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コーヒーで旅する日本/関西編|“なりたい気分”でコーヒーを提案。「TRIBUTE COFFEE」が目指す、心地よい街のサードプレイス

  • 2022年9月20日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第31回は、京都市中京区で2019年にオープンした「TRIBUTE COFFEE」。繁華街のど真ん中にありながら、喧騒とは無縁のシックな空間は、地元の新たな憩いの場として支持を得ている。店主の栗林さんは、スターバックスで約20年の勤務を経て、独立を果たしたベテラン。長年、カフェの運営、接客に携わった経験を元に、栗林さんが自店で目指す、理想のサードプレイスのあり方とは。

Profile|栗林寛(くりばやし・ひろし)
埼玉県生まれ。スターバックスに入社後、関東を中心に店長や本部マネジャーなどの仕事を経験した後、2014年に関西に赴任。仕事の傍ら、焙煎を学ぶなど開業準備を進め、約20年の勤務を経て2019年、京都市中京区に「TRIBUTE COFFEE」をオープン。

■海外から到来した新たなカフェカルチャーへの共感
京都のにぎわいの中心、河原町通。「TRIBUTE COFFEE」があるのは、観光客から地元住民まで多くの人が行き交う繁華街のど真ん中、古い雑居ビルの3階。エレベーターで上り、扉を開けると現れる、広々としたフロアに、モダンなヴィンテージ家具が置かれた、シックな空間に思わず目を見張る。「こんな場所があるなんて知らなかった、とよく言われますね」とにこやかに迎えてくれる店主の栗林さん。子供や学生の頃からコーヒーは身近な存在だったという栗林さんが、この道に進んだのは、一度は会社に勤めた後、スターバックスへと転職した時に遡る。

「コーヒーへの関心はもちろんですが、当初、スターバックスが掲げていた“サードプレイス”の理念に惹かれたのが大きなきっかけ。自分がそういう場所にいることが好きで、サードプレイスを広めていくためのメソッドが知りたかったんです」。サードプレイスとは、家庭でも職場・学校でもない、日常の中で人々がリラックスできる第3の場所として、アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグが提唱した新たなコミュニティーのこと。当時は日本に上陸して間もない頃で、新たなコーヒーカルチャーを牽引する存在として、日本のコーヒーシーンが大きく変わろうとする過渡期だった。

その新しい理念に共感し、コーヒーの世界へ一歩を踏み出した栗林さん。店長や本部マネジャーなど、各所で店の運営に携わり、社内で豊富な知識を持つエキスパートに与えられるブラックエプロンも取得。地元の関東を中心に勤務した後、2014年頃に関西へと赴任。およそ20年にわたり経験を積んだ栗林さん。奥様の地元が京都だったことから、そのまま関西で開店準備にあたり、コーヒーの焙煎を始めた栗林さん。手網から始めて、後に焙煎機メーカーのセミナーに通って学んだ。

■その時の、“なりたい気分”で選べるコーヒー
2019年のオープンを経て、現在、店で提供するコーヒーはシングルオリジン5~6種。中浅~中深の焙煎度を中心に、徐々に幅を広げていっている。「関東出身というのもありますが、関西の嗜好、特に京都は深煎りの傾向が強いと感じることが多いですね。とはいえ、豆の個性を引き出すためには、極端に深いと特徴が消えてしまうので、バランスには気を使います。いろんな種類のコーヒーの味わいを知ってもらいたいので、今は浅煎りを勉強中。自信をもって出せるものができたら、徐々に増やしていきたい」。多彩な豆のキャラクターを味わえるよう、栗林さんが考案したアイデアが、“なりたい気分”でコーヒーを選んでもらう提案だ。

コーヒーのメニューには、リラクシング、リフレッシング、ウォーミング、インスパイアリングと、4つの気分にそれぞれ豆の銘柄をカテゴライズ。潤いや癒やしを求めるリラクシングなら、マイルドでフルーティーなエチオピア、活力や閃きをもたらすリフレッシングなら、すっきりとした苦味とハーブやスパイスの香りが爽やかなインドネシア・ブルーリントンといった具合。また、新たな発見を刺激するインスパイアリングには、よりユニークな風味を生かした浅めの焙煎度の豆を提案。個性的なコーヒーにチャレンジするきっかけを作る趣向だ。

