〜玉袋筋太郎の万事往来
第29回ラットサンライズ社長・斎藤辰洋
全日本スナック連盟会長を務める“玉ちゃん”こと玉袋筋太郎が、新旧の日本文化の担い手に話を聞きに行く連載企画。第29回目のゲストは、神奈川県相模原市で中古のタイヤとホイールの販売店「中古タイヤ市場」を運営する一方で、店舗の側で100台以上のレトロ自販機を稼働させている有限会社ラットサンライズ社長の斎藤辰洋さん。昭和の息吹を感じさせる自販機の数々に、若かりし日の玉ちゃんの記憶が蘇る!
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)
玉袋 今やレトロ自販機の聖地となっている中古タイヤ市場さんですが、先ほど周辺を歩いたら、海外からのお客さんもたくさんいました。なぜタイヤ転がし屋から、レトロ自販機を転がそうと思ったんですか?
斉藤 もともとは趣味なんですよ。最初にネットオークションで買ったのが瓶のコーラの自販機で、それからコツコツ自販機を集め始めたんです。
玉袋 瓶の自販機といえば、子どものころに悪さをしたなぁ。金を入れて扉を開けたときに2本同時に取るなんてハッキングをしてましたよ。パチスロの目押しみたいなもんでね。あと、栓抜きの下に王冠が落ちるじゃないですか。当時は裏に「あたり」がついた王冠があってキャッシュバックできるんだけど、落ちた王冠は手で取れないから、糸に磁石を括りつけて吊り上げていくんだ。スーパーカーブームのときはスーパーカー、『スターウォーズ』1作目公開のときはスターウォーズのキャラクターが裏に印刷されていて、それも集めたね。タバコの自販機なんかもさ、硬貨にママレモンをつけて機械をバカにするとかさ。まあ昔の話だから時効だ(笑)。そうやって社長は自販機を集めて、倉庫なりに置いとくじゃないですか。でも、どうせなら販売したいって気持ちになったんですか?
斉藤 集めた自販機を会社の駐車場に置いといたんですが、従業員に「車を停めるところがなくて困る」と言われたんです。ただ壊れた自販機ばかりだったので、どうしようかなっていうことで、専門家の知り合いがいたのでお話を聞いて、自分で直し始めたんです。
玉袋 メンテナンスも自分でやったんですか。本業がタイヤ屋さんだから、技術も工具もあるしね。
斉藤 技術はなかったんですけど(笑)。道具はいろいろあったんで、動くようにして。本業でお客さんを待たせてしまうので、その自販機を設置したら、思いのほか喜んでもらえて。そのうちタイヤのお客さんだけじゃなくて、一般のお客さんも来るようになって。それで調子に乗って、どんどん自販機を買って、並べて設置するようになったんです。
玉袋 面白いね! 幾らぐらいで落札したんですか?
斉藤 趣味で買っていたころは、5万とか、10万とか、自分の小遣いで買える程度だったんですけど、どんどん価値が上がっちゃって、今はとても買えないですね。古い自販機は縁がないと入手できないことも多くて、特別に譲ってもらうこともあります。
玉袋 買ったけど修理できなくて、諦めた自販機もあるんですか?
斉藤 ほぼほぼないですね。なんとか直しています。2年がかりで直すことも珍しくないです。
玉袋 すげー! クラシックカーみたいなものだよね。古いものを大切にするのは素晴らしいことだよ。パチンコ台のコレクターとかもいるしね。
斉藤 自販機なんて、そんなにコレクターがいないと思っていたら、結構いるんですよね。
玉袋 ここで一番古い自販機は何ですか。
斉藤 おそらくガムの自販機で昭和35年製です。
玉袋 俺が子どものころ、お袋がガムの自販機の横に座って、お金を崩して、それを入れるアルバイトやってたみたいな話を聞いたことあるな。板ガムって、まだ売ってるんだね。一番売れているのはクールミント?
