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コーヒーで旅する日本/東海編|何かに導かれるように、気付けばコーヒーのおもしろさに夢中。「cafe旅人の木」

  • 2023年1月18日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第5回は、岐阜市にある「cafe旅人の木」。ご主人の宮川邦彦さんがコーヒー、奥様の茜さんがお菓子を担当している。ひょんな縁が重なって、何かに導かれるようにコーヒーを生業とするようになった邦彦さん。焙煎も、抽出も、ほぼ独学で自分にあう手法を探求してきた。「毎日発見があっておもしろいですね!一生のうちには飲みきれないほどの種類があり、まるで終わらない旅をしているような心地です」と邦彦さん。「cafe旅人の木」は、そんなコーヒーの旅人たちにとって、ちょっとした休憩ができる場所。心地のいい脱力感をもたらす、邦彦さん流のコーヒーとの向き合い方を探る。

Profile|宮川邦彦(みやかわ・くにひこ)
1984(昭和59)年、岐阜県各務原市生まれ。大学卒業後、シアトルでホームステイをした時に「なんとなくコーヒーっていいな」と感じ、帰国後は地元の自家焙煎珈琲店「珈琲工房ひぐち」で働くことに。職場で出会った茜さんと結婚し、「将来的には2人で独立したい」と思うようになった。茜さんからプレゼントされた小型焙煎機を使い、独学で焙煎を学ぶ。たまたま通りがかりにテナント募集の告知を見つけ、2018年に「cafe旅人の木」をオープン。

■「なんかいいな」が積み重なって今がある
JR岐阜駅または名鉄岐阜駅から歩いて10分ほど北上すると、岐阜市きってのパワースポットとして知られる金神社(こがねじんじゃ)が見えてくる。トレードマークである黄金の鳥居から徒歩20秒の場所に建つ金神社会館に、宮川邦彦さんが夫婦で営む「cafe旅人の木」がある。ビルの地下1階というロケーションは、カフェにしては珍しいのではないだろうか。

「この場所は、友人が出店するマルシェに遊びに行った時にたまたま目についたんです。地下にあるというロケーションがいいな、見たことないな、と思って。もともとは蕎麦屋さんだったそうですよ。和風の壁紙をはがして、DIYで壁を白く塗りました。カウンターの腰壁には、木毛セメント板という倉庫の内壁によく使われる板を張って、素材感を出しています。コンクリートの無骨さと、木材の温もりがバランスよく仕上がりました」

邦彦さんがコーヒーに興味を持ったきっかけは、「シアトルにあるスターバックス1号店に行ってみたい」という軽い気持ちからだった。「現地に行ってみると、シアトルでは1ブロックごとにカフェがあり、スターバックス以外にも気になる店がたくさんありました。それぞれ店の雰囲気もコーヒーの個性も違っていて、でもそれぞれの店の内装だったり、人が集まっている様子だったり、うまく言葉にできないけれど、街全体を包む空気感がいいな、と思ったんです」。帰国した邦彦さんは、母の薦めから家族の行きつけだった「珈琲工房ひぐち」で働き始めた。それまでは「コーヒーはどれも一緒。1種類の飲み物でしょ」と思っていた邦彦さんだったが、想像以上に豆の種類が多く、飲み物としての多様性を知り、ますます惹かれていくことになる。

■真似をするところから始めてみる
コーヒーのおもしろさがわかり始めたころ、同僚として働いていた奥様の茜さんから小型焙煎機をプレゼントされた邦彦さん。基本的な焙煎方法は、販売メーカーに教わった。

「いずれ2人で独立しようと思っていましたし、これは本気で焙煎を勉強しなくては、と本腰を入れることに(笑)。アパートのキッチンに設置して、少しずつ試行錯誤を始めました。コーヒー豆はそもそも農作物なので、個体差があって当然。豆によって焼き方が変わりますし、焙煎機の構造によって向いている焼き方もあります。どういう時に火力を強めるのか、排気を強くするのか、弱くするのか。最初は理屈なんてわからず、真似をすることから始めました。やっていくうちに、あとから理由がわかるようになり、毎回発見があります。思い切って失敗できるのもよかったですね」

現在使っている焙煎機は、この時にとことん練習した小型焙煎機と同じメーカーであるワイルド珈琲のもの。「地下の店舗ですから、あまり煙が出ないタイプで、排気もしっかりしたものがいいかな、と。それに、原理的にわかっていて、扱いなれているものにしたかったんです」。邦彦さんの焙煎は中煎りから深煎りが多く、酸味を抑えて香りや苦味をしっかりと引き出すことで、コーヒーのコクを表現する。酸味を伴う場合は、甘さを感じさせるような柔らかさを目指してロースト。また、焙煎した豆はすぐに使わず、1、2週間置いて味を落ち着かせてから使うようにしている。

■コーヒーのおいしいところだけを抽出
開業するにあたって、抽出方法も夫婦でじっくりと話し合った。実際に焙煎した豆を用いていろいろな抽出方法を試した結果、松屋式ドリップを採用することに。松屋式ドリップとは、松屋コーヒーが提案する独自の抽出方法だ。コーヒーの粉がフィルターに沿って均一の厚みになるように中心部分をくぼませ、お湯を注いでじっくりと蒸らす。それから細くお湯を注いでゆっくりと抽出し、完成量の半分程度の分量を抽出したところでストップ。最後にお湯を追加して濃度を調整すれば完成だ。

「ドリップの仕方によってはコーヒーのえぐみが出てしまうこともあるので、それが出ないように、誰が淹れても同じ味わいになる方法を試した結果、松屋式にたどり着きました。豆はかなり粗挽きにするので、味が出にくい分、時間をかけて抽出します。抽出の後半にかけて出てくる雑味はカットして、前半のコクや香りといったいい部分をじっくり引き出すのがポイント。コーヒーの旨味はしっかりと抽出されるのに、えぐみはなく、すっきりとした飲み口に仕上がります」

コーヒーのお供には、茜さんの手作りおやつを。数十種類というレパートリーの中から、季節感のある3~4種類を日々焼いている。おやつのポイントは、甘すぎない、素材を吟味する、できるだけ白砂糖を使わないの3つ。お菓子のレシピも、ほとんどが茜さんのオリジナルだ。

■みんなの「帰る場所」になりたい
いつも自然体で、無理なくコーヒーと向き合ってきた邦彦さん。ちょっとしたきっかけがたまたま重なり、あれよあれよとコーヒーのおもしろさにハマっていく様子は、まるで何かに導かれているようだ。邦彦さんの在り方は、店名である「旅人の木」ともリンクする。

「『旅人の木』は、マダガスカル原産の植物なんです。たまたまテレビで紹介されていて、シンプルな語感がいいな、と思って店の名前にすることに。しっかり調べてみると、コンパス代わりになったり、喉を潤すのに活用されたりしていて、それもなんだか私たち夫婦の思いにぴったり重なった気がしました。お客様にとっては、ちょっと休憩する場所であり、なんとなくですが、帰ってくる場所のような存在になれるといいな、と思っています」

■宮川さんレコメンドのコーヒーショップは「カフェ・アダチ」
「岐阜県関市にある『カフェ・アダチ』のコーヒーがお気に入りです。私たち夫婦は2人とも酸味や苦味の強いコーヒーが苦手なのですが、かといってまったく酸味や苦味がないと味わいの魅力は半減してしまいます。『カフェ・アダチ』のコーヒーは、酸味の引き出し方が柔らかく、深煎りでは苦さとともに甘さをしっかりと感じさせてくれます。そして、コーヒーがおいしいのはもちろん、店の雰囲気も素敵なんですよ。マイセンのコーヒーカップで提供するなど、食器にもこだわっています。店主である小森さんの、ひょうひょうとしたキャラクターもおもしろいです」(宮川さん)


【cafe旅人の木のコーヒーデータ】
●焙煎機/ワイルド珈琲半熱風式2キロ
●抽出/ハンドドリップ(松屋式)
●焙煎度合い/中煎り~深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム800円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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