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非公開部まで潜入! 操業50周年の「富士御殿場蒸溜所」でキリンのウイスキーづくりの真髄を見た

  • 2023年10月17日
  • GetNavi web

操業50周年を迎える富士御殿場蒸溜所。2023年4月に「キリンはウイスキーも凄いって知ってる?」という記事でも触れましたが、先日とうとう、現地取材を敢行! 同蒸溜所では要予約の有料見学ツアーも開催されていますが、この記事ではそれ以上の内部情報や、ウイスキーづくりにまつわる裏話などもお届けします。

 

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↑最寄りのJR御殿場駅。今年6月10日には、富士御殿場蒸溜所が寄贈したポットスチル(単式蒸留器)が設置されました。ここから無料シャトルバスも運行されているので、ぜひご利用を

 

富士御殿場蒸溜所の独自性とは? 見学ツアーで体験できること

富士御殿場蒸溜所は操業50周年の長い歴史を持っていますが、注目すべきポイントはその設備にあります。モルト原酒(大麦麦芽が原料)をつくるポットスチルはもちろん、グレーン原酒(原料は大麦麦芽に限らない)をつくる蒸留器も備えています。しかも、富士御殿場蒸溜所にはそのグレーン用蒸留器が3種も設置されており、これはきわめて珍しいことです(基本的には、あっても1種)。

↑一般的な連続式蒸留器(の一部)。「マルチカラム」と呼ばれるタイプで、軽やかな味わいのグレーン原酒を生み出します。他の2種は後述

 

ポットスチルとグレーン用蒸留器の併設だけでも珍しいのですが、さらに、仕込みから熟成、瓶詰めまでも一貫して実施するというのは世界的にも稀。こうした設備で、霊峰・富士の伏流水によるマザーウォーターからつくりだされるのが「富士」ブランドをはじめとする同社のウイスキーで、この味わいが国際的な高評価を受けているのです。

↑エントランスからシアタ―までの通路には様々なコンペで授賞したウイスキーが。例えば「キリン シングルグレーンジャパニーズウイスキー 富士」は、2022年11月にNYの洋酒コンペ(NYISC)でJapan Whiskey of the Yearを受賞しています

 

見学ツアーで体験できること

通常の見学ツアーでは、シアターの動画で概要を学び、ポットスチルを直接見学(グレーン用蒸留器は映像で見られます)。移動途中では、ウイスキーの原料となる麦芽やピート(後述)なども見られます。その後、多彩な原酒をつくり出すため2021年に新採用した木桶の発酵槽を見学し、パッケージングを行うラインへ。

↑ピート(泥炭)。こちらを焚いて麦芽を乾燥させることでスモーキーフレーバーが生まれますが、焚いた麦芽を使うかどうかは国や蒸溜所の考え方、銘柄などによって様々です

 

↑木桶の発酵槽は自生の乳酸菌が働くため、ステンレスタンクを使用して酵母のみで発酵させる製法とは異なった味わいになるのが特徴

 

最後は「キリン シングルグレーンウイスキー 富士」と「キリンウイスキー 陸」をテイスティング。限定ウイスキーや、オリジナルグッズを多数そろえるディスティラリーショップを経て、見学ツアーは終了という流れです。五感をフルに使って体験できる、充実した内容だといえるでしょう。

↑ディスティラリーショップ。こちらはツアーに参加していなくても自由に出入りでき、テイスティングコーナーでは蒸溜所限定販売ウイスキーなどを有料で試飲できます

 

普段は非公開の蒸溜所内部へ!

ここからは改めて、今回取材した内容について紹介していきましょう。まずはその雄大なロケーションから。特別に蒸留塔の5階展望台に案内いただき、ここが確かに富士山麓にある蒸溜所であることを確認。この日は猛暑でしたが、年平均気温は13℃と穏やかであることに加え、年間通して幾度となく霧が発生する、ウイスキー製造には最適な環境となっています。

↑夏は雲が多く、富士山の全景を観ることはなかなか難しいとか。ちなみに、蒸溜所が位置するのは標高600m強

 

一般見学者が入れる事務棟の屋上は634mで、東京スカイツリーと同じ高さです

 

モルト原酒は、前述したようにポットスチルによって生み出されます。ポットスチルとは一般的に初留用と再留用の2基を1セットで導入するもので、富士御殿場蒸溜所では計3セット6基が稼働。それぞれ大きさや形状が異なり、大きいタイプの1セットは操業開始時から稼働していたものを、老朽更新のため2023年に交換したものです。それもあって、稼働してまだ1か月程度のピカピカなポットスチルも目にすることができました。

↑右が新顔のポットスチルで、左はそれに先立ちに導入した小型のポットスチル。どちらも銅製かつ、メイドインジャパンです

 

