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AI時代の音楽クリエイティブの正義はどこにあるのか? ジャスティスに聞いてみた

  • 2024年5月30日
  • Gizmodo Japan

AI時代の音楽クリエイティブの正義はどこにあるのか? ジャスティスに聞いてみた
Image: VMG / Universal Music LLC

誰もがAIで音楽を作れる時代にアーティストは何を思うのか?

ChatGPTやMidjourneyに代表される生成AIの登場によって、私たちの日常生活にも大きな変化が訪れようとしています。音楽シーンでも、Stable Audioなど音楽生成AIが登場したことで、楽器が弾けなくても自分の頭の中でイメージする音楽をテキストで指示するだけで簡単に作成できるようになりました。

しかしその一方で、音楽生成AIには学習ソースとして使用される楽曲やアーティストの音声に関する権利の問題をはじめ、さまざまな課題があります。そのため、今の段階では、アーティストの間でも生成AIの活用の是非に関してさまざまな意見が見られます。

そんな中、フランスを代表するエレクトロニックミュージック・アーティストであり、グラミー賞受賞経験もあるJustice(ジャスティス)がシーンに帰還。今年4月26日に前作から約8年ぶりとなる最新アルバム『Hyperdorama』をリリースしました。

同作は、大物エレクトロニックアーティストのカムバック作として、リリース前から注目を集めていましたが、実はAIをテーマにしたMVを公開しているほか、MVの制作においてもAIを活用するなど、クリエイティブとAIの融合の可能性にも真正面から向き合った作品でもあります。

そこで今回、ギズモードでは音楽シーンでも注目が集まる生成AIの活用の可能性を探るべく、Justiceのグザヴィエ・ドゥ・ロズネさんとギャスパール・オジェさんに話をお聞きしました。

AIは“何に使うか”が大事

──今作では、AIが「Generator」のMVのテーマになっていたり、「One Night/All Night」のMVでもAIを活用したと思われる部分が見受けられます。昨今のAIがクリエイティブシーンでも存在感を増している状況を考えると、今作でお二人が生成AIに真正面から取り組んだのは必然であるようにも感じられますが、生成AIがこれだけ世の中を席巻している状況をどのように感じていますか?

グザヴィエ:生成AIに関してはすごく関心があるんだ。でも「Generator」のMVはAIがテーマではあるんだけど、制作に関してはAIを全く使ってないんだよね。一方で「One Night/All Night」では2つのカットでAIを使ったんだけど、それを取り込むのに普通に人間がやるよりもずっと時間がかかってしまったよ。

生成AIが持つ人間では思いつかないランダムな発想とか、そういう部分はすごく面白いから、そういう意味ではめちゃくちゃ興味深いツールだと思うよ。音楽の加工だって、40〜50年前からAIがやってくれるようなことと同じことができる技術があるからね。

モジュラーシンセとかシーケンサーもそうだけど、やっぱりランダムに人間が自然に思いつかないものを作ってくれるという点ではすごく面白いよね。だけど、実はそういったツールを自然な形で音楽に取り込むのにはすごく時間がかかるんだ。

だからAIはツールとしては面白いんだけど、何に使うかっていうのが大事なのかなって思うよ。

──生成AIに興味を持っているとのことですが、実際にChat GPTやMidjourneyといった生成AIを知ったのはいつ頃ですか?

グザヴィエ:みんなとだいたい同じぐらいのタイミングで僕らも知ったよ。それから結構自分たちでもいじったりはしているんだ。

たとえば、1カ月前にも自分でChatGPTを使って会話してみたんだけど、面白いのは、とんでもなく変な会話にどんどんなっていくところなんだよね。ChatGPTは絶対に否定しないから、話がどんどん想像もつかないようなことになっちゃうんだ。そういうのが面白いし、楽しんではいるんだけど、それを自分の作品に取り入れるかと言われると、まだそこまでは考えていないかな。

──AIに限らず、テクノロジーは人間にとって、ある種の宗教のように信仰されている部分があると思いますが、AI時代におけるJUSITICE(正義)、そして宗教はどのようなものだとお考えでしょうか?

