効果ガスを出すのか、四つのケースについて予測しました。社会がどれくらい発展し、どれくらい対策を取るか、どれくらい温室効果ガスを出すかで温度の上昇は違ってきます。

 温度上昇が一番高いケースは人類が有効な温室効果ガスの排出削減対策をしなかった場合で、2100年まで経つと世界の平均気温は4℃前後上昇するという予測です。
 徹底的に温室効果ガスの排出削減対策を行ったケースでは2050年に世界の平均気温の上昇は止まって、それから横ばいになります。

 海面上昇についても四つのケースに分けて2100年までの世界平均の海面水位が予測されました。

 有効な対策が取られなかった場合、今世紀末までに世界の平均の海面水位は60~80cmくらい上昇すると予測されています。徹底的に対策を取った場合の気温上昇は2050年くらいで止まる予測でしたが、海面水位は止まらずに上昇が続いて2100年で40cm前後となります。これは気温の上昇が止まっても海では吸収した熱がだんだんと深い所に伝わっていって、深い所の海水が少しずつ膨張していくためです。

 海面上昇の一番大きな原因は海水の熱膨張です。次に氷河の融解、そしてグリーンランドと南極の氷床の融解です。氷河が滑り出して氷のまま海に落ちていくような力学効果が加速すると考えられ、前回の報告に比べて大体20cmほど多く上昇すると見積もられています。

 それでは、温室効果ガス排出削減に関する社会的な判断はどうなっているかというと、現在、国連で気候変動枠組条約の締約国会議(COP)で次のように合意されています。

 「産業革命以前からの世界平均気温の上昇を2℃以内に収める観点から、温室効果ガス排出量の大幅削減の必要性を認識する」

 これは科学的に明らかになったことを総合的に考えて、社会的あるいは政治的に判断された目標だと受け取ることができます。

 2℃以内の上昇を達成するためにどれくらい温室効果ガスの排出量を削減しなければいけないのかというと、世界全体の排出量をなるべく早く下げていって、例えば2050年までに現在の半分ぐらいにする必要があります。これは実は安倍晋三首相が前回首相だった時に「世界がこういう目標を持つべきではないのか」ということを提言されています。しかし、その先を見ていくと、今世紀末には世界全体でゼロに近づくことを目指さなければいけないということになります。

 つまり、世界全体で温室効果ガスを出さないような、新しい世界、新しい文明、そういう状態に人類は移行しなければいけない、ということです。これは技術的にいろいろなアイデアもあるのですが、決して簡単にやれるような話ではありません。

 IPCCの第1作業部会の報告書の要約の最後に「世界平均気温上昇量は二酸化炭素(CO2)の累積排出量と比例する」との新見解が示されています(図)。「CO2の累積排出量」というのは、人類の出したCO2の総量です。これによって気温が何℃上がるかということがだいたい決まります。横軸がCO2累積排出量で、縦軸が世界平均気温変化です。この数字を読み取ると、産業化前からの世界の平均気温上昇を例えば50%の確率で2℃以内に抑えるとすると、人類が合計で排出できるCO2の量は820GtC(1GtC=10億炭素t)という数字になります。2011年までの排出量は515GtCなので、差し引くと残りは約300GtCです。現在、世界で排出しているのが年間約10GtCなので、その排出量が毎年続いたとして30年程度でこれを超えてしまいます。

図 世界平均気温上昇量は二酸化炭素(CO2)の累積排出量と比例する
(作成=ポンプワークショップ)


どのリスクを取るか判断を

 気候変動、地球温暖化の問題には単純な正解はないのではないかと、私自身は最近思っています。温暖化は放っておくと悪影響がある。しかし、温暖化を止めようとして「2℃」といった理想的対策を急激に行うと、さまざまな無理が生じるのではないか、ということもあります。

 対策を急ぐことによって問題とされるのが経済的なコストですが、他にも原発などの個々の対策技術が持つリスクがあります。バイオマス燃料が一つの対策の候補に挙がってきますが、たくさん作ると土地が足りなくなり食料が高くなるかもしれません。また社会構造、産業構造を急に変えようとすると、さまざまな社会的な混乱が起こるかもしれません。

 一方で対策をたくさん取ることで省エネやエネルギー自給率の向上とか、大気汚染の抑制、あるいは新たなビジネスチャンスになるのではないかということもあります。ですので、われわれはこれらを全部見て温暖化という問題にどう対処していくか、どのリスクを取ってどう管理していくか、という判断をしなくはいけないのです。

 しかも、どの影響が出るかというのは国によっても地域によっても世代によっても違うので、温暖化を放っておいても、言ってみれば得をする人と損をする人が出てきますし、急激に止めようと思うと逆に別の人たちが得をしたり損をしたりします。そういう複雑な利害構造になっています。あるいは温暖化は損得だけではなくて生態系のことをどの程度心配するか、将来世代のことをどれくらい心配するかなど、価値観も関わります。

 温暖化問題は、温室効果ガスの排出削減を世界全体でどれくらい、どういうやり方で進めるかということも含めて、非常に大きな規模感を持った問題だと認識して、本日の話を聞いていただければと思います。

環境省・中部地方環境事務所主催セミナー「地球温暖化適応策セミナー 私たちは異常気象にどう立ち向かうのか」(2014年3月10日 名古屋市内にて開催)より

グローバルネット:2014年4月号より


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