日傘にブラウス、風にそよぐ手ぬぐい…。神戸にある染色作家・池田圭さんのアトリエを訪ねると、色とりどりの布が目に飛び込んできました。
手に取る人がハッピーになりそうなオリジナルテキスタイルブランド「some:teco」を展開する池田さんに、お話を伺いました。
■プロフィール
池田圭(いけだけい)/大阪府出身。京都市立芸術大学工芸科染織専攻卒業。小学校や大学の講師などを経て、2016年にオリジナルテキスタイルブランド「some:teco」を立ち上げ、神戸を拠点に創作活動やワークショップを行っている。
幼いころから絵を描くことや創作すること、空想の世界にふけることが好きだったという池田さん。大学は美術や手仕事に関わりたいと工芸科に進みます。
ところが「大好きな『色』をたくさん扱えそう」と陶芸と迷って染織の道に決めたものの、大学時代は染色の世界の奥深さに立ちすくむ日々だったそう。
「染めは高い技術が必要とされますし、実際に学び出すと難しさを感じるばかりで。思うような作品が作れないと、染めに対する苦手意識が強かったんです」
自分らしい表現とはなんだろう、と模索していた池田さん。転機となったのは、大学卒業後に友人と共同開催した展覧会に向けて、日本伝統の染色技法の一つである型染めのタペストリーを制作したことでした。
「評価」という枠から離れて心のままに制作することで、型染めの面白さに改めて出会うことができたと池田さんは振り返ります。
「色や絵柄をハッキリ出せる型染めは、染色の技法の中でも、自分にとってしっくりくる染め方だと感じました」
ずっと変わらず好きだった絵を描くことと、染色が池田さんの中で改めて結びついた瞬間でした。
その後、池田さんは小学校の図工の教師や大学講師などを務め、やりがいを感じながらも「さらに集中して自身の世界観を表現したものづくりを届けたい」と考えるようになります。
2016年にオリジナルテキスタイルブランド「some:teco」を立ち上げ、現在は、型染めはもちろん、手染めや池田さんのイラストをもとにしたテキスタイルなど、様々な染色技法で暮らしに彩りを加える布製品を展開しています。
池田さんが自身のものづくりと併せて積極的に取り組んできたのは、型染めの魅力を伝えるワークショップの開催です。
内容は、参加者全員で一枚のタペストリーを作るときもあれば、一人ずつ手ぬぐいやコースターを作るときもあり、型染めに色んな切り口から触れることができます。
「今まで型染めへの興味があっても体験する機会がなかった、という感想をよくいただくんです。今後も一人でも多くの方と染色との接点を作っていけたら。
とはいっても、参加者の自由な色使いから、逆に私が刺激や発見をもらうことも多いんですけどね」と話してくれた池田さんは、なんだか楽しそう。
小学校などで講師をしていたこともあり、「伝える」ということにも強い関心を抱いている様子の池田さん。この春に卒業した大学院では「子どもとアートの関わり」を研究していました。
今後、そうして深めた学びがこれまでの経験や制作活動と合わさって線になり、また新しい展開が見えてきそうな予感です。
まだまだチャレンジしたいことや、表現したいことがたくさんあると意気込む池田さんに、染色を通したものづくりで届けたいことを聞いてみました。
「AI(人工知能)が今後どれほど発達しても、服をはじめ、布という存在自体がなくなる日は来ないと思うんです。それぐらい布は、生まれたときから私たちにとって一番身近な存在です。
変化が多い現代社会では、誰にでも浮き沈みがあると思います。そんな中で『some:teco』の布を手に取って『オシャレしたいな』と思ってもらえるような、元気なパワーが出るものを作っていけたら嬉しいですし、自分ができることを見つけてやっていきたいです」
第2回では、「some:teco」の作品や制作方法について池田さんに伺います。