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コーヒーで旅する日本/東海編|どこかホッとする、あなたの心の休憩所になりたい。「エジソン休憩所」

  • 2023年9月6日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第35回は、三重県亀山市の「エジソン休憩所」。緑に囲まれた自然いっぱいのロケーションと、倉庫を改装した開放的な空間が素敵なカフェだ。昔ながらの固めプリンが評判を呼んでいるが、店主の日向野雄一郎さんは「堀口珈琲」「Jalk Coffee(ヤルクコーヒー)」といった東京都内の名店で学んだコーヒーのスペシャリスト。コーヒー業界から離れたときもあるが、「やっぱりコーヒーがやりたい」と一念発起し、2017年に三重県鈴鹿市内にある農産物直売所の一角で「エジソン休憩所」を始めた。2019年には三重県亀山市に移転。コーヒーに対するこだわりを内に秘めつつも、あくまで振舞いは軽やかでひょうひょうとしている日向野さん。その人柄に触れ、いろいろな話をしているうちに、フッと心が軽くなった気がした。

Profile|日向野雄一郎(ひがの・ゆういちろう)
1984年(昭和59年)、栃木県宇都宮市生まれ。23歳のときに東京の「堀口珈琲」に入社。その後転職し、2016年から週末を中心にコーヒーの出張販売をスタート。「堀口珈琲」時代の上司が営む「Jalk Coffee(ヤルクコーヒー)」にお世話になりながら、独立開業の準備を始める。2017年、奥さまの出身地である三重県亀山市に引っ越し、隣接する鈴鹿市で「エジソン休憩所」をオープン。2019年に亀山市に移転。創業してしばらくは「Jalk Coffee」から豆を仕入れていたが、2021年から自家焙煎に切り替えた。

■緑に囲まれた、知る人ぞ知る"心の休憩所"
名古屋市街から車で伊勢方面や京都方面へ向かう分岐点となる東名阪自動車道・亀山ICから車で5分。交差点にある木塀と「花」の看板を目印に、細い道へと入った突き当たりに見えてくる古びた倉庫が、今回の目的地である「エジソン休憩所」だ。

内装は、店主の日向野雄一郎さんが約2カ月かけて作り上げたセルフリノベーション。屋根や床にインダストリアルな雰囲気を残しつつも、壁に木の板を貼り、手作りの木製家具を配置するなどナチュラルな温もりをプラスした。整いすぎない大らかさが、まるで日向野さんの人柄を表わしているようだ。窓の向こうに映る木々の緑、優しく響く鳥や虫の声に、人里離れた避暑地のようなすがすがしさを感じる。

アルバイトで従事したバーテンダーから飲食業のキャリアをスタートさせた日向野さん。スペシャルティコーヒーの黎明期である2000年代初頭、「酔わずに味を追求できるもの」としてコーヒーに興味を持ったという。「働くなら一番有名なところがいいと思っていろいろと調べ、『堀口珈琲』のセミナーに参加したんです。それがあまりにすごくて、堀口さんのカリスマ性に圧倒されました。『こういう世界があるんだな』と衝撃的でした」と話し、23歳から約6年間、「堀口珈琲」に在籍。ここで得た知識や経験、人間関係が、日向野さんのコーヒー人生を決定づけた。

■「何かおいしい」と思ってもらえればうれしい
メニューブックを見てみると、豆の表記は随分と直観的な説明になっている。「標高や品種がどうだという部分はあまり打ち出していません。そういうのは東京では求められることも多いけど、亀山ではあまり求められていないし、当店の雰囲気にもそぐわないので。『そういう部分を自分が伝えていくんだ』という考えはなくて、『何かおいしい』と思ってもらえればいいかな、と思っています。でも、実はちゃんと『おいしい』には理由があるんですよ(笑)」と、普段は語らないおいしさの理由を教えてくれた。

「エジソン休憩所」は、「堀口珈琲」が中心となって生豆を買い付けるLCF(リーディングコーヒーファミリー)に加盟しているので、高品質なスペシャルティコーヒーを適正価格で購入できる。「スペシャルティコーヒーの仕入れルートが確立していない2000年代初頭にスタートしたLCFには20年超の実績があるので、近年の急激な需要増加においても安定した供給が可能なんです。こういう継続的な取り組みも『堀口珈琲』のすごいところだと思いますし、恩恵に預かれて幸運だったと思っています」