ギャスパール:人間がテクノロジーにある程度頼っている部分はあるよね。フランスの社会だって日本やアメリカと同じで、新しいテクノロジーがどんどん生活の中に入ってきている。今ではスマホなしでは生活できないし、ネットに繋がっていないと人とも繋がれない、社会性を保てない状態で生きているところは確かにあると思うんだ。

古い人間ほど昔の生活に執着していて、変化を好まない傾向はあるけど、僕らは常にプロセスを大事にしてきた。それは音楽制作でも言えることで、最初はシーケンサーを使っていて、そこからコンピューターを使うようになったけど、新しいものをどんどん取り入れながら音楽を作ってきたんだ。

最新アルバム『Hyperdorama』のアルバムカバー

アルバムやライブの演出を作る上でテクノロジーに頼っている部分はあるよ。ただ、だからといって、テクノロジーを神様みたいに崇めて毎日祈ってるわけじゃない。テクノロジーを理解して受け入れ、最善の形で利用するのを極めていくことが大切だと思うんだ。それと同時に思うのは、テクノロジーこそが世界中の誰もが普遍的に敬意を持てる存在なのかもしれないということだね。

グザヴィエ:でも、宗教とテクノロジーの大きな違いは、テクノロジーは存在が証明できるものだということだよね。だから、効果があるかどうかとか、実際に存在してこういう利点があるということを証明した上で、信じるか信じないかを決められる。

宗教は目に見えないものを信じなければいけないことが多いけど、テクノロジーは現実に起きてることに証拠があって、証明できるんだ。そこが大きな違いだと思うよ。

AI時代のアーティストに求められるもの

Image: ©AndréChémétoff

──今作でAIは活用されていますか? もし使っていない場合、その理由と今後使う可能性について教えてください。

グザヴィエ:今作ではAIを使わなかったけど、将来的には使う可能性はあるよ。もちろん、何ができるかにもよるけどね。でも、自分たちがやってることは、AIじゃないにしろ、わりとAIでできることと近いのは確かなんだ。

たとえば、レコードをサンプリングするときに、ある音源を細かく分割して並び替えて、自分たちでは思いつかないようなメロディーを作るみたいなことをやるんだよ。その作業にはランダムな要素という部分があるんだけど、そこが生成AIがやっていることに近いのかもしれないね。

世の中には自分たちが思い描いているテクスチャーとか雰囲気とか、何となくイメージしているものがすでにあるけど、僕らがやっているのは、ランダムにいろいろなことやりながら、そこにだんだん近づけていくという作業なんだ。だから、そのプロセスの中にAIが生成したものを取り入れることも可能なのかなって思うよ。

つまり、自分が求めてるサウンドとかシーケンスとか、いろいろなことを試しながら、正解を見つけていくということだね。その作業の中で、もしかしたら今後、生成AIを試してみて自分たちが思い描いたとおりの結果が出たらそれを使う可能性も十分にあるよ。

ただし、それが人に何か害を与えない限りはだけどね。

──今後、ボタンひとつですぐに楽曲が生成されるような未来がくると思います。そんな時代において、アーティストであるためには何が求められると思われますか?