次はいよいよ、“うまみ3兄弟”と呼称するほど多彩なグレーン原酒をつくりわけられる、世にも珍しい蒸留器が3基設置されているグレーン蒸留室へ。そのうちのひとつマルチカラム蒸留器(前述)は、蒸留室の2階から5階までを縦貫して設置されており、巨大すぎて近くからでは根元の一部しか視界に入りません。

↑グレーン蒸留室2階。マルチカラム蒸留器の根本の部分などが見えます

 

そして蒸留室1階にあるのが、特に珍しい2基。ミディアムタイプのグレーン原酒を生み出す「ケトル蒸留器」と、ヘビータイプのグレーン原酒を生み出す「ダブラー蒸留器」です。前者はカナディアンウイスキーの製造で、後者は主にアメリカのバーボン製造で使われる蒸留器です。

↑グレーン蒸留室1階。右がケトル蒸留器で、左がダブラー蒸留器

 

↑どちらにも「検定年月日 48.11.5」と書かれたパネルが。この48は昭和48年=1973年のことであり、つまり50年前ということです

 

樽熟成に関する設備もじっくり取材

ウイスキーに欠かせない樽熟成。この日はその一連の設備も見せてもらいました。まずは樽詰めの工程から。ここでは原酒の入った樽に栓をし、離れにある熟成庫に運ぶためトラックに乗せていきます。

↑樽の材質はほとんどがアメリカンホワイトオーク。満タンになった樽は1丁約250kgにもなるので、運ぶ際には慎重さが求められます

 

↑最終的な閉栓(樽の開口部に栓を木槌で打ち込んで密閉する作業)は高度な技術がいるため、職人が手作業で行っています

 

熟成を終えた樽は老朽化が激しくない限り再利用されますが、メンテナンスが欠かせません。そこで重要なのが、組み直しなどのリペア。ここでも専門の職人が目を光らせ、手作業で樽を再生させていました。

↑釘などを一切使わず、木とタガのみで密閉させる樽は熟練の技術がないと組めません

 

樽詰めとリペアスペースの先にあったのは、熟成された原酒を樽から出すダンプトローフというセクション。ここで栓を開けて原酒をダンプトローフ(原酒回収槽)に受け、タンクへ。空になった樽は点検と、必要に応じてリペアを行い再び新たな原酒を迎え入れるのです。

↑ダンプトローフにて。右下の方は、富士御殿場蒸溜所 洋酒生産部の長藤健太部長代理。

 

↑上の写真で長藤さんの腕の下に見えていた黒く細かな木片は、樽の内側から剥がれ落ちた炭(樽の内側を焦がすことで、バニラなどの甘香ばしいフレーバーが生まれる)です

 

さて、蒸溜所の取材レポートと聞いてイメージするものといえば、ポットスチルと熟成庫でしょう。もちろん熟成庫も見させてもらいました。しかも、新旧大小3か所も。まずは70年代に建てたという、同蒸溜所で最古のNo.4熟成庫へ。ここでは数万の樽を保管し、熟成を進めているとのこと。

↑No.4熟成庫。さすが外観からも年季が入っていることがうかがえます

 

↑No.4熟成庫は圧巻のスケール! なお、ここに眠る最古の樽は70年代後半モノとのこと

 

次に見せてもらったのは、2021年に建て直して新しく生まれ変わった、自動ラック式のNo.3熟成庫(No.1と2は現存せず)。ここでも数万の樽を熟成させることができます。

↑No.3熟成庫はより巨大。コンピューターを駆使して管理されているのも特徴です

 

もちろん、古典的なダンネージ式(木のレールを介して樽を段積みする方式)の熟成庫もあります。それが最後に入ったNo.7熟成庫。ダンネージ式は高層ラック式ほど多くの樽を保管することはできませんが、形や大きさの異なる樽を保管することができるため、試験的にいろいろな樽を扱えるなどのメリットがあります。

↑こちらがダンネージ式。No.7熟成庫は比較的新しく、貯蔵スペースにもまだ余裕があるとのことでした

 

↑熟成庫の奥には、かつて使っていた試験蒸留用の小さなポットスチルも

 

ここではなんと、運よく原酒の試飲体験も。味わったのは、2013年に樽詰めしたグレーン。加水していない、アルコール度数53%の原酒でしたがカドは一切なく、味わいはスムースで伸びやか。

↑普通は出回らない、ここだけの希少なシングルグレーン。ありがたや〜

 

スコッチウイスキーの世界では、グレーン原酒はモルトの個性をやわらげ飲みやすいブレンデッドウイスキーをつくる引き立て役に思われがち(スコッチにおいては、モルトを“ラウドスピリッツ”、グレーンを“サイレントスピリッツ”と表現することも)ですが、この味はもはや主役の存在感。富士御殿場蒸溜所の底力に圧倒されました。

↑異なるライトタイプの樽出しグレーンも嗜む程度にテイスティング。こちらはさらに強いアルコール度数63%でしたが、甘い余韻が長くて心地よく、実にラウドな味わいでした

 

