津留崎家が住む伊豆下田の基幹産業は「観光」です。津留崎鎮生さんは「エコツーリズム」に注目し、活動を始めています。
そんななかで大学生が下田で行うフィールドトリップの授業に参加する機会を得ました。参加して得た体験が今後の活動のヒントになりそうです。どんなフィールドトリップだったのでしょうか?
わが家が暮らしている伊豆下田の基幹産業は観光業です。国内最高水準の水質、東京から3時間の距離でありながら海外リゾートを思わせる白砂の海水浴場が市内に10か所、伊豆半島ユネスコ世界ジオパークということで地球の成り立ちを感じさせるダイナミックな地形を有するスポットも何か所もあります。つまり「売り」は、何よりも「自然環境」といえるのでしょう。
ジオスポットとしても人気の爪木崎。エメラルドグリーンの海、本当にキレイです。
ただ最近は、名だたる観光地で、客が増えすぎたがために環境が破壊される、地域の住民の暮らしが不便になる……そんな「オーバーツーリズム」が問題になったりもしています。ここ下田でも、夏の海岸にはゴミが散乱していて、とても悲しくなることもありました。
定期的に地域の子どもたちとビーチクリーンをしていますが、あっという間にすごい量のゴミが集まってしまいます。
対して、地域の自然環境や歴史・文化の魅力を伝えながら、それらの保全につなげることを目指す観光のかたちとして、今注目を集めているのが「エコツーリズム」です。今年度、下田市ではそんなエコツーリズムを推進させるプロジェクトチームを立ち上げることになり、光栄なことにメンバーとして参加しております。
会議の様子を地元新聞にとり上げていただきました。
実は、これは突然任命されたワケではなく、昨年度の『グローカルCITYプロジェクト・SDGs海の環境を守るワーキンググループ』に参加していて、こちらでさまざまな提案をさせてもらったことが縁となってのお誘いでした。ワーキンググループは提案主体だったので、実現に向けたプロジェクトチームの立ち上げに参加できたことはとてもうれしく感じています。
先日は、そんなプロジェクトチームメンバーとして、自分の考える『下田ならではのエコツーリズム』についてプレゼンテーションさせてもらいました。
どんな内容だったのか? といいますと、海と山が近い下田では、それぞれの魅力を知ることができるうえに、それぞれで起きている問題も学ぶことができます。そんな下田でやるべきエコツーリズムとして、学生や子どもたち、これからの社会を担う世代を対象とした、環境問題を知る、そして行動へのキッカケづくりとなるような「合宿型エコツーリズム」を提案しました。
下田には「開国のまち」としての歴史があります。実は開国をキッカケとして、江戸時代に築いてきた「里山の資源を有効活用する循環型社会」から、現代の「化石燃料に依存した大量生産、大量消費、大量破棄型の社会」にシフトしていきました。その結果、温暖化を起因とする多くの環境問題を引き起こしてしまっていて……。
もちろん現代の暮らしは『快適便利』で、今さら江戸時代のような暮らしに戻れません。でも、そうした快適便利との引き換えに起きている環境問題を知り、江戸時代の循環型社会の肝ともいえる「里山」で、その循環がどのようにして成り立っていたのか? を知ること、体験することが、今後必要なあらたな循環型社会を考える際のヒントになるのではないか?
