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飲料水は雨水⁉ 千葉の森で持続可能な暮らし〈パーマカルチャーと平和道場〉

  • 2024年4月26日
  • コロカル

こんにちは。「食べもの・お金・エネルギー」を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉のちはるです。

先日、友人であり〈東京アーバンパーマカルチャー〉創始者・ソーヤー海くん、〈NPOグリーンズ〉代表・鈴木菜央さん、元研修生の中島美紗子さんが運営する千葉県いすみ市の〈パーマカルチャーと平和道場〉に行ってきました! 

ここは、築150年の母屋と2700坪の森や畑を舞台にした、持続可能な暮らしと社会をつくる人を育てる学校です。

道場が目指すのは、「消費者」から「文化の創造者」を増やすこと。コンポストで生ゴミを堆肥化し、野菜をつくったり、廃材を使って小屋づくりをしたり。循環する暮らしを体験しながらこれからの時代を生き抜く技術を学ぶ場所でもあります。

エココミュニティ運営者のギャザリングの様子。大人や子どもがソーヤーさんを囲み、話をしている写真。

古民家改修のためのクラウドファンディングでは485人が支援する大プロジェクトとなり、これまでに1000人以上が訪れました。

今回の私たちが訪れた目的は、道場で開催されたエココミュニティ運営者のギャザリング。

長く続けるのが難しいエココミュニティを、数十年、数百年と続く場に育てるには何が必要なのか? メンバー同士でノウハウを交換したり、抱える課題を解決するべく話し合ったりと、とても濃厚な学びの時間でした。

会場となった道場で実践されていることは〈いとしまシェアハウス〉の理念と共通することもたくさんあり、刺激を受けた部分もたくさんあったので、今日はその一部をみなさんとシェアできたらと思います! 

雨のなか、森の中を歩いている写真。

駅から徒歩約10分とは思えないほどのジャングル感!

「コンポストトイレ」に「ミミズコンポスト」暮らしが循環する場所へ

〈パーマカルチャーと平和道場〉には“循環”する暮らしのヒントがあちこちに散りばめられていました。

まずここでは、生ゴミは捨てずに「ミミズコンポスト」へ。ミミズや微生物の力を借りて生ゴミは堆肥や液肥になり、畑の養分になります。

水色の四角い箱(ミミズコンポスト)の写真。

ミミズの尿は、酵素やミネラル豊富な液肥になります。ミミズコンポストの下からとり出します。

また、道場のトイレには「コンポストトイレ」が採用されていました。人間の排泄物は、微生物の力を利用して分解され、有機肥料へと生まれ変わります。

仕組みは簡単で、用を足したら便器のなかにおがくずを入れるだけ。気になる臭いもほとんどしません。

木でつくられたトイレ小屋の内部写真。便器の横におがくずのはいったバケツが置かれてある。

バケツいっぱいの“おがくず”が、嫌な臭いを消してくれます。トイレなのに水がないことが、なんだかとても不思議でした。

水が必要ないので節水にもなるし、下水処理も必要なし。水道がない場所でもつくれるのがメリットです。

コンポストトイレの中身は「コンポストステーション」に運び込まれ、数年かけて堆肥になっていきます。

木の柵で囲われただけの「コンポストステーション」の写真。

コンポストステーション。排泄物が含まれているはずなのに、嫌な臭いがしません。

我が家にも生ゴミコンポストはあるけれど、コンポストトイレはハードルが高くてなかなか導入に踏み切れずにいました。

隣の家が近いので、コンポストステーションをどこに設置するか。臭いは大丈夫なのか。毎日となると、誰がコンポストトイレを管理するのか……。

でも、実際のコンポストトイレを体験してみると、とても快適! 臭いも気にならないし、水が必要ないので、民家が近くにない畑や田んぼの近くに試しに設置してみるくらいならできそうかも? と思うようになりました。

大きなカブトムシの幼虫を手にしている男性の写真。

堆肥のなかから大きなカブトムシの幼虫をとり出す海くん。いろんな生き物が共存しています。

畑には麦が植えられ、道沿いにはグアバ、バナナ、梨、ブルーベリー、たくさんのフルーツの木が並んでいました。まさに食べられる森。この植物の成長を支えるのも、コンポストの堆肥たちです。

海くんたちにとって、人間の排泄物も“ごみ”ではなく、大事な“資源”。上手に循環する仕組みをつくることで、森をさらに豊かにしていくのです。

高さ30センチほどに成長した麦の畑の写真。

敷地内にある麦畑。この麦で自家製パンをつくるそう。

畑でとれたものが自分たちの体を通って排泄物となり、それが堆肥になって畑で作物を育て、その作物をまた食べる。ここにいると、自分が“大きな循環”の一部なんだ、と体感することができます。

調理も、暖房も、お風呂も、「薪」で!

