音楽好きコロンボとカルロスがリスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは宮城県仙台市。
51年の歴史。お客さんと敵対した関係から寄り添う関係へコロンボ(以下コロ): レコードバーのご主人って、お客さんの音楽の嗜好を探り出すのがうまいよね。
カルロス(以下カル): 初めて飲みに行った店でも、連れとの会話から推理して、さり気なく好きな曲をかけたりしてくれると、驚く。
コロ: ここ〈Peter Pan〉の店主の長崎英樹さんに、それについて尋ねたら、40%はドンピシャで、15%はハズレ、残りは当たらずしも遠からずだってさ。
カル: やっぱ会話からなの?
コロ: もちろんそれもあるけど、身なりと髪の長さもポイントらしい。ボクがうかがったとき、試しにボクの場合は誰が好きそうですか? と聞いてみたら、これが気持ち悪いくらいドンピシャなの。
カル: まさに創業51年の所業。どんな推理だったの?
コロ: 靴をチェックするのを忘れちゃったからと、「うーん」と考えていたんで、「白いアディダスのスーパースターです」と教えたところ……。
カル: まさかニール・ヤングと?
コロ: そうなのよ、そのまさか。熟考の末、タンテに置いたのが『ハーヴェスト』。
カル: まさにドンピシャだ。
コロ: 悔しいから、いちばん好きなアルバムは『ZUMA』だって悪態ついたら、それもかけてくれた。
ドンビシャで取材者の嗜好を探ってかけたニール・ヤングの『ハーベスト』。
〈Peter Pan〉創業は1972年5月3日。今年で創業51周年。
カル: やさしい。老舗ロックバーだから、お客さんに寄せたりしないのかと思ったよ。
コロ: 昔はお客さんと好みが敵対していたらしいよ。ロックバーのくせにレッド・ツェッペリンとかのハードロックが全然ダメだったらしくて。
カル: それはまずいね。ビートルズなんかはどうなの。
コロ: ジョンが冴えないって理由で、『アビイ・ロード』だけは買わなかったらしい(笑)。影がないとダメなんだって。ビートルズのメンバー、ひとりひとりには興味がないなんだって、なのでポールのライブも見る気がしないそう。
カル: かなり偏っているけど、どの辺がストライクゾーンなのかな。
ビートルズでいえばジョンの影が薄い『アビイ・ロード』にまったく興味がないとか。
以前は嗜好がかなり偏向していて、お客さんと敵対していたそう。
コロ: リトル・フィートは当時、ビートルズを超えると信じていたらしい。あとはジョニー・ミッチェルとかジェイムス・テイラーとか。ジェイムス・テイラーでいちばん聴いたのは『スウィート・ベイビー・ジェイムス』だって。
カル: 『ワン・マン・ドッグ』とか『マッド・スライド・スリム』じゃないんだね。
コロ: ジェイムス・テイラーは本来、いたってまじめでシリアスで凝り性。このアルバムはスケジュール的に凝るひまがなかったみたいで、彼にしては雑になってしまったのが、逆に良かったそうだ。
カル: ジェイムス・テイラーってちゃんとし過ぎてたんだ。たしかにニール・ヤングとは違う気がするよね。でも、さすがに今はお客さんとは敵対してないんでしょう。
コロ: 媚びるくらいにお客さんに寄せていて、お客さんの様子を見ながらかけているそうだ。
最も好きなジェイムス・テイラーの『スウィート・ベイビー・ジェイス』。本人のサイン入り。
リトル・フィートはビートルズを必ず超えると存在だと信じていたとか。
カル: そうそう、その昔は「デモテープ・デイ」っていうのが名物だったんでしょう。アマチュアバンドが宅録したカセットテープを聴いて、優勝者を決めるイベント。
コロ: 何回目からの優勝者に〈センチメント〉というユニットがいたんだって。デペッシュ・モードもみたいなサウンドで、結局、リリースできず仕舞いだったんだけど、そのユニットを坂本龍一さんが、大絶賛してくれたんだって。彼らの良さをわかってくれた業界人は教授ひとりだったそうだよ。
カル: そんな伝説のイベントがあったりするんで、いまでもオープンリールのテープデッキがあるんだ。
コロ: それはまた別みたい。昔は、関係者にサンプル盤がプレスされる前に、オープンリールで聴かせたんだって。それはそれはいい音だったようだよ。
カル: オープンリールって聴いたことないかも。カセットすらギリギリなんで。オーディオはどんな感じなの?
いまだ現役なオープンリール・テープデッキ。
旅先でのアーティストのスナップ。ニューヨークで偶然会ったミック・ジャガーも。
コロ: 店主いわく、機械はまったくわからないから、オーディオに詳しいお客さんに「直してみます?」って任せちゃうんだって。そうすると、よろこんでやってくれるみたい。
カル: 他力本願(笑)。お客さんがつくってくれたカスタムのJBLはとってもクリアな音なんだってね。
カル: 見事なくらい忠実だった。地震で3回落ちても無事だったんだってさ。
カル: 店内も震災を経ているのに、昔のままを留めているよね。パリの古い、プチホテルに迷いこんだみたいな感じがする。
コロ: 長崎さんの旅の記憶がそのままお店になったみたいで、これまた味が出ているんだよ。
カル: ミシンのフタがテーブルになっていたり、主人の好きなものしかない空間って最高だよね。
コロ: いい空間って、大体そういうことだよね。好きなものといえば、姓名判断の腕前もすごくて、ボクが名刺を出したとき、じーっと長い間、見ていたから、前にどこかで会っているのかなって思ったら。字画を数えていたんだと、あとで気がついたの。
カル: まじで? ロックと姓名判断(笑)。どんな性格だって?
コロ: それは内緒。
ヨーロッパの古いプチホテルに迷い込んだような時代を感じる空間。
最近は自家製ケーキを目当てに訪れるお客さんも多いとか。
information
ROCK CAFE Peter Pan
住所:宮城県仙台市青葉区国分町2-6-1
TEL:022-264-1742
営業時間:15:00〜24:00
定休日:月曜
Web:ROCK CAFE Peter Pan
【SOUND SYSTEM】
Speaker:JBL (custom mage)
Turn Table:TRIO KP-7600、Victor TT-81
Power Amplifer:Victor M-2020
Pre Amplifer:Accuphase C-11
Open Reel Deck:TEAC A-7010
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多