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廃校発の展覧会イベントがまちなかのホールへ出張! 巨大な空間は埋まるのか? 

  • 2023年10月25日
  • コロカル
山あいの過疎地でやっていたイベントがまちなかに!?

私が代表を務める地域PR団体が主催して、北海道岩見沢市にある旧美流渡(みると)中学校で毎年開催している『みる・とーぶ展』。今年は年2回開催し、秋の展示が10月1日に終わったばかりだったが、なんと、その次の週末には、まちなかに出張して展示を行うこととなっていた。

秋の『みる・とーぶ展』。地域の作家による手仕事の作品を販売したショップコーナー。

秋の『みる・とーぶ展』。地域の作家による手仕事の作品を販売したショップコーナー。

出張展示は、岩見沢市の「開庁140年・市制施行80周年記念事業」の一環となっていて、10月の第2週の週末を中心に、私たち以外にも、まちのあちこちで多彩なイベントが開かれていた。

この話が具体的になってきたのは今年の春のこと。場所は岩見沢駅近くの広場にある〈イベントホール赤れんが〉。市の担当者と協議するなかで、この「赤れんが」が開催場所の候補となったとき、一瞬私はのけぞった。

イベントホール赤れんが。

イベントホール赤れんが。

〈赤れんが〉は人工芝を敷き詰めた屋内運動場のような場所で、とにかく広い。普段ライブやスポーツイベントなどをやっていて、『みる・とーぶ展』の展示作品を並べるだけではとても埋まらないし、作品の世界観を伝えるようなムードもつくりにくい。いつもは自然に囲まれた山あいの校舎でイベントを開催している私たちにとって、まったく違うシチュエーション。「いったい、どうしたらいいのか」と不安がいっぱいになった。

シャボン玉をみんなで描いて、それをつるそう!

そんなとき、旧美流渡中学校の企画をともに考えてくれている、美流渡に移住した画家・MAYA MAXXさんが、こんな提案をしてくれた。

「『シャボン玉を描こうワークショップ』の作品をたくさん飾ってみたら?」

旧美流渡中学校で開催されたワークショップの様子。

旧美流渡中学校で開催されたワークショップの様子。

MAYAさんは絵画制作とともに、十数年間、子どもたちと絵を描くワークショップを続けてきた。主に行ってきたのは、横幅3メートルの白い防炎シートに手と足で絵具を塗り、その上に絵を描く「大きな絵を描こうワークショップ」と、鏡で自分の顔をよく観察しながら目、鼻、口と順番に描いていく「自画像を描くワークショップ」。

大きな絵を描こうワークショップ。白い防炎シートの上にまずは手と足で色を塗っていく。

大きな絵を描こうワークショップ。白い防炎シートの上にまずは手と足で色を塗っていく。

上から筆で描いていく。

上から筆で描いていく。

昨年からは、シャボン玉を実際に観察して、それを透明シートに描いていくというワークショップも始めた。

「シャボン玉は透明に見えるけれど実は虹色。このワークショップは子どもたちが初めて描く抽象画だよ」

「シャボン玉って何色? よーく見て」とMAYAさんは子どもたちに声をかける。

「シャボン玉って何色? よーく見て」とMAYAさんは子どもたちに声をかける。

ただの丸を描くのとは違う、子どもたちなりの実感がこもったシャボン玉の丸。そのどれもが違っていて、とてもきれい。そうか、赤れんがは天井が高いから、そこからこれを吊るしたら楽しそう!!空間全体をインスタレーションととらえて取り組めばいいんだと考えられるようになった。

色とりどりのシャボン玉が描かれていく。

色とりどりのシャボン玉が描かれていく。

また、もうひとつ、いつも旧美流渡中学校の体育館で展覧会期間中に開催している「ミルトぼうけん遊び場」のことを、まちなかの人にも知ってほしいと思った。この遊び場を運営してくれている林睦子さんと相談し、トランポリンやすべり台、楽器やおままごと、木工遊びセットなどを持っていくことにした。

体育館を開放して行われる「ミルトぼうけん遊び場」。

体育館を開放して行われる「ミルトぼうけん遊び場」。

10体の動物たち「Zoo, Zoo, Miruto」も制作!

こんな感じで赤れんがでの企画が決まっていくなかで、さらなるアイデアが浮かんできた。秋の『みる・とーぶ展』では、MAYAさんによる10メートルの鳥の塔をグラウンドに設置。この制作をサポートしてくれた、岩見沢市にある栄建設の佛田尚史社長と打ち合わせをしている際に、鳥の塔と同じ構造のミニュチュア版を赤れんがで展開したらおもしろいんじゃないかというプランが持ち上がった。

グラウンドに設置した鳥の塔「ビッグバードプロジェクト」。

グラウンドに設置した鳥の塔「ビッグバードプロジェクト」。

「2メートルくらいの高さで、10体の動物ができたらいいね」とMAYAさん。

骨組みづくりは栄建設がサポートしてくれることになり、頭と飾りつけを私たちがすることになった。しかし、この動物シリーズの制作の話が決まったのは夏のこと。それ以降『みる・とーぶ展』の準備などもあり、赤れんがのプロジェクトにかけられる日数は限られていた。

骨組みの設計図。トップに動物の頭を乗せる。

骨組みの設計図。トップに動物の頭を乗せる。

10体の動物をどうやってつくったらいいのだろうと考えていたタイミングで、貴重な出会いがあった。夏に行ったフェスティバルに参加してくれた布小物を制作している榊原美樹さんとあるとき話をしていたところ、美術大学でFRP(繊維強化プラスチック)による造形を学んでいたと知った。これまで着ぐるみの制作もしたことがあるそうで、動物づくりのプロジェクトを一緒にやってくれることに!!!!

「へんぺこ」という屋号で、ユーモラスな表情の人形を制作する榊原さん。

「へんぺこ」という屋号で、ユーモラスな表情の人形を制作する榊原さん。

9月初旬に制作がスタート。MAYAさんのスケッチをもとに、榊原さんと私、ほか3人の仲間(チームMAYA MAXX と呼んでいる)が集まった。榊原さんが効率よく立体にする方法などを提案してくれて、思いのほかサクサク作業が進んだ。

これまでもMAYAさんと仲間たちとで、クマの顔の立体と、鳥の塔の顔の制作を行っており、スタイロフォームという断熱材(発泡スチロールのようなもの)を重ねて、そこから立体を削り出し、最後にFRP樹脂で固めてきた。今回も基本の工程は同じだが、榊原さんがやりやすいコツを教えてくれて、本当に助かった。

50ミリのスタイロフォームを重ねて、それを丸く削り出す。

50ミリのスタイロフォームを重ねて、それを丸く削り出す。

昨年から、MAYAさんと一緒にクマの顔の立体制作を行ってきた遠藤亜未さんはアオムシの制作を担当。

昨年から、MAYAさんと一緒にクマの顔の立体制作を行ってきた遠藤亜未さんはアオムシの制作を担当。

スタイロフォームをFRPで固める作業は榊原さんが一手に引き受けてくれた。それをみんなで着彩していった。

スタイロフォームをFRPで固める作業は榊原さんが一手に引き受けてくれた。それをみんなで着彩していった。

クマ、パンダ、ウサギ、ネコ、カエル、アオムシ。顔はなんとか完成! あと1週間に迫ったなかで、体の制作を行っていった。骨組みに白いシートを被せ、ハートや水玉、ストライプなどを描き、さらにパンダは笹、クマは松ぼっくりで覆うことになった。タイムリミットの迫るなか、時間を見つけては仲間が駆けつけてくれて、搬入日2日前にすべてが終わった(やったー!!)。

ラストスパートは子どもたちも一緒に!

ラストスパートは子どもたちも一緒に!

首元が寂しいからと風船アーティストのベラさんが、飾りつけをしてくれた。

首元が寂しいからと風船アーティストのベラさんが、飾りつけをしてくれた。

できた動物たちを黙々と梱包する榊原さん。最後の1か月は毎日のように制作に通ってくれた! 作品のタイトルは「Zoo, Zoo, Miruto」に決定!

できた動物たちを黙々と梱包する榊原さん。最後の1か月は毎日のように制作に通ってくれた! 作品のタイトルは「Zoo, Zoo, Miruto」に決定!

準備中の会場の様子。上から見るととても広い!!

準備中の会場の様子。上から見るととても広い!!