選ぶ楽しみを増す、この店ならではの提案は、前職で感じた気付きが元になっている。「スぺシャルティコーヒーの従来の提案は、産地やフレーバーなど、時にマニアックで取っ付きにくい部分があり、前職でコーヒーの勧め方や、お客さんの好みを見つける難しさを感じていました。例えば、コロンビアやブラジルが好きといっても、細かく分ければ種類はいろいろあります。シングルオリジンで農園名などを伝えても、ピンとこないことが多い。繊細なフレーバーも楽しみの一つですが、もっと気楽に楽しくコーヒーを選べればと考えて、開店を機に、コーヒーの風味がどう気分を変えてくれるのかというアプローチで提案しています」

長年、コーヒーの勧め方に腐心してきた栗林さんならではの、細やかな提案はコーヒーだけに限らない。例えば、京都府美山の牛乳を使用するカフェオレは、ミルクとコーヒーを別で提供し、お客がテーブルで混ぜ合わせるスタイルに。混ぜる割合を自在に変えられることで、お客の好みの味わいで厳選した美山の牛乳の醍醐味を感じてもらえる一工夫だ。また、コーヒーとのペアリングをより楽しくしてくれるのが、豆の風味特性としてポピュラーな、チョコやナッツ、ドライフルーツを盛り合わせた、“おつまみ”的なペアリングプレート。柑橘系のニカラグアにドライオレンジ、フローラルなエチオピアにラズベリーなど、近しい風味のペアリングはもちろん、意外な取り合わせの妙を発見できるのも楽しみの一つだ。

■店を出た後に、少しでも心が豊かになる場所に
栗林さん自ら考えた、ゆったりと落ち着いた空間もまた、じっくりコーヒーを味わうに相応しい雰囲気。「カフェが好きで、今までいろいろ行った中で自分の中に蓄積されたイメージが、形になったのがこのお店。年季の入った調度や家具をベースに、ありきたりではない内装にしたかった」と、アールの付いたカウンターをはじめ、細部にまで栗林さんの感性が行き届いている。とりわけ、中央を占める大きなテーブルは、「このテーブルが入る物件を探すのに苦労しました」という、店のシンボル的存在。シームレスなレイアウトで、多くのお客が緩やかにつながるような空間も魅力の一つ。開店から3年を経て、着実にファンを増やしている栗林さん。その原点は、やはりお客へのもてなしにあるようだ。「お客さんに喜んでもらえることが一番のやりがい、日々、それを実感しています。前職でも、店長として現場にいる時が一番楽しかったという感覚が、店を開こうと思った大きな理由の一つ。今は、自分の店ですから思い入れの深さも違いますし、これから長く続く店にしていきたいですね」

さらに現在は、店作りに加えて、焙煎というモノ作りも加わる。「自分で焼いたコーヒーを提供して、継続して味わってもらうサイクルが、少しずつ実現できていると思います。ただ、焙煎を始めて3年経つと、豆の変化に対する感覚がだんだんと鈍ってきます。最近、行った焙煎セミナーで、“焙煎は最終的に匂いで判断する”という話を聞いて、焙煎過程において自分の感覚で向き合う大切さを、改めて見直す機会になりました」

今も試行錯誤を重ねて、理想の店作りを追求する栗林さん。最後に、自らが目指すサードプレイスのイメージを聞いてみた。「ここで過ごすことで、何かを感じ取ってもらう場所でありたい。楽しい気分、くつろいだ気持ちになったり、新しいアイデアが浮かんだと感じてもらえたり、そういう時間を提供できればと思います。コーヒーのメニューに記した、“なりたい気分”のカテゴリーは、ここで感じてもらえる“何か”の一部を示したもの。どんな気分であれ、店を出る時に心豊かになってもらえればうれしいですね」

■栗林さんレコメンドのコーヒーショップは「Sentido」
次回、紹介するのは、京都市中京区の「Sentido」。
「創業から10年、いい意味で目立たず、さりげなく地域の日常に根付いた素敵なコーヒーショップです。コーヒーは浅煎りがメインで、素材の良さを引き出した焙煎が素晴らしい。フルーティーな甘み、アフターテイストがきれいで、口当たりも心地よい。家が近所で、普段からよく通っていますが、ドリンクとしての完成度が高いなと感じます」(栗林さん)

【TRIBUTE COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル1キロ(半熱風式)、ディスカバリー
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)
●焙煎度合い/中浅煎り~中深煎り
●テイクアウト/ あり(715円~)
●豆の販売/シングルオリジン5~6種、150グラム1210円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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