ギャスパール:今のところAIで作った音楽は、ドレイクがカントリーを歌ったりジョニー・キャッシュがニルヴァーナを歌ったみたいな感じで、楽しいけどすぐ飽きられてしまうというか、一過性のものでしかない。つまり、"使い捨てできるもの"って感じがするんだよね。

ポップスの場合だと、ビジュアルもアバターで、音作りにもAIを使っているアーティストがいるけど、そういうのが好きな人ももちろんいるから、それはそれでいいと思う。

でも、結局は「音楽に何を求めているか?」という個人の問題なんじゃないかなって思うよ。

グザヴィエ:僕らが音楽を作る上で求めてるのは、感性と技術なんだ。でも、今のAIが作る音楽は、既存のものを編集し直したコンピレーションでしかないというか、「ドレイクがマドンナの曲を歌ったらこうなるよ」みたいなものだから、あんまり驚きはないんだよね。

結局、そこに音楽を作る人の感性が反映されてるのか、訴えるメッセージやテーマがあるのかどうかが問題なんだ。昔、マルセル・デュシャンが美術館にトイレを置いて「これがアートだ」って言ったけど、そこには「日常的に使っているトイレがアートになるのか!」という驚きがあったよね。それが彼の訴えるメッセージ性であって、75年後の今でもアートとして成立している。そう考えると、何でもそうだって言えばそれで成立するから、AIにもその可能性はあると思うよ。

ただ、テクノロジーのおかげで誰もがアーティストになれるわけじゃないんだ。たとえば、今はPhotoshopのおかげでみんながグラフィックデザイナーのようなデザインができるようになった。でも蓋を開けてみると、それっぽいものが作れるだけで、本当にすごく腕のいいデザイナーはそう多くはいないよね。

音楽も同じで、音楽制作ソフトとプラグインのおかげで、今は誰でも簡単に音楽を作れるようになったけど、みんなが良い音楽を作っているかというとそうじゃない。近い将来、AIのボタンを押すだけで音楽が作れるようになるかもしれないけど、そこから人を感動させる音楽が生まれるかと言われるとそうじゃないと思うんだ。

結局は土台となる人間の感性とか、その人がどんなメッセージをその作品に込めるかっていうところが大事なんだと思うよ。

テクノロジーが進化するほど、手作りのものが求められる

Image: ギズ屋台

──今、ギズモード・ジャパンでは「RAGE AGAINST THE AI, CAUGHT BY THE AI」というメッセージの入ったアパレルを作っています。意図としては、ギズモード編集スタッフでAIに大賛成って人も大反対って人も実はいなくて、AIをよく知っている人ほど、実は相反する感情を抱いているのではないかと思うのですが、おふたりはこの点についてどのようにお考えでしょうか?

グザヴィエ:全く同じ気持ちだね。さっきも言ったけど、AIにできて人間にできないこともあるし、アーティストの観点、特に音楽とかアートに関して言えば、そういうところに面白さを感じているよ。

でも、AI技術を音楽やアートの分野だけで活用することに限って言うと、生成AIで作られたものは今の段階だとすぐ古臭くなってしまうというか、奥深さをあんまり感じないんだよね。たとえば、生成AIで作った音楽は2日間くらいはすごく面白いと思っても、2週間後に聴いてみると急に10年くらい古いものに感じてしまうんだ。

もちろん、面白いものが作れる可能性は感じるからすごくいいツールだと思ってるし、僕らには新しいものに対して単に反対する気持ちはないから、すごく否定的な気持ちもないよ。でも、今の段階では限界を感じるから、完全に賛成ってわけでもないね。

──おふたりは日本のSFアニメや漫画などにも影響を受けているそうですが、フランス人とテクノロジーとの接し方に特徴(国民性)はありますか? また、日本人と比較してどのように思われますか?

ギャスパール:テクノロジーに関しては日本は最前線だと思うし、自分たちが使ってるシンセサイザーだって日本のメーカーのものだから、すごく魅了される部分があるよ。

その中でも特に魅力を感じるのは、伝統とテクノロジーをすごくうまく融合させているところだよね。しかもそれを独自の感性でやっているところがすごくエキゾチックだと感じる部分なんだ。特に今の40代〜50代のフランス人は、そういう世界観が反映された大友克洋さんの『AKIRA』や『老人Z』を通して、日本のカルチャーにすごく魅了されたはずだよ。

