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クラスメイトの田口が「石油王」と呼ばれる理由は。復讐が招いたトラブルとは【作者に聞く】

  • 2023年5月29日
  • Walkerplus

日常に転がるちょっとした事件を、ドライブ感あふれる筆致でユーモアたっぷりに書き、Twitterとnoteで配信しているやーこさん(@yalalalalalala)。抱腹絶倒の展開と劇的なオチの真相は不明、謎多き存在だが、その世界観に魅了されるファンが増え続けている。

そして、やーこさんのファンアートを投稿し続け、ファン界隈では神絵師とも言われているイラストレーター・栖周さん(@sumiamane)の作品も笑いの起爆剤となり、ますます人気を集めている。

そんな話題の2人がコラボした連載「猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました」。やーこさんの笑いしか生まれないユーモラスな文章と、その笑いを加速させる栖周さんのイラストを、やーこさんと栖周さんのコメント付きでお届け。

今回は、やーこさんの復讐が多くの人を巻き込む「苗字によるトラブルで恐ろしい事になった話」を初公開。新作ももちろん思わず笑ってしまう可能性があるので、念のため周りに人がいないか確認してから読むのをおすすめする(気にしない方はそのままお読みください)。

■【苗字によるトラブルで恐ろしい事になった話】

中学生の頃、私は田口という同級生と長期にわたり揉めていた。復讐の天才と謳(うた)われている友人から知恵を授かり、彼の持ち物に書かれている名前の全てに細工を施し、田の上に線を伸ばし「氵」を付け足し、口に「十」を加え「田口」を「油田」にした。

担任はヤクザの抗争のように繰り返される我々の戦いを問題視し、田口と私を職員室に呼び出した。そもそも田口が先に仕掛けてきたと私が告げると、田口は私のせいであだ名が石油王になったと己の被害を報告した。担任とその隣の席の教員の動きが止まった。自身の受け持つ生徒間の揉め事にまさか石油王が関与しているとは思わなかったのだろう。担任はこの「田口油田事件」を知っていたのでまだ耐性があったが、隣の教員は抗体がない為既に噴き出さぬよう必死に耐えていた。



それぞれの問題に対し互いにどうしたら問題が解決するかをその場で考えさせられる事となった。

田口は私の読んでいたミステリー小説の登場人物に丸をつけ、私の推理を撹乱させた事を謝罪し、描いたものは全て消しゴムで消すと誓った。一方私は、田口が引く程に解決策が思い浮かばず頭を悩ませていた。田口は私の小説に消しゴムを動かすだけで解決であるが、私は田口を石油王と呼ぶ大衆を動かさなければならない。先生は、田口に対する強い恨みから私が答えを出せないのかと誤解し、時と場合によるが互いに歩み寄る心が大切だと諭した。このままでは田口のせいでカタツムリの殻程に狭い私の心が、水槽のタニシの殻程の狭さだと認識される事だろう。恐らく担任は「周りを説得する」という案などを期待していたのだろう。しかし、私の頭が硬い為に
「田口の名を捨て仏門に下り戒名を頂くしかない」
という案しか出てこなかった為、担任は予想より遥かに重い決意を要する解決策に狼狽(うろた)え、隣の教員は手元が狂いコーヒーを机にぶちまけ悲鳴を上げた。

担任が授業の際に仏教と僧侶について我々に教授していた事が裏目に出てしまった。自身の授業が生徒に行き届いている事が、隣の教員を地獄へ突き落とす結果を招くとは予測もつかなかった事だろう。



職員室は雑巾が飛び交い、精密機械を必死に庇(かば)う作業に追われ阿鼻叫喚の現場と化した。田口油田事件は我々の教室にとどまらず職員室全体を巻き込む恐ろしい事件へと発展した。

担任が「もっと他にやり方があるでしょう」と述べるので、あとはどこかに婿養子に入ってもらうしか道はないと述べると、田口は俺だけ解決策に人生がかかっていると己の運命を嘆いていた。
「何故、田口の方をどうにかしようとするんだ……」
と、担任が言葉を漏らすと、デスクを拭いていた教員の笑いのツボは限界を迎えた。もはや話し合いどころではない。

担任を含む我々は、他の教員によりやんわりと職員室から追い出された。廊下で、田口の人生と苗字を変える以外の解決策を紙に書いて明日の朝に提出するようにと言われ、私と田口は帰された。

私は大衆を説得する為、田口を石油王と呼ばないよう呼びかけるポスターを描いたが
「NO石油王」
などと、見出しを大きく書いた為、近隣の開発に反対する村人の立て看板のようになってしまった。



翌日、担任に渡すため指定された時間に学校へ行くと、何故か田口もいた。嫌な予感がするのでポスターを見せろと要求してきたので、私は担任より先に見せてやる事にした。彼の嫌な予感は的中し、何があろうとも教室に絶対これを貼るなと厳重に注意された。その後、職員室へ行き、田口の意思を伝えつつも担任に提出した。担任はポスターを開くと途端に顔をうつ伏せ
「確かに紙に書けとは言ったけど、こういう事じゃない……」
と、呟き肩を揺らした。面倒な生徒に当たってしまったと思った事だろう。ポスターは却下となり、また振り出しに戻ってしまった。私の田口へのフラストレーションは溜まる一方であった。 (終)


この作品について、やーこさんは「『田口油田事件』というタイトルにしようかと思ったが、こう書くと実際に教科書の近代歴史のあたりに載っていそうな響きがあったのでやめた。その後も担任のクラスの平和を願う心も虚しく我々の抗争は続いたが、田口は仏門に下る事もなくそのまま卒業していった」とのこと。

また、その場の雰囲気を迫力あるイラストで表現した栖周さんは、「恐るべきは復讐の天才たるやーこさんの友人……!そして執拗に田口から田口をはく奪しようとするやーこさん……!!『NO石油王』に腹筋は悲鳴をあげました。折角なので(?)私から田口君へ戒名を贈ってみました。『やーこさんの清らかな願い、誠の心は人生の険しさを明らかにする』田口君の明日はどっちだ。南無」と話す。

これほどまでにやーこさんの復讐心に火をつけるきっかけとなった、ミステリー小説は一体何だったのだろうか。田口はどれだけの登場人物名に丸をつけたのだろうか。

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