また、学生や子どもたち対象の合宿型エコツーリズムであれば、一度、各行政や教育機関との関係を築けば、その後安定した計画的なプログラムづくりができる利点もある。そんな提案をさせてもらいました。
わが家は、耕作放棄地となっていた田んぼで、里山の竹林を伐ってつくる「稲架(はざ)」掛けで天日干しの米づくりをしています。こうして里山の田んぼを、竹を、使うことが、何より里山を循環させて健全に保つともいえます。
そんな矢先に、個人的に交友を続けていた、学芸大学非常勤講師で『世界の環境問題』の講義をされている野口扶美子先生が、その講義のフィールドトリップを下田で企画されていました。まさにプレゼンで提案したような『合宿型エコツーリズム』が行われるようです。今回、特別に地元側のサポート役として自分も参加させてもらい、一部分、下田の自然と人のくらしのつながりを学ぶアクティビティの企画とガイドをさせていただきました。学生のみなさんのリアクションもとてもよく、下田での『合宿型エコツーリズム』の可能性を感じております。どんなフィールドトリップだったのか? どんな学びがあったのか? その様子を紹介します。
参加者は、学生が16人、そのうちふたりが留学生で、1泊2日の行程です。
まずは、地元の下田高校からスタート。高校生と大学生混合の何グループかに分かれて、高校生から下田の魅力や課題をヒアリング、そして、課題解決のアイデアを発表しました。
高校生と大学生。歳も近いこともありすぐに打ち解けています。静岡のテレビ局や新聞の取材もはいるほど、地元では注目されていました。
大学生にとっては下田を知るファーストステップ、地元高校生にとっては、地域を考えるヒントや今後の進路の参考にもなる貴重な機会になったようです。
その後、市役所に場所を変えて、行政の担当者からSDGsの取り組みの紹介があり。次に、サポート役として参加している自分が、なぜ東京から下田に移住したのか? そして移住してからの下田での暮らしの様子をお話しさせてもらいました。
行政としてのSDGsの取り組み、廃ペットボトルを再利用、放置竹林の有効活用の事例を紹介。
そして、フィールドへ。まずは、市内でもっとも漁の盛んな須崎地区へと移動し、須崎漁港と恵比須島を回りました。
漁港では、最近起きている海の変化について説明。
島といっても橋で渡れる恵比須島。伊豆半島ジオパークの代表的なスポットで、ジオパークならではの『地球の成り立ち』を感じることができるスポットです。15分もあれば1周でできる小さな島、お連れしたみなさんの多くが感動してくれます。
ダイナミックな地形に学生たちは興味津々。
島のあちこちにある『四角い穴ぼこ』はなんでしょう? という質問を学生たちに投げかけてみました。おわかりになりますか? 答えは……石(伊豆石)を伐りだした跡です。伊豆石は、海運が盛んだった江戸時代には船で江戸に運ばれて、江戸や横浜のまち並みをつくっていた歴史もあります。
恵比須島の南端にて『地球は丸い!』を実感してもらいました。みなさんとても感受性が強く、リアクションたっぷりで地元側としてもうれしくなります。高校時代はまるごとコロナ禍だったという世代で、よりこうしたリアルが響くのかもしれません。たくさんリアルを感じてほしい!
そして、海を堪能した後は『里山』へ。下田湾へと流れ込む稲生沢川沿いを北上します。途中、湧水「落合の水」で水を汲み(都会の若者にとってはこれもかなり貴重な体験といえます)、宿泊先の稲梓地区、里山ひろがる横川温泉の千代田屋旅館へと到着。
雨がふらない時期でも枯れることなく、こんこんと湧き出る水。都会では、水はペットボトルのミネラルウォーターを「買う」のが当たり前でしょうが、水もこうした自然の恵みです。
千代田屋旅館は、わが家の田んぼのすぐ近くの宿で、そもそもはこちらのご主人との付き合いのなかで、田んぼもお借りすることできています。(写真は春に撮影したものです)
旅館の周辺は、こんな典型的な「里山」の風景がひろがっています。手前がわが家の田んぼです。
まずは、自慢の厳選かけ流しの温泉を堪能してもらい(温泉も火山の半島、伊豆の恵みですね)車座になって座談会。会には、山のプロフェッショナルとして千代田屋さんのご近所の方(御年89歳!)や、リアルな海の変化の話も学生に聞いてもらいたいということで海の達人の友人ふたりにも参加してもらいました。(ご協力感謝です!!)
