このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。
東日本大震災に伴う津波や地震動によって2,000万tあまりの災害廃棄物が生じました。そのほとんどは依然として仮置き場に山となって残っており、その後の処理は遅々として進んでいません。その原因の一つに、原発事故により生じた放射能汚染の影響が挙げられ、問題解決を複雑かつ困難にしています。
私たちは、震災直後から被災地に足を運び、現場で起こっている問題を把握して、全国の専門家ネットワークを使って技術的な解決策を取りまとめ、被災地に発信し続けてきました。科学的な知見がない問題については、自ら研究を行って根拠となるデータ等を提供してきました。また、放射性物質に汚染された廃棄物が東日本の広い地域で生じたため、どのように安全にかつ適切に処理を進めていけるか、焼却処理や埋立処分過程における放射性セシウムの挙動を把握するための研究を進めました。それらは、国の法律における基準や指針に反映されています。
震災直後に問題になったのは、とくに宮城県の水産加工場から発生した水産廃棄物の問題でした。腐敗によって悪臭がひどく、衛生上の問題が生じました。消石灰散布による腐敗防止、適切な埋設処分、海洋投入処分の提案などを行い、一部は実際に海洋投入処分が行われました。
海水をかぶった塩分を多く含む廃木材等は焼却処理の際にダイオキシン類等の生成が懸念されました。実験プラントや実際の焼却施設での試験により、適切な条件を確保すればダイオキシン類の生成を抑制できることを示しました。
仮置き場に山積みにされた廃棄物が微生物の作用で分解し、発熱して熱が蓄積することで、火災に至る可能性がありました。5m以上に積み上げないこと、温度や一酸化炭素をモニタリングすること、延焼防止のために山を小分けにすることなどを、仮置き場に足を運んで指導助言しました。その他、アスベストを含む廃棄物の事前判別や分別方法なども示しました。
このように、多くの現場課題に対する解決策を示しましたが、非常時の中で力及ばず、問題解決につながらなかったことも多くあります。今後の課題として、仮置き場に置かれている廃棄物の適切な処理、とくに被災地の復興にも役立つ再生利用を早急に進めていくための技術的方策を提示していくことが重要です。
原発事故に伴い放出された放射性セシウムは、東日本の広い地域に風に乗って拡散し降雨に伴って地上に降下沈着しました。福島県内では災害廃棄物が汚染されています。また、放射線量の高い地域では、雑草除去や剪定により生じた草木類が一般ごみに混入し、焼却処理の際に放射性セシウムが濃縮され、高濃度の焼却灰が生じています。
放射性セシウムが付着した土壌粒子は汚濁物とともに下水道に流入し、終末処理場において下水汚泥に濃集しました。上水の場合も同様に、取水域に懸濁物(主に細かい土壌粒子)が流入し浄水過程で除去された上水汚泥中に濃集して問題になりました(図1)。
私たちは、このような放射能汚染廃棄物の処理過程における放射性セシウムの挙動解明に関する研究に取り組んでいます。セシウム化合物の揮発のしやすさを表す蒸気圧、水への溶けやすさを表す溶解度、焼却灰などからの溶出性、土壌への吸着能など基本的な物性を、理論的考察や実験的検討により明らかにしました。
また、実際の焼却施設の詳細調査や埋立処分における放射性セシウムの長期的な挙動シミュレーション解析、浸出水処理施設での実証試験によって、放射性セシウムが制御できることを示しました。その他、廃棄物等の放射能調査分析法に関するマニュアルも整備しました。
しかし、放射能問題等への国民の不安感を解消するために、私たち研究者は今後も一層努力する必要があります。科学的知見をわかりやすく情報提供し、リスクコミュニケーションの手助けをしていく役割を果たさなければならないと考えています。