広いと思っていた空間が、みる・とーぶらしさに包まれて

『みる・とーぶがやってきた!』展は10月7日、8日、9日に開催された。オープン初日、向かい側で『sozo』という北海道大学が主催となった音楽とフード、カルチャーをテーマにしたイベントも開催され賑わった。シャボン玉を描きにきてくれる親子連れも多く、およそ8メートルの透明シートに絵がどんどん描かれていった。

いよいよオープン。動物たちがお出迎え。

いよいよオープン。動物たちがお出迎え。

キャスターがついているので動かして、広場のさまざまな場所に設置。

キャスターがついているので動かして、広場のさまざまな場所に設置。

みんなでシャボン玉を描いていきます!

みんなでシャボン玉を描いていきます!

また、この日は午後から、札幌を拠点に活動するシンガーソングライターの長澤まろいさんとアフリカ太鼓のバンド〈みるとばぶ〉のライブも開催された。

長澤まろいさんのライブ。

長澤まろいさんのライブ。

ライブを見ていて「みる・とーぶ」らしいなーとしみじみ思った。会場には100名ほどいたが、6割以上の人が、「ぼうけん遊び場」と「シャボン玉を描こう」エリアにいて、子どもたちは、ぴょんぴょん跳ね回ったり、絵を描いたりと自由にしていた。そのかたわらで、大人たちはライブに耳を傾けた。

ぼうけん遊び場で過ごす親子。3日間、毎日来てくれた家族も!

ぼうけん遊び場で過ごす親子。3日間、毎日来てくれた家族も!

「夜のライブハウスになかなか行けないお父さんお母さんにも聞いてほしいから、旧美流渡中学校の体育館で歌ってみたい」

そんなふうに長澤さんは考え、夏にこの場で歌ってくれた。そして、今まちなかでも、同じ光景が広がっていた。

シャボン玉を描いたシートが増えていきました!

シャボン玉を描いたシートが増えていきました!

できあがったらシートをどんどん飾っていく。風に揺られて美しい。

できあがったらシートをどんどん飾っていく。風に揺られて美しい。

作品の販売も! 「へんぺこ」のブース。

作品の販売も! 「へんぺこ」のブース。

〈アトリエ遊木童〉の家具の販売。

〈アトリエ遊木童〉の家具の販売。

〈すずかぜcafe〉によるガラスアクセサリー。

〈すずかぜcafe〉によるガラスアクセサリー。

〈きなり〉による薬膳スープカリーとコロッケ、無農薬自然栽培のブドウジュース。

〈きなり〉による薬膳スープカリーとコロッケ、無農薬自然栽培のブドウジュース。

3日間、シャボン玉のワークショップを続け、11枚の透明シートが完成した。1枚、また1枚と飾っていくごとに、会場が明るくなっていく。クローズ間近までシートを天井から張っていき、最後に会場のあちこちに点在させて置いてあった動物たちを一列に並べてみた。

https://youtu.be/Rf12x0IKsG4

「わあ! きれい!! かわいい!!!」と笑い合って、スタッフ全員で写真を撮った。

なんだかとても満ち足りた気持ちで終わりを迎えられたのは、みんながずっとひとつの空間で、この3日間をともに過ごしたからかもしれない。旧美流渡中学校の展示は、作品販売は1階、ぼうけん遊び場やライブは体育館、ワークショップは2階、MAYAさんの展示は3階と、それぞれエリアがわかれていて、みんなバラバラの場所で活動しているため、お互いにどんな状況だったかはわからないことも多い。今回のように、シャボン玉のシートがどんどん貼られていく様子や子どもたちの遊ぶ様子、作品を買ってくれる人の様子を、みんなで一緒に体験できたことはとても大切なことだと思えた。

最終日にみんなで記念撮影。

最終日にみんなで記念撮影。

片づけもみんなで力を合わせて!

片づけもみんなで力を合わせて!

これで今年の「みる・とーぶ」の大きなイベントは終了。また春にみなさんに会えるように、冬はこもってじっくり準備をしていきたい。

飾り終わったシャボン玉のシートは、旧美流渡中学校の体育館に展示。お疲れ様でした!

飾り終わったシャボン玉のシートは、旧美流渡中学校の体育館に展示。お疲れ様でした!

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/

https://www.facebook.com/michikuru

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