立派な母屋もあるけれど、海くんたちのリビングはなんと庭! 屋根も壁もない、焚き火を囲んだ丸太が置いてあるだけの広場です。

焚き火を暖房に、冬もこのオープンリビング(?)で過ごしたのだとか。

暗闇の中、パーティーライトが灯る屋外で、数人が話をしている写真。

夜はパーティーライトが点灯し、焚き火を囲みます。

そして、道場にはガスが通っていないので日々の調理や暖房は「薪」がメイン。そのため、庭の薪小屋には丁寧に処理された薪たちがずらりと並んでいました。

「薪って山に落ちてる木をそのまま使うんでしょう?」と思う方もいるかもしれませんが、山で拾ってきただけの木は湿気ていて火がつかないし、燃えたとしても煙がたくさん出てとても不便。

本来の薪は、木を伐ってから適切な長さにカットし、薪割りしてから1年は乾燥させないといけないので人の手間も、時間も、さらに薪を保管する場所も必要な、贅沢なエネルギーなのです。

たくさんの薪が積み上げられた薪小屋で、薪を割る女性の写真。

暮らしの要である薪。隙間時間には、ボランティアのミキちゃんが薪割りをしていました。

夜は、その大切な薪をたっぷり使った薪風呂に入らせてもらいました。体の芯までほかほかになったのはもちろん、貴重な薪を使ってもてなしてくれる、その気持ちが何よりうれしかった……!

筒形のロケットストーブの前に立ち、ロケットストーブの上に乗せたお鍋をかき混ぜる女性の写真。

ここのロケットストーブは立ったまま調理ができる高さで、使い勝手がよさそう。

キッチンでの調理は、上昇気流を利用して燃焼効率を高めたロケットストーブがメイン。小枝や落ち葉など少ない燃料で500〜600度の高い火力を生み出せるのが特徴で、炒め物はもちろん、ご飯を炊いたり、パンを焼いたりできちゃいます。

我が家でも昔ロケットストーブをつくりましたが、庭にかまどをつくってからは、あまり出番がありませんでした。

このアウトドアキッチンでつくった料理が本当においしかったので、我が家もまた復活させたいなあ……! 

マーマレードジャムが乗ったパンの写真。

この森に生えている柑橘でつくったジャムと、自家製小麦のパンをロケットストーブで焼いてくれました。エネルギーも含め、自給率がかなり高い!

道場で使われる電気は、ワークショップでつくった太陽光発電システムと、発電所から供給される一般的な商用電源のハイブリッド。自家発電のおかげで電気代は月1000〜2000円程度に収まっているそう。

ちなみに、太陽光でまかなえない状態になると、自動で商用電源に切り替わります。便利ではありますが、「どれだけ自家発電できているかがあまり把握できず、電気を意識的に使えないところがデメリットかな」と海くんは語ります。

エネルギーの「消費者」から「創造者」になるためには、プロセスをできる限り“見える化”することが大切だといいます。

さまざまな箱型の機械が並んだ写真。

再生可能エネルギーのワークショップなどを行う〈藤野電力〉さんと一緒につくった太陽光発電システム。

飲料水は「雨水」⁉ 

滞在中に一番驚いたのは、「雨水」を飲料水にしていること。「日本の雨水って飲めるの⁉」というのが一番最初の印象でした。

きれいなイメージはあまりない雨水ですが、本来は水蒸気が集まった不純物を含まない蒸留水。ただ、降ってくる途中で大気中の汚れなどが付着しています。

ここでは降り始めてからしばらく経ったきれいな雨水を活用しているそう。

FIRST FLUSH FILTERと書かれた長い縦型のパイプと、その横に大きな水瓶が置かれている写真。

「この暮らしはいろんなことに時間がかかるから、メンテナンスが楽になるように、できるだけシンプルにデザインしてる」と海くん。

この雨水システムの仕組みはとても簡単で、写真の「FIRST FLUSH FILTER」と書かれているパイプのなかにボールが入っているだけ。

降り始めの雨が一定量パイプ内に溜まると、ボールが押し上げられ、パイプを塞ぎ、もう一本のパイプから隣のタンクにきれいな雨水だけが溜まっていくというもの。その過程で、屋根に付着した不純物を洗い流した水も取り除いてくれます。

