イギリスの大手メディアThe Guardianが、シリコンバレーの一部テクノロジーリーダーたちが目指す「完全自動化社会」についてのオピニオン記事を掲載しました。
著者であるエド・ニュートン-レックス氏は、サンフランシスコのあるベンチャーキャピタル主催のディナーに参加したそうですが、その中で「AIによって世界中の労働者をすべて置き換える。つまり彼らの賃金をすべて得ることができる」と語られていたと報告しています。
AIによって仕事が奪われるとは、これまでにも散々言われてきたことですが、「すべて」となると話は別。
しかも、これは夢物語ではなく、現実的に進められているんですよ。
経済の完全自動化に向けて動いているのはスタートアップの「Mechanize」。なんとイーロン・マスクやビル・ゲイツ、Googleのチーフサイエンティストであるジェフ・ディーンまでもが支援しているんですって。
AIが考え、ロボットが動き、すべての労働を機械が担う未来を目指しているそうです。
今ですら、BMWの工場では人型ロボットが100以上の作業をこなしていますし、サンフランシスコの街には自動運転車が普通に走っています。
人間が担っている仕事を1つずつ置き換えていけば、近い将来、すべてが機械仕掛けになっていってもおかしな話じゃないのでしょうね。
でも、そういう未来はちょっと怖いかも…。
The Guardianの記事では、完全自動化によって人々の仕事が消失し、所得格差が拡大する懸念が示されています。
先ほどBMWの工場の話を例に挙げましたが、製造業や小売業のような単純労働はもちろん、会計や事務といったオフィスワークまで、次々と効率化されていっています。
仕事が消えていく社会で、人々はどう生きればいいのでしょうか。
その解決策として、ベーシックインカム(UBI:Universal Basic Income)の導入が議題に上がることがしばしば。政府がすべての国民に一定額の所得を無条件で支給するこの仕組みは、仕事がなくなっても生活を保障するというアイデアです。
UBIの支持者は「仕事をしなくても生きていけるなら、人はもっとクリエイティブになれるはずだ」といいます。
確かに時間とお金に余裕があれば、挑戦できることは増えるでしょう。でも、時間とお金に余裕ができても、本当にクリエイティブや興味への探究に没頭するようになるのでしょうか?
自分に置き換えてみればわかると思いますが「時間はたっぷりある」と思っていたら、なんとなくエンジンがかからず先延ばしにしたまま、結局やらなかったなんて経験は誰にでもあるのでは?
夏休みの宿題なんかがまさにそう。デッドラインがなければ机に向かわないのと同じように、時間がある=クリエイティブになるともいえないと思うのです。
それに「働かずに収入が得られる社会は、依存体質を生むだけだ」と、反対者の声も大きいのも事実です。
それに加えて財源はどうするのか? インフレは抑えられるのか? 社会保障とのバランスはどう保つのか?…現実的な課題は山積みです。
なんとなく暗い未来にばかり目が行きがちではありますが、完全自動化は「社会の進化」という考えもあります。
AIとロボティクスの導入によって、生産性は飛躍的に高まり、コストは大幅に削減されますよね。長い目で見れば、製品価格も下がり、消費者はその恩恵を受けられるでしょう。
日本でも高齢者による運転事故が報じられるたびに、自動運転技術に対する期待が話題になるし、技術を駆使してリモートワークで地方移住が促進されれば、地方活性化につながるかもしれません。
それに私たちがふだん便利に使っているAmazon(アマゾン)だって、倉庫ではロボットが1時間に数万もの商品をピックアップし、スピーディーな配送を可能にしています。効率化された流通は利益を生み、さらに技術革新への投資が進みます(それに伴う物流の問題は別の課題を含んでいますが)。
産業革命の時代も、機械化が雇用を奪った一方で、新たな市場を生み出し、豊かな暮らしを実現してきました。技術が、進化と共に新しい働き方を創り出してきたのは否定できません。
シリコンバレーが描く「完全自動化社会」は私たちにとって脅威なのか、あるいはチャンスなのでしょうか。
「仕事が消える」と警鐘を鳴らす人もいれば、「新たな雇用が生まれる」と期待を抱く人もいます。でも、答えがないから不安になるんですよね。
ただ、SFのごとく遠い未来の話だと思っていたアイデアの数々を実現しようと真剣に働きかけている人たちがいる限り、私たちはある程度準備しておかなければならないでしょう。
この波に乗るか、飲み込まれるか。それは私たちの選択に委ねられています。
だから少しでも情報を入れ、学び、AI時代における人の価値を考え、選んでいかないといけないのでしょうね。
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