御年89歳の山の達人には、化石燃料が普及する前の里山での暮らしについての実体験に基づく貴重なお話を伺いました。あらためてこの100年弱での暮らしの変貌ぶりに驚いてしまいます。
そして座談会後の夕食では、学生も先生も地元の人もみんな混ざって、海の話から山の話、深い話から笑える話までが飛び交う良き時間となりました。
千代田屋旅館さんには、学生たちに下田の食材を味わってもらいたいと特別に食事のアレンジをお願いしていて、金目鯛の煮付、刺身にひじきの煮物といった海の幸に、下田稲梓産の本わさび、千代田屋さん自家製の自然薯に自家製ご飯。猪汁という山の幸。まさに下田の海山の魅力たっぷり御膳!普段、魚をあまり食べない、ジビエなんて食べたことない、という学生たちも、みんなおいしそうに食べてくれてました。
東京にいると、スーパーに並んでいる『食材』が工業製品のように感じてしまうこともありますが、食材も自然の循環のなかにあるのだと感じてもらいたいです。
金目鯛にもいろいろとあるのですが、最高級の「地キンメ」を地元の方から提供していただきました。地域のみなさんの、学生たちに下田を楽しんでもらいたい! という想いが、最高にうれしい。
2日目朝は、『里山散策』。まずは千代田屋旅館のすぐ近くにある自分がお借りしている田んぼからスタートします。
ここでは自分のほうから1反の田んぼでどれくらいの米がつくられるの?日本人はひとり当たり1年にどれくらいの米を食べるのか?田んぼっていくらで借りられるのか?今、里山で起こっている問題は?……そんなこんなの話をさせてもらいながら、田んぼの水源まで散策しました。
朝の里山、気持ちいい!
朝ごはんを済ませて、千代田屋旅館の看板ヤギさんと戯れてから……
ヤギさんも草をもぐもぐ食べて、コロコロと糞をして。循環に一役かっています。
そして、再び海へ移動。伊豆漁協下田支所にて、下田の漁業の概要、なかなか知ることのできない現場で起こっている問題など興味深い話ばかりをお聞きしました。
昨晩おいしく食べた「金目鯛」の日本一の漁獲量を誇る下田で、その漁で今起こっている問題点を聞く。ただ問題が起こっている、と授業で聞くのとは違うインパクトがあります。
今回はタイミングが合わずセリは見学できず。残念!
そして、漁協と隣接する道の駅でみなさんお土産を買って解散!帰路へとついたのでした。
1泊2日のフィールドトリップ終了!果たして手ごたえは?今回のフィールドトリップに参加して、またその企画の一部を提案させてせていただき、このような下田での『合宿型エコツーリズム』や、地域の自然と人の暮らしの関わりをみせる「ガイドツアー」を、市のプロジェクトチームで今後、企画を発展させていく上でも、とても参考になりました。さて、どんな企画となるのか?絶賛思案中ですので、こちらもまとまったらまた紹介させていただきます。
エコツアーでは見て知って、そして『行動する』キッカケとなるようなアクティビティを企画しています。アクティビティというと語弊があるかもですが、まずはビーチクリーンでしょうか。残念ながら、拾っても拾っても……いくらでもあるのです。
ただビーチクリーンをするだけではアクティビティとしてはストイックすぎるので、ビーチグラス探しもすれば、楽しみもあってよいのかな? と考えています。ビーチグラスとはもともとは尖っていたガラスの破片が海の中で長年揉まれて角が取れたもので、過去にこの連載でも取り上げています。(photo:津留崎徹花)
毎年のわが家での田んぼ作業では、参加してくれた方から「貴重な体験をさせてもらってありがとうございます」なんて言われることもあります。こちらとしてはお手伝いしてくださってありがとうございます! なのですが。参加者と地域、お互いが幸せになれるWIN-WINなコンテンツがベストなのだろうと感じています。
文 津留崎鎮生
text & photograph
Shizuo Tsurusaki
津留崎鎮生
つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram