
仏教やお経と聞くと、なんとなく堅苦しいイメージを抱く人も多いのでは?現役の僧侶(浄土真宗本願寺派)である近藤丸さん(@rinri_y)が描く漫画「ヤンキーと住職」は、仏教が大好きなヤンキーと少々頭でっかちな住職とのやりとりから、仏教の教えをわかりやすく伝える漫画。読者からは「興味深い」「ためになった」「書籍化してほしい」との声が多く寄せられている。
ウォーカープラスではそんな「ヤンキーと住職」の中から特に印象的なエピソードを厳選し、近藤丸さんのインタビューと共にご紹介。今回は、煩悩にとらわれ悩みから抜け出せない者「凡夫」について。
檀家が減り、危機的な状況のお寺をなんとかしたいと奮闘する住職。ある日「お経を読む会」をはじめたところ、仏教好きのヤンキーから「お経って何なんだよ?」と聞かれ、内容や僧侶の立場について説明する。
■住職のキャラクターには近藤丸さん自身を反映
お寺の生まれではないものの、仏教と出合いその面白さや奥深さに興味をもち、仏教の学校に入った住職。お寺を盛り上げるために奮闘したり、時には自分とタイプの違うヤンキーに嫉妬したりと、厳格な職業ながらどこか人間味を感じるキャラクターだ。この住職の性格や置かれている現状には、近藤丸さん自身を投影した部分はあるのだろうか。
「おっしゃる通りです。住職のキャラクターには自分を投影していて、自分だったらどうするかな?と考えながら描いています。人付き合いが苦手なことや、悩んで仏教系の大学に行ったけど、図書館で本ばっかり読んでいるというのも、自分の経験を基にしています。住職は自分と同じで、仏教を少しかじっていているのですが、頭でしか理解していない所がある。生き方にまで仏教を反映できていなくて、小さなことに悩んだり、煩悩に振り回される。また、思い通りにならない現実に、悩んでいる青年なのです。私はお寺を継いでいませんが、現状を打破するための奮闘は、お寺を継いだ友人僧侶のエピソードなどを参考にさせてもらっています」
特に浄土真宗では僧侶もそれ以外の人も、煩悩にとらわれた「凡夫」と考えるそう。近藤丸さんの経験や性格から生まれた住職というキャラクターが、人間味あふれる普通の人であることも、必然のように思えた。
一方、もう1人の主人公であるヤンキーはどうなのだろう。
「ヤンキーは仏教の知識はあまり無いけれども、人生経験が豊富で、仏教の教えも自分の生活に引き付けて考えるのが上手。住職と対照的です。自分でも憧れるような正直でいいヤツに、と思いながら描いていますね」
住職は近藤丸さん自身で、ヤンキーは憧れの人物像。そう思いながら改めて漫画を読むと、また違った面白さを感じる。
■タイプの異なる2人と仏教の教えが起こす化学反応を、自身もワクワクしながら執筆
お経には、お釈迦様からすべての人間へのメッセージが込められているそう。そのため、「亡くなった人のためだけに読まれるものではなく、日常生活の中でいつでも読むべきもの」だと近藤丸さん。だが、漫画にも登場した「生きるということ自体が苦」という教えは、あまりにもヘビーに感じる。
「仏教の教えの中心に『一切皆苦』という教えがあり、そのことを前提にしたセリフですね。『一切皆苦』は、『あらゆるものは皆苦である』という意味ですが、仏教でいう『苦』とは『思い通りにならない』ということです。あらゆるものが変化し無常だからこその、『一切皆苦』です。お釈迦様が出家した理由と言われている『生老病死』の苦しみも、一切皆苦の一部になります。老も病も死も思い通りにならない事だから苦と捉えます。そして生によって、それらの苦が始まるのです」
生まれることは、思い通りにならない苦の始まり。確かにそうだとは思うのだが、正直ネガティブで冷たい印象を受けてしまった。
「確かに説明として聞くと、『ずいぶん冷たい教えだな』とか、『ネガティブすぎない?』と感じるかもしれませんね。でも、ネガティブやポジティブという言葉ではくくれない、厳粛な事実だと思います。現実への徹底した冷静な見方というか。私は家族関係のことなどでとても悩んでいる時に、この言葉に出合いました。その時、驚くと同時に本当にその通りだなと思い、こういうことを一生懸命考えつづけ、大切な教えに出会った人がいるのだなと何だか感動しました。お釈迦様だって、いろんなことに悩んだ。そして、人間誰しもさまざまな苦しみを背負って生きているのだと教えられて、『一切皆苦』『生老病死』という言葉に、むしろエールをもらったような思いになりました。
ただ、これらはどこまでも『自覚』の言葉であり、自分が出合ってそうだなと思うべきです。誰かほかの人に『一切皆苦だ、だから我慢しろ』という風に使ってはなりません。あらゆる宗教は、人間が握ったり、何かのために利用したりすると、必ず間違います。そういう意味で、仏教を漫画にするということも危うさ・危なさがあるという点は、心に留めておきたいと思っています」
お釈迦様だって、たくさん悩み苦しんだ。そう思うと、全ての人間が多かれ少なかれ悩みを抱えているのは当たり前のことのように思える。また、お釈迦様の言葉を「自覚」することの大切さにも、ハッとさせられた。「ヤンキーと住職」を通じてこれからも何かしら自覚できることを、期待したい。
取材・文=石川知京