新年度がはじまり、子どもに何か習いごとをさせようと考える親も多いだろう。習いごとと言えば、ピアノやそろばん、書道、水泳などが定番。近年では、英会話やプログラミング、将棋などを習う子どもも増えつつあるという。そんななか、小中学生を中心にブームとなり、習いごととしてもじわじわと人気となっているのが「麻雀」だ。なぜ、今、「麻雀」が習いごとの選択肢となっているのか、麻雀が子育てにどんな効果をもたらすのかなどを探るべく、実際に子どもたちが集まる麻雀教室を取材した! 習いごととしてじわじわと人気が高まる麻雀教室を取材 / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
■大人顔負けレベル!頭脳ゲームとして麻雀を楽しむ子どもたちの姿
今回、取材に協力してくれたのは「ニューロン麻雀スクール」。全国に161校を展開、約6.2万人の会員を持ち、「みんなのリビング」をテーマとしたカルチャー教室だ。撮影したのは「ニューロン麻雀スクール 太平通校」(愛知県名古屋市)。ここでは、小学生・中学生・高校生を対象とした「ニューロン子供麻雀教室」を、月2回開催している。 一般社団法人ニューロンが運営する「ニューロン麻雀スクール 太平通校」 / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
開講の時間になると、保護者は一旦退室。子どもたちが麻雀に集中できるよう、授業の間、保護者は教室に入れないという。 1卓4人、この日は参加者28人で7卓が埋まった / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
この日は、講師の宮城さんが講義を担当。1コマ目の講義は、麻雀のマナーと心得について学ぶ時間のようだ。宮城さんから「まずはあいさつから」「麻雀牌は優しく扱う」「アガった人がその局の主役」などといった話があった。ほかにも、2・3コマ目では、どの牌を切るのがベターか、安全牌の見極め方など、一歩踏み込んだ内容の講義が行われた。自分がうまくいかなかったときでも、アガった人には「お見事!」と拍手をする…大人でもできない人が多いかもしれないマナー、子どもたちは実践できるのだろうか? 講師を務める宮城拓海さん / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA どの牌を切るか、クイズを出題 / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA 「はい!」と元気よく手を挙げる子どもたち / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
講義が終わると、さっそく対局開始!あいさつをすると、慣れた手つきで手牌を並べていく。上級者レベルの卓では、大人も驚きのスピードでサクサクと対局が進んでいき、「チー!」「ポン!」など声が飛び交う。一方、初心者レベルの卓には講師がつき、ルールや流れを丁寧に教えていた。また、何人かの講師が各卓を見て回っており、困ったり悩んだりしたときは、手を挙げて講師に質問していた。 素早い手つきで手牌を並べ、さっそく対局スタート / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
驚いたのは、子どもたちは対局をしながら、会話も楽しんでいたことだ。麻雀は、今や家庭用ゲーム機やスマートフォンのアプリなどで、誰でも気軽に楽しむことができる。しかしながら、対局相手とコミュニケーションをしながら麻雀をすることは、ゲームでは当然難しい。講師の宮城さんは、「ゲームと実際に集まる麻雀の最も大きな違いは、目の前に人がいることです」と話す。「ニューロン子供麻雀教室」では、初対面の人と対局することも多いそうで、そんな環境の中で麻雀をするとコミュニケーション能力も育まれるという。 麻雀のこと以外にも、会話が弾んでいる様子 / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
「ツモ!」「ロン!」とアガる子がいると、ほかの子たちは「わ~」「惜しかった~」と残念がりながらも、「すごい!」「お見事!」「おめでとう!」と拍手をしている姿が印象的だった。教えられたマナーをしっかりと実践して、みんなで楽しく麻雀をしているようだ。そして、「次こそは勝つ!」と言って、次の対局を始める。健康的な頭脳スポーツとしての麻雀が、そこにはあった。 対局中は真剣な眼差しだが、休憩中はフリードリンクを楽しむなどして和やかだった / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
明治時代に中国から伝わったと言われる麻雀は、大正、昭和、平成と何度かブームとなった。かつては大人の嗜みのような側面が強くあった。ところが、1980年代後半に「(金銭を)賭けない・(タバコを)吸わない・(酒を)飲まない」を掲げた「健康マージャン」が登場すると、国内の麻雀環境は徐々に変化。 「健康マージャン」の登場をキッカケに、麻雀のイメージが変化していく / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
1990年代後半になると、ゲームやマンガの影響から、麻雀に興味を持つ子どもが増えていく。子どもとはいっても、10代後半の男の子が大半だった。そんな中、2010年代に入ると、女子高生が主人公で、学校を舞台にした麻雀マンガも登場。アニメ化や実写映画化もされヒットすると、麻雀をやってみたいという女の子が増加した。近年も麻雀を題材にした少女マンガが連載されたほか、月刊少女マンガ雑誌でカード麻雀セットが付録となり、好評を博したこともある。 少し前までは生徒の大半が男の子だったものの、最近は女の子も増えてきているようだ / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
「Mリーグ」は、「ゼロギャンブル宣言」を掲げた、競技麻雀のチーム対抗戦ナショナルプロリーグ。麻雀の頭脳スポーツ化と競技力の向上を目的として、2018年に発足した。その試合の様子はインターネットテレビ局で配信されるなどして、まるでスポーツのように盛り上がっている。 カッコよく牌を切って、大盛り上がり / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
そんな「Mリーグ」でカッコよく麻雀をする選手に憧れて、「もっと麻雀が上手になりたい」「Mリーグの選手になりたい」と、麻雀教室に足を運ぶ子どもが増加。かつての大人の遊びとしての麻雀は姿を変え、ゲームやアプリ、マンガなどの影響で子どもたちにもより身近な存在となり、将棋のような頭脳ゲームとして、子どもたちの間でブームとなっているようだ。 全自動麻雀卓に子どもたちはテンションMAX / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
■麻雀を習うと学力が向上?コミュニケーション能力もアップ?
