現在、約300種もの品種があるといわれている日本のイチゴ。よく知られている「あまおう」や「とちおとめ」といった人気ブランドだけでなく、大粒の「スカイベリー」や白色イチゴ「天使の実」など、新品種ブランドも次々と誕生し、市場競争も激化。そんななか、愛知県農業総合試験場とJAあいち経済連が、5年にわたり共同開発した新品種ブランド「愛きらり」の販売が2023年2月1日よりスタートしました。
糖度13〜14度の大粒イチゴ。かたちも整っていて色鮮やかで美しい。
新品種ブランドの誕生はイチゴの素材を何回もかけ合わせて改良愛知は、栃木や埼玉、九州地区ほどイチゴの生産が有名ではありませんが、実は生産量全国6位を誇るイチゴの名産地です。特に三河エリアは、温暖な気候と日照時間の長さで、おいしいイチゴを栽培するのに適した地域といわれています。この愛きらりは、人気の作付品種「章姫」や「かおり野」といった品種の素材を使い、改良を重ねて開発されたもの。このかけ合わせがとても難しく、5年間で開発できたのは幸運なのだとか。現在、愛知県下では約60名の農家が試験栽培し、市場へと出荷させているそうです。ツヤがあり、濃い赤色が特徴で、太陽を浴びてキラキラ光る様子はまさに「愛きらり」。
実際に生産農家を訪ね、「愛きらり」のおいしさを体感してみた「愛きらり」の試験栽培をしている農家が多い豊川市で、代々イチゴ専業農家を営んでいる日恵野克好(ひえの かつよし)さんに、生産者から見た「愛きらり」についてお話をうかがいました。
「イチゴは1本の苗からどれだけ多くの実が採れるかが勝負なので、農家はその点でいろいろと苦労しています。今まで旬といわれるクリスマスシーズンや1〜2月は、イチゴの収穫量が減ってしまうことも悩みのひとつでした。その点、この愛きらりは育てやすいうえ、冬場でも生産量が安定していて、1本の苗からたくさんの収穫量が見込めるのがうれしい」と日恵野さん。
約150坪の広さのハウス内で「愛きらり」を栽培している日野恵克好さん。
実際に、ハウスの中で「愛きらり」をひと粒いただきました。まず香りが強く、食べる前から甘い匂いが漂います。ひと口かじると、「これは、イチゴ革命!」と思えるほど、スイーツを丸かじりしているような甘さが口中に広がりました。4Lサイズと大粒なうえ、ヘタの部分ギリギリまでたっぷりと甘く、ひと粒で充分、満足感が得られました。愛きらりは、11月から6月と長期間の栽培が可能で、どの時期に食べても糖度13〜14度の甘さが楽しめるとか。
4Lといわれるサイズの大粒のイチゴ。
新規就農者も増加。若手農業従事者に期待が集まる愛知県ではイチゴの専業農家の新規就農者が増加しているそうです。愛知県内のJAが新規就農研修を開催したり、先輩農家のもとで、実務研修できるなど、バックアップ体制もしっかりしています。研修後は「新規就農サポートセンター」が、農地やハウスを借りるための支援も行っているとか。
「4〜5年前ぐらいから、行政も力を入れて研修制度を充実させ、毎年1〜2人の新規就農者が誕生しています。うちでも現在、研修生を受け入れており、1年かけてイチゴ栽培を指導しています」と日恵野さん。農業離れが叫ばれるなか、新品種ブランドの誕生と新規就農者の話は、きらりと光る未来を感じさせてくれました。
「愛きらり」はまだ試験販売のため、一部県内の量販店で販売がスタートしたばかりですが、愛知県内には旬のイチゴが楽しめるスポットやスイーツがたくさんあります。その一部をご紹介します。
人気の品種を食べ放題、今が旬のイチゴ狩りを堪能。〈あいのいちご農園〉愛知県常滑市で2022年12月にオープンした〈あいのいちご農園〉は、脱サラして農家となったオーナーの稲葉力三(いなばりきぞう)さんが始めた農園です。広々としたハウスの中で、人気の「章姫」と愛知県のオリジナル品種「ゆめのか」を45分間食べ放題で味わえます(品種は選べません) 。
ナイターイチゴ狩りのハウスの様子。
ハウス内は広いレーンとなっているので、車いすやベビーカーでも安心。金土曜日には、ナイターイチゴ狩り(17:00〜20:00 最終受付19:00)も行っていて、仕事帰りや常滑観光の帰りにも楽しめるのがうれしい。
information
あいのいちご農園
住所:愛知県常滑市樽水字大坪174
TEL:090-6585-1781
営業時間:9:00〜15:00(最終受付14:00)、金・土曜のみナイター営業17:00〜20:00(最終受付19:00)
定休日:月曜
Web:あいのいちご農園
愛知県名古屋居を拠点にカフェやフリースペースを運営する建築デザイン会社〈エイトデザイン〉。ここが手がけるタルトとサンドイッチの店〈ハチカフェ〉では、すべてのタルトがイチゴタルトとなってショーケースに並ぶイチゴフェアを3月末まで開催中です。愛知県内の農家から直接仕入れた「すず」「かおり野」「おいしいベリー」「紅ほっぺ」など5〜6種類のイチゴを使用。人気のイチゴパフェもあり、イチゴづくしを堪能できます!
information
ハチカフェ 鶴舞店
住所:愛知県名古屋市昭和区鶴舞2-16-28
TEL:052-613-8548
営業時間:10:00〜18:00
定休日:火曜
Web:ハチカフェ
サツマイモのスイーツ専門店として人気の〈いもや和真〉では、3月中旬ごろまで「大きな苺大福」を販売(1日50〜60個売り切れ次第終了)。地元の農家から直接仕入れた大粒イチゴが大福から飛び出している様子が話題になっています。餡を包むぎゅう肥のやわらかさと、もちもちとした食感に、ジューシーなイチゴ果汁が口の中で溶け合います。
information
いもや和真 豊田本店
住所:愛知県豊田市大林町10-20-12
TEL:0565-42-3181
営業時間:10:00〜19:00
定休日:月曜・臨時休業あり
web:いもや和真
writer profile
Naomi Kuroda
黒田 直美
くろだ・なおみ●愛知県生まれ。東京で長年、編集ライターの仕事をしていたが、親の介護を機に愛知県へUターン。現在は東海圏を中心とした伝統工芸や食文化など、地方ならではの取り組みを取材している。食べること、つくることが好きで、現在は陶芸にもはまっている。