焼き物の産地として長い歴史を誇る茨城県笠間市。このまちで、手仕事の伝統を守りながらも、これまでの笠間焼のイメージを変える新しいうつわづくりに挑戦する窯元があります。まるで北欧食器のような “ヘルッカセラミカ”シリーズをはじめ、毎日の食卓に心地よくなじむ魅力的なうつわを次々と生み出す、「向山窯」の工房とショップにお邪魔しました。
笠間焼の窯元として、ふだん使いできるうつわはもちろん、ホテル・料亭などで使われる高級食器、オーダーメイドの特注品まで、幅広い製品づくりを行う「向山窯」。笠間市内の小高い丘の上にある工房には、笠間焼伝統工芸士認定の陶芸家をはじめ、全国から集まった陶工が10名以上在籍し、それぞれの個性を発揮しながら日々うつわづくりに励んでいます。
窯場のまわりの棚や机には、製作過程のうつわがズラリ。成形を終えて乾燥中のもの、素焼きしたもの、釉薬をかけて本焼成を待つもの。最終的にどんなうつわに仕上がるのか、想像するだけでワクワクします。
笠間焼といえば、ぼってりと厚ぼったい焼き味が特徴。「向山窯」の “ヘルッカセラミカ”は、そのイメージをくつがえす軽くて薄いうつわのシリーズです。その軽やかさを感じるには、実際に手に取ってみるのが一番。想定よりも思いのほか軽量で驚くこと間違いなし。それながら、土の質感やあたたかみはしっかりと感じることができます。
名前の由来は、「繊細な陶器」というフィンランド語。形もサイズもさまざまなプレートをはじめ、マグカップ、スープカップ、タンブラーなどラインナップが豊富で、少しずつシリーズでそろえていく楽しみがあります。ヴィンテージ感のある多彩なカラーバリエーションも人気。置くだけでテーブルを華やかに彩ってくれます。
「笠間焼の伝統を受け継ぎつつ、新しい技で、今のライフスタイルを彩るうつわを食卓に届けたい」。“ヘルッカセラミカ”シリーズは、「向山窯」のそんな思いから生まれました。薄いうつわを歪みなくつくることができるのも、陶芸家が土を知り尽くし、確かな技術を持っているからこそ。手の感覚と経験を頼りに、すべて手づくりで仕上げているといいます。
土を練る人、ろくろを回す人、焼き上げる人など、分担して作業を行なっているのかと思いきや、ひとつのうつわはひとりの陶芸家の手でつくるのが「向山窯」のスタイル。それぞれ「個人」の技術と感性で作陶しつつ、時には「チーム」として協力し合い進めることができるため、オーダーメイドの細かい要望や、数量の多い注文にもクオリティ高く応えることができるといいます。
“ヘルッカセラミカ”のような軽やかなシリーズから、昔ながらの笠間焼の伝統を感じる素朴なうつわ、重厚な和食器まで、幅広いラインナップが「向山窯」の魅力。工房は残念ながら見学不可のため、その魅力に触れるなら、笠間芸術の森公園の近くにある「向山窯 笠間焼プラザ店」へ行ってみましょう。広々とした店内には、思わず手に取って質感を確かめたくなる素敵なうつわがたくさん並びます。
「ただ伝統を守るだけでなく、ときには大胆な発想で『こんなうつわも笠間でつくれるの?』と驚いてもらえるような商品づくりに挑戦していきます」と話してくれたのは、代表の増渕浩二さん。「どんな作風も受け入れるおおらかな気風が笠間にはあります。笠間焼の窯元として、これからもその素晴らしさを伝えていきたいですね」。
これからの季節にぴったりの土鍋、お酒の時間が楽しくなりそうな酒器。ここにくれば、毎日の暮らしに寄り添ってくれるアイテムや、大切な誰かを贈りたくなるギフトがきっと見つかりますよ。東京から日帰りできる焼き物のまちで、とっておきの宝物を見つけましょう。