パイプ内に特別な濾過システムが入っているに違いないと思っていた私は、ただただ驚愕してしまいました。

網の掛かった雨どいと、パイプとの接続部分に茶こしが乗っている写真。

特に濾過はせず、木の枝などが入らないように雨どいにカバーがされていることと、パイプとの接続部分に茶こしがふたつ重ねてあるだけ、とのこと。

シンプルな方法で集水されたこの雨水は、夏に行った水質検査に2度合格。安全性を確かめるため、雨が降らないことで水が入れ替わらず、暑くて病原菌が繁殖しやすいこの時期にあえて検査したのだそう。

海くんたちは、日常的にこの雨水と井戸水の両方を使っているけれど「雨水のほうがおいしいから」と雨水をメインの飲料水にしていました。

ちょうど海くんがこの道場を案内してくれた日も雨。この雨が私たちの飲み水になるのかと思うと、憂鬱な気分になりがちな雨も、“恵みの雨”のように感じました。

森のなかで、正面をみて笑う男性の写真。

敷地内には、小さな果樹の苗がたくさん植えてありました。

そして、実際に「“自分が”雨水を飲む」立場になったことで大気汚染や雨水汚染などの環境問題がぐっと自分ごととして感じられました。

我が家は山の湧き水で暮らしているので、雨水は長い年月を経て地層などの自然の濾過システムで浄化されています。

けれど、ダイレクトに飲むとなったら話は違います。“環境のため”だけでなく、“自分たち”のために雨水を安全なものにするには、どうしたらいいのだろう? どこか遠くに感じていた環境問題の“当事者”となった瞬間でした。

上下水道のない我が家では、生活排水は田んぼに流れ、その水を鶏が飲みます。だからこそ「自分たちが口に入れたら嫌なものは、環境に排出しない」というのが私たちのポリシー。あらためて、この信念を守っていこうという思いが強まった体験でした。

※雨水の安全性は、場所・集水方法などによって異なります。飲用は自己責任で行ってください。

この暮らしを選んだ道場のみんなに拍手したい!

赤、黄、青に塗られたカラフルな壁の小屋の写真。

敷地内には、ワークショップなどで建てた小屋が3つも! 今までたくさんの人たちと一緒にものづくりをしてきたんだなあと感慨深い気持ちに。

ガスの代わりに薪を使い、水道の代わりに雨水を使う暮らし。キャンプ感覚で数日体験するのではなく、「暮らし」としてそのスタイルを貫いていることに、ただただリスペクトの気持ちでいっぱいになりました。

「暮らしづくり」の実践は、豊かさや楽しさ、たくさんの学びがあるけれど、同時にとても時間や手間がかかります。

我が家は食料自給率は高いけれど、畑や田んぼ、仕事づくりの時間を捻出するために薪だけの暮らしは難しいし、コンポストトイレもないので、排泄物は活用できていないのが現状です。

そういった限りある時間や資源、マンパワーのなかで今回「我が家でも挑戦できそうかな?」と思ったのがこの3つ。

男性2人、女性1人、子ども1人が写っている写真。

海くんとみさこちゃんファミリーと、熊本から来ていたゆうきくんと。

1.ロケットストーブの復活

道場のロケットストーブは背が高く、屈んで作業しなくていいのでとても調理がしやすそうでした。我が家のロケットストーブも改良して、庭でパーティーをするときに活用したい! 

2.コンポストトイレの挑戦

メインのトイレを切り替えるのは難しくても、畑の横にちょこっと設置するくらいならできそう! 

3.小屋づくりもしてみたい

道場のあちこちに建てられた小屋は、つくり手の思いを感じるすてきなものばかり。古材や廃材を使って、自然素材で断熱して、雨水システムを活用して……母屋は難しくても、小さい小屋ならいろんな実験ができそう! と胸が弾みました。

道場のみんなの挑戦を通じて、暮らしを自分たちの手でつくる楽しさやワクワクが、もっともっとたくさんの人に届きますように。

この暮らしを体験してみたい! という方は、2024年7月10日(水)〜15日(月・祝)に行われるイベント「エコビレッジの世界と暮らしに触れるリトリート」へ!

ご自身のタイミングで滞在したいという方は、道場のさまざまな見学・体験メニューをチェックしてみてください。

海くんが監修した、子どもも大人も一緒に“持続可能な生き方”が学べるワークブック「みんなのちきゅうカタログ」もおすすめです!

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パーマカルチャーと平和道場

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CHIHARU HATAKEYAMA

畠山千春

はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。ブログ:ちはるの森

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