それに比べるとフランスは、多分テクノロジーを日常生活に取り入れるのが遅いのかなって思う。でも、今はみんなスマホを持ってるし、SNSもすごく使っている。もちろんフランスで開発された半導体とかもあるけど、フランスに来たときにパッと目につく、伝統とテクノロジーが融合したものはあまりないかもしれないね。

グザヴィエ:ここ数年日本には行ってないから、日本も同じかどうかはよくわからないんだけど、最近欧米でトレンドになってきているのが、人間の手で作られた少数限定生産のプロダクトなんだよね。

食べ物にしてもそうだし、家具とか服とかワインとかもそう。なるべくテクノロジーとは無縁のハンドメイドのものがすごく人気なんだ。特に日系アメリカ人の家具デザイナー、ジョージ・ナカシマさんの家具はすごく人気だよ。彼の手で作られた木製の家具は、木目にしてもひとつひとつ違うから当然、同じものがないんだけど、そこに価値を見出す人が増えてきているんだよね。

そういう意味では、テクノロジーが進化すればするほど、人間はやっぱり手作りのものや量産できないもの、伝統に則ったものとか、作った人の技術やイメージが反映されたものを求めていくんじゃないかなって思うんだ。

ギャスパール:それには同感だね。日本の文化が素晴らしいと思ったのは、職人の伝統的な技術と最先端のテクノロジーをすごくうまく融合させてるイメージがあるからだよ。グザヴィエが言ったように、フランスでも最近になって、人の手で作ったものがワインや服にも求められるようになってきた印象があるよ。

グザヴィエ:そういう知識や職人の技術が如実に反映されてるのが、やっぱり『AKIRA』だと思うんだよね。あれは35年前の作品だけど、本当に斬新な映像に見えるし、たぶん最後の全編手描きのアニメだと思う。

でもそんなアナログなものでも、3DCGとかの最新技術を使った今のアニメと比べても本当にすごくインパクトのあるアニメだよね。『ブレードランナー』もそう。

使われている特殊効果は技術的にはすごく古いものだけど、今見てもリアルに感じるし、最近の最新技術を使った映画よりも全然心打たれるよね。そう考えると、今はそういった作品作りにテクノロジーを取り入れ、いかに良いものを作るかっていうことの限界っていうか、その際の部分に来てしまっている気がするよ。

3年間かけてディティールにこだわった

──お二人は古い機材と新しい機材を混ぜて使うのがすごく上手な印象があるというか、古い機材を使っていても、そう感じさせない見せ方に職人的なセンスを感じます。

ギャスパール:そう言ってもらえて嬉しいよ。古い機材の見た目はすごく好きだから、今作でもその部分はちゃんとビジュアル要素として取り入れてるんだ。

グザヴィエ:でも、音楽制作に関しては、実はそうじゃないんだよね。今作では、自分たちでリサーチして見つけた新しいテクノロジーやデジタル機材をかなり使ったよ。それにヴィンテージ機材を使ったとしても、その音をデジタルで加工して新しい音にすることを目指していたんだ。

たとえば、「PPG Wave 2.2」という80年代のヴィンテージシンセを使ったんだけど、そういったノスタルジックなものだけにこだわってるわけじゃないんだ。僕らがこだわるのは、あくまでディティールなんだよね。だから今作も3年間かけて、すごく細かいところまでこだわって、自分たちの音楽を新しい音で表現することに取り組んだんだよ。

ギャスパール:そんな感じで音作りに関しては、積極的に新しい機材を取り入れてるし、今作では5年前だとできなかった音作りを最新技術を使って実現させたって感じだね。

Justice / ジャスティス

New Album 『ハイパードラマ』 (原題:Hyperdrama)

2024年4月26日(金) リリース!

品番:UICB-1025/税込価格 : 3,300 円/BONUS INSIDE

日本公式ページ:https://www.virginmusic.jp/justice/

アルバムの試聴/購入リンク:https://virginmusic.lnk.to/J_Hyperdrama

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