最近よく耳にする天然酵母ですが、京都の「自家製酵母のパンの店 はちはち」では、20年以上前から天然酵母を使ったパン作りに取り組んでいます。ドイツパンを中心に、丹精込めて作られるパンは、そのおいしさにドイツ人が通い詰めるほど。滋味あふれるライ麦パンから、ドライフルーツがぎっしりつまったおやつパンまで、香り豊かなパンを味わってみませんか。
「自家製酵母のパンの店 はちはち」へは、京都駅からバスで約30分の一本松で下車。北へ三筋ほど行ったところを東へ折れ住宅地に入ります。やがて、アスファルトの道は舗装されていない砂利道に。そこに見える、のれんのかかる古民家がはちはちです。
店主の横田耕一さんが、当時まだ珍しかった天然酵母のパン作りを始めたのは、イギリスの友人宅で食べたパンがきっかけでした。「サーモンパイと赤ワイン、そしてライ麦パンでもてなしてくれたんです。その食事のなかでのパンの存在というのが忘れられなくて。食事に合う本当においしいパンを作ろうと決心しました」と横田さん。
その後、修行を重ね、2003年に西陣ではちはちをオープン、2016年に下鴨に移転。その際にも、生きものである酵母のことを考え、なるべく環境の似ている場所を探したそうです。
そもそも、天然酵母とは穀物や果物に付く酵母菌を採取し、自然に発酵させた酵母のこと。天然酵母を使うパン作りは、その日の気温や湿度に合わせて発酵の状態を調節するため、イーストのパンに比べ扱いが難しく時間もかかりますが、でき上がったパンには奥深い風味と豊かな味わいがあります。
はちはちでは、ライ麦パンにはライ麦酵母、小麦粉から作るカンパーニュには小麦酵母というように、パンによって複数の酵母を使い分けています。
また、天然酵母を使うとイーストのときに比べ発酵時間が2倍以上になることもあるそう。イーストを使えば、いつも同じものが早く作れるのですが、横田さんは「それでは面白さがない。今でも焼き上がりを見るときはドキドキする」と楽しそうに語ってくれました。
はちはちでは、食事パンだけではなく、デザートやおやつにぴったりな甘いパンやクッキーも並びます。なかでも、ドライフルーツとナッツがぎっしり詰まったフルーツブレッドは一押しの品。シナモンやクローブ、カルダモンなどのスパイスが、風味をさらに複雑なものにします。パンというと焼き立てを早く食べてこそと思いがちですが、日が経つにつれ味に深みが増してくるのも特徴です。
はちはちのパンは、ひと言でいうと実(じつ)があるパンという印象。しっかりした食感のライ麦パン、粉の風味が香るカンパーニュ。そしてどのパンからも、手塩にかけて育てられた天然酵母が醸し出すまろやかな酸味と独特の風味が。硬派ともいえる本物のパンを、ぜひおいしい食事とともに味わってみましょう。