なお、樽熟成に関しては「マチュレーションピーク」という哲学で行っていることも、富士御殿場蒸溜所ならではです。これは、単に“熟成年数が長いこと”を重視するのではなく、“原酒本来の持ち味が最もよく現れるピークのタイミング”を重視してブレンドする考え方。あらかじめ何年後にピークをもってくるのかを計算して仕込みを行い、官能評価も定期的に行っています。

 

50年前の原酒を使った限定ウイスキーの味

蒸溜所内の各現場を取材した最後は、再び事務棟へ。待っていたのは、実際に商品化されている様々なウイスキーのテイスティング体験でした。

↑計5種のウイスキーを飲み比べ

 

まずは、デイリーウイスキーに最適な「キリンウイスキー 陸」。ほのかな甘い香りと澄んだ口当たりが特徴であるほか、同価格帯のグレードでは珍しいノンチルフィルタード製法(冷却ろ過をしないので原酒本来の味が凝縮)を採用し、アルコール度数は50%という個性派です。

↑ストレートやロックはもちろん、ハイボールにも。「キリンウイスキー 陸」1に対し炭酸水5がオススメです

 

次は「キリン シングルグレーンジャパニーズウイスキー 富士」。前述したグレーン原酒のみをヴァッティング(同種類のウイスキー原酒を混ぜ合わせること)した一本で、優しくほんのりとした甘さ、伽羅(きゃら)などの香木を思わせるアロマ、ウッディでスパイシーな余韻が特徴です。

↑「キリン シングルグレーンウイスキー 富士」は、ラストに伸びるマスカットのような果実味が印象的でした

 

続いて、「キリン シングルモルトジャパニーズウイスキー 富士」、「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士」と試飲。前者はりんごや洋なしのような果実味とモルティな香ばしさ、後者はアプリコットやはちみつを思わせる甘やかなフレーバーとバニラのニュアンスを強く感じました。

↑「キリン シングルモルトジャパニーズウイスキー 富士」は、今年5月に発売となった、待望の通年シングルモルト。とろりとした口当たりや、甘く複雑で熟成感あふれる香味が魅力です

 

最後は、数量限定で瞬く間に完売した「キリン シングルモルトジャパニーズウイスキー 富士 50th Anniversary Edition」を特別にテイスティング。こちらは操業開始の1973年ものをはじめ、1970年代から2010年代まで各時代の原酒をヴァッティングした希少酒です。味わいは、熟したパイナップル、キャラメル、チョコレートといった多彩でコク深い果実味や甘みが、ほのかなピート香と調和した複雑かつ優美なハーモニー。

↑「キリン シングルモルトジャパニーズウイスキー 富士 50th Anniversary Edition」は5月23日にディスティラリーショップとキリン公式ECサイト(DRINX)で発売されましたがすぐに完売(DRINXでは抽選販売)。蒸溜所ではディスティラリーショップで同商品を購入しようと、当日早朝から300人ほど行列ができたとか

 

キリンディスティラリー社長が語る、これまでとこれから

テイスティング後は、キリンディスティラリーの押田明成社長も登壇。50周年を迎えた思いや、展望についても語ってくれました。

↑押田明成代表取締役社長。富士御殿場蒸溜所の工場長も兼任しています

 

「日本のウイスキー市場は1983年のピークから徐々に冬の時代を迎え、1990年代から2000年代後期のハイボールブームになるまでほぼ右肩下がりが続きました。私の入社はその最中の1994年。ウイスキーをつくりたくて猛勉強して入社したのですが、当初はずっと清涼飲料や酎ハイをメインにつくっていました。『もう、胸を張ってウイスキーをつくることはないんだな』とも思いましたね。

 

ところが、いまでは風向きが変わり、日本のウイスキーは国内外で高い人気を集めるほど復活を遂げています。私もウイスキーづくりにまい進できるようになりました。私たちの強みは、仕込みから熟成、ボトリングまで“オール富士”であること。世界に誇る富士の大自然と、マスターブレンダーの田中城太をはじめとする一流のクラフトマンが揃っています。ぜひ世界中の方々に知っていただくとともに、クリーンでエステリーな味を堪能いただけたらと思います」(押田社長)

↑いずれもエステリーな味わいをもつ、富士御殿場蒸溜所でつくられる商品の数々。エステリーとは、果実や花を連想させる、華やかで甘い香味のこと

 

富士御殿場蒸溜所が目指すウイスキーは「クリーン&エステリー」と表現されます。それは、世界のウイスキーづくりの技術と日本人の感性をかけ合わせ、スコッチでもバーボンでもない、日本人の嗜好や食文化に合う味わい。ここに来れば、よりその魅力を五感で体験できるでしょう。

 

【施設概要】

キリンディスティラリー 富士御殿場蒸溜所

住所:静岡県御殿場市柴怒田970
休館日:月曜(祝日の場合は営業、次の平日が休館)、設備点検日、年末年始
アクセス:JR御殿場駅から無料シャトルバスで約20分

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