昨今では、認知症予防への効果も期待されるとして、高齢者が麻雀で遊ぶ様子がテレビなどで放映され、話題となった。では、子どもの場合ではどうだろう?麻雀を習うことで、子どもにとってはどんなメリットがあるのだろうか? 大人が使用するのと同じ全自動雀卓を使う / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
実は、子どもの麻雀と知能指数のつながりに関する研究結果がある。「横須賀市立うわまち病院」の脳神経外科医師・東島威史さんが、麻雀のルールを知らない6歳~15歳の子ども24人に、月に2回、1年間継続して麻雀教室へ通わせたところ、IQ・知能指数が平均して8ポイント上昇したという結果が出ている。特に「処理速度」という、集中力や情報処理の速さ、視覚的な記憶を反映する指数が上がったそうだ。 子どもが麻雀を習うことで、学力アップに効果アリという研究結果が / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
また、麻雀の難しいポイントの1つが、点数計算だ。麻雀の点数は、完成した役、アガり方、ボーナス、その局で親かどうかなどの要素によって、複雑な計算が必要となる。100以上の大きな数字を足し算・引き算しなければならず、暗算しようと思うとかなり頭を使うことになるだろう。「ニューロン子供麻雀教室」では、テキストや講師が計算方法を教えてくれる。これにより、「数字に強くなった」「計算が速くなった」「算数が得意になった」という声もあるという。 1局1手にリアクションする子どもたちの姿がかわいい / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
さらには先述のとおり、麻雀を習うことで、コミュニケーション能力の向上も期待できる。対面で麻雀をする特徴の1つが、「目の前に人がいる」こと。教室での様子を見ていると、ルールや点数計算がわからなければ、子どもたち同士で教え合い、アドバイスするなど、おのずと会話が生まれていた。学校でのことや、流行についての話が弾んでいる卓もあった。 同年代の女の子がそろった卓では、かなり会話が盛り上がっている様子 / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
そして、コミュニケーション能力を育むうえで大切なことが、「対局が終わるまでは続けなければいけない」ということ。ゲームやアプリで麻雀をする場合、もし自分が勝てていなかったら、電源を落として止めてしまうこともできる。しかし、対面での麻雀となれば、そうはいかない。麻雀は運の要素も大きい。そのため、どれだけ頑張っても勝てないことはあるが、それでも辛抱して続けなければならないし、勝った人には拍手をする。麻雀のマナーを学ぶことで、他人を尊重するといった社会性を身に着けることも期待できるのだ。 子どもたちが学校以外で社会性やコミュニケーションを学べる場は珍しいかもしれない / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
もう1つ、「ニューロン子供麻雀教室」が大切にしていることが、「考える力」だ。同施設では、講師が子どもに説明やアドバイスをするが、答えを教えることはあまりないそう。ヒントを与えたうえで、「じゃあ、この場合はどうすればいいと思う?」と、子ども自身に考えさせる。麻雀という複雑なゲームを通して、いろいろな可能性を考える力を育んでいるという。 講師の酒井英俊さん。1から10まで教えるのではなく、ヒントを与えて子ども自身に考えさせる / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
【藤井海未さん】「両親がMリーグのファンで、私も一緒に観戦していたのと、家に雀卓があったので、両親に教わりながら始めてみたのがキッカケです。家で麻雀をするには人数を集めなきゃいけないので、だったら教室に通ってみようかなと」 藤井海未さん(12歳) / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA
■頭脳ゲームとしての「麻雀」を子どもの習いごとにしてみては?
年々増加しているという、子どもの麻雀競技人口。麻雀には点数計算という比較的難しいポイントがありながらも、ルールは覚えやすく、1日で打てるようになることから、子どもたちには人気のようだ。プロの公式戦を気軽に視聴できて、効率よく学べるという環境も背景にあり、数年続ければ「Mリーグ」のプロ選手並みの麻雀力を身につけることも可能だという。 あっという間にルールを覚えて、大人と対等に対局するように / photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA