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コーヒーで旅する日本/関西編|衝撃の出合いから始まった、スペシャルティコーヒーの醍醐味の探求。「VOICE of COFFEE」

  • 2022年10月25日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第36回は、神戸市中央区、栄町で創業から10年を迎える「VOICE of COFFEE」。2010年代に、コーヒースタンドやロースターが相次いで開店し、神戸のコーヒー激戦区となった界隈でいち早くオープンした、先駆け的な一軒だ。店主の坂田さんは、スペシャルティコーヒーとの出合いを機に、エンジニアからロースターへと転身。自らが感銘を受けた、素晴らしいコーヒーの香味=“VOICE of COFFEE”を伝えるべく、独学で焙煎を追求。開港以来、コーヒーと縁の深い神戸で、地元に根差して新たなコーヒーの魅力を発信している。

Profile|坂田恵司(さかた・けいじ)
1964(昭和39)年、京都府生まれ。外資系企業でエンジニアとして働いていた頃、偶然、旅先で訪れたコーヒー専門店でスペシャルティコーヒーに出合って、その魅力に傾倒。その後、東京のスペシャルティコーヒー専門店に通い、開業セミナーやテイスティング会に参加しながら、独学で焙煎を研究し、2013年、神戸・栄町に「VOICE of COFFEE」をオープンし、2017年に移転リニューアル。近年は、環境問題や循環型社会に貢献する取り組みにも力を入れる。

■旅先で偶然出合ったスペシャルティコーヒーの衝撃
神戸を代表する繁華街・元町の南側、かつては港町の活気を体現していた栄町エリア。界隈には今も、レトロなビルが数多く立ち並び、当時の面影を伝えている。2000年代に、点在するビルの中に小さな雑貨店が集う“雑貨の街”として様変わりした栄町に、さらなる変化をもたらしたのが、コーヒーショップの急増。多彩な店が個性を競う“神戸のコーヒーストリート”は、いまや神戸っ子の日常に欠かせない存在になっている。中でも、自家焙煎のコーヒーショップとして、いち早くオープンした界隈のコーヒーショップのパイオニアが「VOICE of COFFEE」だ。

「当時は栄町や元町あたりでコーヒー豆の販売をメインにする店は珍しかったですね」と振り返る店主の坂田さん。開店前、エンジニアとして企業に勤めていた頃は、コーヒーは“普段の飲み物”以上の存在ではなかったという。「社会人になってから自分でドリップはしていましたが、店巡りとかしてないし、豆にもこだわりがなかった。喫茶店は時間つぶしやおしゃべりに行く場所というイメージでした」。そんな坂田さんが、開店に至るきっかけとなったのは、当時、初めて体験したスペシャルティコーヒー。およそ20年前、旅先でたまたま入ったコーヒー店で、衝撃的な出合いが待っていた。

「どんな店かも知らずに、飲んでみたら、今までにない突き抜けたおいしさで、奥行き、複雑さ、コクが相まった味わいの密度が段違い。アメリカンのような薄いコーヒーが多かったから余計に、その違いに驚きましたね」。そう振り返る坂田さんが訪ねたのは、日本のスペシャルティコーヒー専門店の草分け的な一軒。まだ、その評判も一般に広まっていない頃、スペシャルティならではの高品質でユニークな風味は、まさに未知の体験だったと想像できる。その衝撃の理由を探求するべく、帰るなりすぐに、このコーヒーがどこで手に入るのか探し始めた。

■独自に磨いた焙煎技術で、個性的な豆を多彩に提案
この時、見つけたのが東京のスペシャルティコーヒー専門店。再び口にしたコーヒーからは、初めて飲んだ時と同じ風味を感じた。すぐにその店に通うようになり、ほどなくスペシャルティコーヒーの展示会・SCAJも訪ね、そこでもさらなる刺激を受けた。「会場はまさにコーヒーだらけ。種類の多さにも目を見張りました。この時、コーヒー器具メーカーの珈琲サイフオンも出店していて、無償配布されていたコーノ式ドリッパーを使って、家で淹れてみて難しいなと感じたことから、自然と抽出も勉強し始めたんです」

ただただ、おいしいコーヒーを突き詰めたい。坂田さんの行動力は止まることはなかった。その後は、店が主催するセミナーで抽出を学び、新豆のテイスティング会などにも参加。5年ほど経った頃、本気で仕事にしようと思い始めた、ある転機があった。「病気で2カ月入院した時のこと。手術のための同意書を書く時に、“人間いつ死ぬとも限らない”というのを感じて。このままエンジニアで終わるのもどうか?というのが頭をよぎったんです。それなら、今とは全く違う分野で好きなことをしたいな、と考えた時に浮かんだのがコーヒーでした」。折しも、退院後に開業セミナーが開かれていて、参加するうちに、思いは現実のものに変わっていった。当時は横浜に赴任中だったが、神戸に家を所有していたこともあり、「いずれ関西に戻るつもりだったので、神戸で始めよう」と、関西に戻って新たな道を進み始めた。

横浜時代に、コーヒーに関して多岐にわたる知識や技術を学んだ坂田さんだったが、焙煎だけは独学で始めることに。「焙煎は方々で教わったものの、人それぞれで持論が全く違っていました。だから、これだけは自分で感覚をつかむしかないと感じたんです。しかも、同じ機械を使っていても、その日の天気や風、湿度などで毎日変わる。安定して味を作るのは難しい」と、開店予定の物件に焙煎機を設置してから試行錯誤を重ね、コーヒー豆の個性をいかに表現するかに腐心してきた。

カウンターにずらりと並ぶ豆は、スペシャルティグレードのシングルオリジンが8~10種に、定番のブレンドが3種。近年はコーヒーの個性的な酸味を生かす浅煎りが主流だが、「極端な浅煎り、深煎りはなく、飲みやすさを重視しています」と坂田さん。関西ならではの嗜好もあって、中深~深煎りが好まれるという。一方でユニークなのは、時季ごとに配合が変わるオリジナルブレンド。

「うちの場合はシングルオリジンありきのブレンド。豆は少量ずつ仕入れ、3カ月ほどで入れ替わっていくので都度、組み合わせが変わるんです。味を変えずに、使う銘柄を変えるので同じ味を作るのが難しいんですが、配合は無限にあるので理想を求めていきたい」。逆に言えば、常に新鮮な豆の風味が楽しめるということ。しかも、多彩なスペシャルティグレードの豆を使うのだから、ある意味、最も贅沢なブレンド。3種のブレンドの味わいの表現を、飲み比べてみるのも一興だ。

■10年を経ても尽きない、コーヒーへの熱意と探求心
基本は豆の販売がメインだが、試飲も兼ねて、テイクアウトでハンドドリップのコーヒーも提供。好みの銘柄を選べるので、豆選びに悩んだら、実際に飲んでみて決めるのもおすすめ。元理容室をリノベートした店内には、試飲スペースも併設。コンクリート打ちっ放しのクールなインテリアは、海外メディアでも多数取り上げられたこともあり、外国人観光客が訪れることも少なくない。街歩きの途中の息抜きに、多彩なコーヒーのみならず、アーティスティックな空間も、この店の魅力の一つとなっている。

最近は、「もっと、いろんなコーヒーがあることを知ってもらいたい」と、時季によって、珍しい豆や自身も飲んだことない銘柄も積極的に提案。スペシャルティコーヒーの醍醐味を真摯に伝える一方で、3年ほど前から、コーヒーを取り巻く環境の変化にも関心を持ち、具体的な取り組みも始めている。

「ここ数年、地球温暖化によりコーヒーの収穫量が減少するという“コーヒーの2050年問題”が話題になっています。その話を知って、自分でも環境問題への関心が高くなって、コーヒーを扱う店として、CO2を減らす取り組みに力を入れています。ごみを減らすために専用のキャニスターを作ったり、マイボトルや給水を促進するmymizuアプリのパートナーに登録したりと、持続可能な店のあり方はこの先、当たり前になってくると思います」

コーヒーそのものはもちろん社会問題への貢献まで、常に幅広く関心を向ける坂田さん。その原点には、コーヒーを知るほどに湧く楽しさがある。「休日も店にいることが多いですが、楽しいから来ているという感覚。仕事なのか、趣味なのか、自分でもはっきり分けてない感じです。1人で切り盛りしているので、やることはいくらでもありますが、コーヒーを淹れているだけでも楽しい。そもそも抽出からコーヒーの世界に入ったというのもありますが、何回やっても飽きない。そうでなければ、ここまで続いてないでしょうね」。創業から10年、今もコーヒーに対する熱意は、まだまだ尽きないようだ。

■坂田さんレコメンドのコーヒーショップは「DEAR CUP」
次回、紹介するのは、大阪府堺市の「DEAR CUP」。
「堺では、スペシャルティコーヒー専門店として、いち早くオープンした店です。店主の中田さんは、同じ東京の店で学んだ先輩でもあり、自店をオープンした時から、豆の仕入れや焙煎のことで相談に乗ってもらっています。カフェを中心にご家族で切り盛りされているアットホームな雰囲気で、地元のお客さんに親しまれています」(坂田さん)

【VOICE of COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジ ローヤル 5キロ(直火式)
●抽出/ハンドドリップ(コーノ式)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/ あり(400円~)
●豆の販売/ブレンド3種、シングルオリジン約10種、100グラム700円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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