ブレンドはさっぱり、まんなか、こくふかの3種類。シングルオリジンは、日によって多少増減するがおよそ6種類を扱っている。「『堀口珈琲』の系譜店はちょっとクラシックな味づくりをしているところが多く、当店もそうです。焙煎度合いは、最近の浅煎り傾向というよりは、一般的にはシティローストとかフレンチローストとか言われるあたりになります。こういった感覚は店によってまちまちですが、深煎りと言っても、確かに苦味はあるんですがコーヒーオイルは浮かない程度にしています。当店で一番浅い焙煎になる、さっぱりブレンドは、浅煎りよりもう少し深めのハイローストぐらいになると思います」

ドリッパーはコーノ式を採用。「ギュッとやってパッと終わらせる」感覚で、前半にしっかり味を出して後半の苦味やえぐみをカットしているという。「こういった当店の目指す味を出すには、コーノ式が一番合っている気がしています。深煎りでは特に大切にしたいトロリとした口当たりをペーパーフィルターで表現するのは非常に難しいのですが、コーノ式は結構やりやすいですね」

出来上がったコーヒーをいただいてみると、心安らぐ香りとともに、心地いい苦味が体に染みわたる。個人的な主観ではあるが、コーヒーに求めているものを過不足なく与えられたような満足感に満たされた。

■喫茶の切り札として、自家焙煎コーヒーを開始
独立開業する直前の1年間、日向野さんは「堀口珈琲」時代の上司が営む東京都杉並区の「Jalk Coffee(ヤルクコーヒー)」で焙煎をしていたので、「エジソン休憩所」を始めた当初から自家焙煎にすることもできた。しかし、まずは喫茶をしっかりと営むために、「Jalk Coffee」から豆を仕入れることにした。自家焙煎店になったのは、コロナ禍で喫茶営業がままならなくなった2021年からだ。「創業当時から、いずれは喫茶プラスアルファの軸を作らないといけないとは思っていたんです。自家焙煎は奥の手として残していたんですが、ついに切り札を使っちゃいました(笑)」

焙煎機は、「Jalk Coffee」と同じく、フジローヤルの直火式を購入。「まぁ、同じ機種でも、操作方法がわかるというだけで、使い勝手は全然違うんですけどね。そもそも、東京は都市ガス、こちらはプロパンガスなので、熱量が違いますから。東京での経験を土台に、亀山での環境に適したプロファイルが必要になります」と、ゼロからプロファイルを作っていった。「自家焙煎になっても大きく味が変わることはなく、おいしい」と、常連からの評判も上々だ。

■「休憩所」カテゴリで1番を目指したい
店にかける日向野さんの想いは、店名通り"休憩所"であること。このユニークなコンセプトは、独立開業したときの立地に由来する。「最初は三重県鈴鹿市にお店があったんです。農産物販売所の休憩所を使わせてもらっていました。ここで2年ほど営業してから、現在の亀山市に移転しました」

最初は休憩所に間借りしたから店名に掲げたのだが、ふらりと立ち寄って一休みする"休憩所"としての在り方は、日向野さんの目指す店のビジョンともいつしか重なった。「カフェや喫茶店で1番を目指すのは大変だけど、休憩所ならライバルが少ないから1番を狙えるかな、と思っています(笑)。コーヒーも、スイーツも、おいしいものを用意して待ってますよ!」

■日向野さんレコメンドのコーヒーショップは「マチヤノオミセ」
「三重県津市の『マチヤノオミセ』をご紹介します。当店と同じく鈴鹿市から移転しているお店で、店主の樋口さんとは移転前からお互いの店を行き来するなど仲良くしています。コーヒーにも店づくりにも自分なりの哲学があり、それを着々と実現していくところが『すごいな』と尊敬しています。軽食やデザートもやっていて、特にオムライスがおいしいですよ!この秋に焙煎機を導入し、自家焙煎コーヒーをスタートするようなので、これからの展開が楽しみです」(日向野さん)


【エジソン休憩所のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル直火式5キロ
●抽出/ハンドドリップ(コーノ式)
●焙煎度合い/中浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム800円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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