斉藤 うちでは梅ですね。
玉袋 梅ガムも昔からあるもんな。今、何台ぐらい稼働しているんですか?
斉藤 確か112台ですかね。
玉袋 すごい! それぞれに玉(商品)を入れなきゃいけないわけでしょう。
斉藤 補充作業は一日がかりですね。
玉袋 112台もあったら、それぐらいかかるよね。友達の親父が大工でさ、自分ちの敷地内に自動販売機が置いてあって、子どものころに自慢されたよ。自販機って買い取りなんですかね。コインパーキングの横とかにも自販機があるじゃない。
斉藤 それはレンタルですけど、昔は買い取りが多かったと思います。
玉袋 ぐるぐる渦になって、そこにパンとかが置いてあって、ボタンを押すと前に出てきて落っこちて来る自販機がありますよね。
斉藤 スパイラルですね、
玉袋 やっぱ名称があるんだ。昔の自販機のままだと、当時のお金しか使えないでしょう。
斉藤 今のお金を使えるように、そのパーツを丸ごと取り換えるんです。
玉袋 カップ麺の自販機を見ると思い出すのが『トラック野郎』でさ。桃さん(星桃次郎)も、やもめのジョナサン(松下金造)も、自販機でカップ麺を買って手繰っているシーンがあるじゃない。国道沿いなんかにズラーっと自販機が並んだ施設に名称がありましたよね。
斉藤 オートレストランですね。
玉袋 そうそう! 自販機からお湯が出るっていうのも斬新でしたよね。
斉藤 あれは自販機の中でお湯を沸かしているんです。
玉袋 水道から水を引っ張って?
斉藤 そうですね。
玉袋 子どものころ、ずーっと押しっぱにしていたらお湯が空になった記憶があるんだけど、あれはどういうからくりだったんだろうな。
斉藤 たぶん温度が下がると水も止まるんです。
玉袋 なるほどね。調理した生の食べ物を販売している自販機もたくさんありますけど、レトロ自販機の代表格でもあるうどんの自販機はどこが作っているんですか?
斉藤 うちにあるのは富士電機ですね。川鉄計量器(現・JFEアドバンテック株式会社)やシャープも出していました。
玉袋 ハンバーガーの自販機は?
斉藤 製氷機なんかも出しているホシザキ電機ですね。
玉袋 あのホシザキなの? うちのスナックでも使っているよ。昔、神宮球場の草野球場の横にハンバーガーの自販機があってさ、野球を観に行くときによく買ってたよ。出てくるまで、ちょっと待つんですよね。
斉藤 60秒ですね。
玉袋 ハンバーガーの玉はどうしているんですか。
斉藤 もう作っているところがないので、近くの食品会社に頼んでいます。
玉袋 それはすごい! 自販機のハンバーガーって、マックやロッテリアと違って、パサパサ感があってさ。それも含めて、「自販機の駄目ハンバーガーを食う俺たち」みたいなのが良かったんだ。
斉藤 当時のハンバーガーに近づけるために、あえて味もシンプルにしてもらっています。
玉袋 うどんやラーメンの玉はどうしているんですか?
斉藤 うちで作ってます。
玉袋 ええ!? 本業タイヤ屋さんじゃないの? 頭おかしいよ(笑)。
――専門のスタッフがいらっしゃるんですか?
斉藤 いますし、僕も作っています(笑)。
玉袋 ものすごい変態だよ(笑)。もちろん誉め言葉だけどね。それで、うどんは幾らで出してるの?
斉藤 300円です。
玉袋 リーズナブルだね。うどんには、どんなこだわりがあるんですか。
斉藤 25秒で出てくるので、その時間に合わせた麺を取り寄せています。だしは業務用ですけど、いろいろ味見をした結果、比較的いいだしを使っているので、コスパはいいはずです(笑)。よそで作ると運搬の時間がかかるので、自社で作るしかないんです。
玉袋 補充も大変でしょうね。何人で回しているんですか?
斉藤 3、4人です。
玉袋 もはや飲食店じゃないですか(笑)。こないだ、「町中華で飲ろうぜ」(BS-TBS)の取材でママさんがワンオペでやってる中華屋に行ったんだけど券売機が置いてあってさ。「町中華で飲ろうぜ」のロケで券売機のお店って滅多にないから、「券売機は珍しいね」って言ったら、ママが「うちの従業員です」って上手いこと言うんだ。券売機=従業員なんて洒落がきいてるよね。ここも3、4人で回しているけど、それぞれのマシンがお金を生み出して、接客もしているわけだから、従業員の数は相当なものだよ。ちなみにうどんの機械は幾らぐらいで落としたんですか?
斉藤 90万ぐらいですね。
玉袋 修理に時間がかかっているとはいえ、すぐに減価償却できたでしょう。これだけ、たくさんの商品を扱っていると仕入れも大変だよね。
斉藤 相当な数の会社さんから仕入れをしていますし、営業に来られる方もいらっしゃいます。
玉袋 仕入れや補充、さらに製造とフル回転で、本業のタイヤ屋は大丈夫なの?
斉藤 私に関しては9割方、自販機の仕事ですね(笑)。
玉袋 それはマニア冥利に尽きるね。だって、お金を生んでくれるんだから。いろんなコレクターがいるけど、転売でもしない限り、そうそう儲けは出ないよ。修理中の自販機はどれぐらいあるんですか。
斉藤 30台ぐらいあると思います。
玉袋 (自販機内にディスプレイしてある1リットルのコーラ瓶を見て)子どものころ、寒い時期の神宮に行ったときに、この空瓶を持っていって、カップヌードルの自販機のお湯を入れて湯たんぽ代わりにしてたな。新日(新日本プロレス)の第2回「IWGP」のときも、これを持って蔵前まで行ってさ、暴動になったときに空瓶を投げたからね(笑)。お酒の自販機も置いてありますけど、お酒の販売もしているんですか?
斉藤 お酒は一般酒類小売業免許が必要なので扱っていませんが、カップ酒と同じような容器に入ったドリンクなどを入れてあります。
玉袋 この前、大阪のドヤ街に行ったら、ビールの大瓶が売っている自販機があって、感動したね。昔の女に会ったみたいな気持ちになったよ。お酒の自販機は販売時間も決まっていますよね。
斉藤 23時から5時は販売禁止ですね。
玉袋 昔、近所に夜中でも買えるお酒の自販機があって重宝したなぁ。あと思い出すのがガキのころ、近所に酒屋があって、酒屋の横に角打ちがあってオヤジが飲んでたわけ。そこに300円ぐらいのおつまみが売っている自販機があって、お金を入れなくても、ボタンを押すとグルーッと展示された商品が回るんだ。
斉藤 うちにもありますよ。
玉袋 本当? それが楽しくて、ずっと押してた。あとガキのころで言うと、小遣いがねえとさに、お釣りの返却口や自販機の下を見て10円拾ったりしてね。それがエスカレートして、返却口に何か詰めて、お釣りが出ないようにして、後から回収に行くとか。ひどいことをやってたね。いわば俺たちのジャックポット(笑)。エロ本の自販機も懐かしいね。うちの近所なんて、駄菓子屋の横にあったんだから。
斉藤 今では考えられないですね(笑)。
玉袋 マジックミラーになってて、昼間は見えないけど、夜になると見えるんだ。あるとき、エロ本を買うお金がない奴が、プラスチックの板を割って展示しているエロ本を持って行ったんだ。しばらくしたら、その自販機が復活して、グレーチングみたいな金網が設置してあってね(笑)。そういや、かつて高田馬場にあった自販機で、エロ本が陳列されているんだけど、一か所だけ何も展示されてない番号があって。そのボタンを押すと、月曜発売の『週刊少年ジャンプ』が、金曜日に買えたんだ。いろいろ思い出すね。ここにはレトロゲームもたくさんありますけど、さっきピンボールをやったらコンディションいいですね。たまに温泉場で見つけたらやるんだけど、大体コンディションが悪いんですよ。これも社長がメンテしたんですか?
斉藤 ピンボールは業者ですけど、細かい修理は自分でやります。
玉袋 100円で腕相撲するのも懐かしいね。昔、河童にボールを当てるゲームもあったな。確かモグラたたきゲームの後に出てきたのかな。モグラたたきゲームなんて劣化しやすいだろうし、まずハンマーがダメになっちゃうんだよね。野球拳もあったね。あれも、くだらなかったんだよ。勝つと女の子が脱いでいくんだけど、最後まで勝つと景品のパンティがコロコロって出てくるんだ。以前、江頭(2:50)と鬼怒川温泉に行ったとき、野球拳のゲームがあったんだ。あいつもスケベだから、パンティが欲しいって5000円ぐらい使ってたよ。普通に買いに行けよって話だけどね(笑)。
玉袋 全国にレトロ自販機を置いている場所があるけど、ここまでの規模って他にあるんですか?
斉藤 たぶんないと思います。
玉袋 子どもがいたら、ディズニーランドに行くより、ここに連れてきたほうが、よっぽど良い教育になるよ。俺だったら、こっちが夢の国だって言うね。うどんなんてワンコイン(500円)で、200円パックだからね。
――釣銭だけでも相当な金額ですよね。
斉藤 回収するのに2時間ぐらいかかりますね。重たいですし。銀行に持っていても、結構な手数料がかかりますし。銀行員の方も嫌な顔をします(笑)。
玉袋 銀行も、「また社長が来たよ」ってなもんで慣れっこでしょう(笑)。今狙っている自販機はあるんですか。
斉藤 直している途中の自販機もたくさんありますし、メンテが必要な自販機もあるので、入れ替え入れ替えていこうかなと考えています。
玉袋 ここは24時間営業だから、自販機を人間に置き換えたらブラック企業だ(笑)。だからこそメンテもしなきゃいけないし、そうすると機械でも情が湧いてくるだろうから、かわいい子たちだよね。
斉藤 そうなんです。だから、この子たちを乱暴に扱われると腹が立ちますよね(笑)。すぐ壊れるので、手間もかかるんです。
玉袋 「この子」ってことは、やっぱり子どもなんだね。社長は車も好きなんですか?
斉藤 あんまり興味ないですね(笑)。
玉袋 そうなんだ(笑)。今日はレトロ自販機を目当てにやってきたお客さんもたくさん見たけど、往年のスターに新しいファンが付いたりとか、昔の名画や懐メロがリバイバルで人気を集めているのと同じものを感じたね。多い日で、どのぐらいのお客さんが来場するんですか。
斉藤 週末は1000人ぐらい。土曜日は渋滞になりますからね。
玉袋 すごい人気だ! 本当いい子たちだよ。社長は100人のキャバ嬢を束ねてるようなものだな。まあ売り上げは出してくれるけど、すぐにへそを曲げるからケアもしないといけないし、それだけの労力もあるってことだね。
生年月日:1967年6月22日
出身地:東京都
1987年に「浅草キッド」として水道橋博士とコンビを結成。
以来、テレビ、ラジオなどのメディアや著書の執筆など幅広く活躍中
一般社団法人全日本スナック連盟会長
スナック玉ちゃん赤坂店オーナー(港区赤坂4-2-3 ディアシティ赤坂地下1階)
<出演・連載>
TOKYO MX「バラいろダンディ」
BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」
CS「玉袋筋太郎のレトロパチンコ☆DX」
夕刊フジ「スナック酔虎伝」
KAMINOGE「プロレス変態座談会」