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コーヒーで旅する日本/九州編|自身が受けた感動を伝えたいというシンプルな想いを胸に。「ロッサ焙煎所」が開店に至るまで

  • 2022年7月11日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第33回は、宮崎市にあるロースタリー「ロッサ焙煎所」。1号店となるコーヒーショップ「ロッサコーヒー」は2015年10月に開店し、宮崎市内のスペシャルティコーヒーの先駆けとして知られている。いちコーヒーラバーから、バリスタとなり、今はロースターとして活躍する店主の宮本幸司郎さん。トレンドに流されることなく、自身が好きなコーヒーの味わいを表現し続け、焙煎度合いは深煎りを主体としている。大切にするのは深煎りならではのふくよかな味わいを表現しつつ、生豆由来の香りに秀でたコーヒーであること。さまざまな味わいのコーヒーがある中、ボディ感をしっかり打ち出したクラシカルなテイストに、香りというエッセンスをプラスした宮本さんならではのコーヒー論を探る。

Profile|宮本幸司郎(みやもと・こうしろう)
1985(昭和60)年、岡山県岡山市生まれ。高校卒業後、大阪に移住。バーテンダーとして約10年働く中で、昼をメインに働く生活にシフトしたいと考え、前職を辞めた後、岡山市に帰郷。趣味のサーフィンからコーヒーカルチャーに興味を抱き、地元で出合ったアロマコーヒーのコーヒーを飲んで強い感銘を受ける。サーフィンで訪れたことがあった宮崎県の街の雰囲気に惹かれ、2015年に宮崎市に移住。最初は移動販売から「ロッサコーヒー」をスタート。2015年10月に実店舗を開き、2021年6月に「ロッサ焙煎所」をオープン。

■宮崎市にスペシャルティコーヒーの土壌を築いた一店
2015年10月にオープンした「ロッサコーヒー」。そもそもの始まりは、店主の宮本さんが故郷の岡山で出合ったロースタリー、アロマコーヒーだ。

「岡山市内にあるアロマコーヒーさんでコーヒーを飲んだ際に、こんなに香り豊かなコーヒーがあるのか、と衝撃を受けました。店主さんからお話をおうかがいすると、産地から直接スペシャルティ規格の生豆を仕入れるダイレクトトレードを行っており、その豆の魅力を最大限引き出すように焙煎していると聞いて、コーヒーの奥深い世界に引き込まれましたね。もともと、バーテンダーを10年やってきた経験と、趣味のサーフィンに紐づいたアメリカ西海岸のカルチャーから、コーヒーをはじめとしたカフェ業態に興味を持っていて、コーヒー屋巡りをしていたんです。アロマコーヒーさんで出合った味わいをきっかけに、自分もスペシャルティコーヒーを柱としたコーヒーショップをやることを決めました。そこでまず考えたのが店を開く場所をどこにするかです」と宮本さん。

自身の本籍が熊本県であったことから九州への移住を考え、趣味のサーフィンを日々楽しむことができる場所として、宮崎市を選択。それが2015年だったのだが、当時、宮崎市内にはスペシャルティコーヒーを出す店はもちろん、エスプレッソマシンで抽出するスタイルもほぼなかった。喫茶店は比較的多くはあったが、当時の宮崎市では珍しい「ロッサコーヒー」のスタイルはなかなか受け入れられず、開店から3年ほどは苦労したと振り返る。

コーヒー豆はアロマコーヒーから仕入れるスペシャルティコーヒーを一貫して使い続けたほか、SNSなどでの情報発信も積極的に行い、徐々に認知を広めた「ロッサコーヒー」。幅広い世代の常連が付き、宮崎市にスペシャルティコーヒーの土壌を築いてきた。

「スペシャルティコーヒーを広めたいというより、私自身が感動した『こんなにおいしいコーヒーがある』ということをより多くの人に伝えたかっただけ」と宮本さん。それが結果的に宮崎市内において、スペシャルティコーヒーの先駆けとして知られるようになった経緯だ。一方で、期せずしてそういった立ち位置のコーヒーショップになったことで、宮本さんのベクトルは生豆の産地、そして自家焙煎に向かい始める。

■産地に足を運び、本格的に焙煎所設立へ
2020年2月、コーヒー豆の仕入れ先として開店から長年親交を深めてきた「アロマコーヒー」の買い付けに同行する形で、産地訪問が実現。もちろん宮本さんにとって、初めて自身の目で直接コーヒー農園を見る機会となり、その経験が「ロッサ焙煎所」の開店へと繋がる。

「店でずっと使わせていただいていた、ニカラグアとエルサルバドルの農園をメインに訪問させていただきました。産地を訪れる以前もアロマコーヒーさんから、農園や生豆の情報をいただき、自分なりに理解した上でずっとコーヒーを淹れ続けてきましたが、やはり自分の目で実際に産地を見て、どうやってコーヒーの果実が栽培され、どんな苦労があって、私たちの元にコーヒー豆として届いているのかを理解すると、より親近感、愛着が増しました。農園の方々もすごくアットホームに迎え入れてくれ、家族のような存在だと実感しましたね」

農園を訪問する前から、「ロッサコーヒー」の2階で手回し焙煎にチャレンジしていた宮本さんは、すぐに本格的に自家焙煎をスタートするために、焙煎機を探し始める。さまざまなメーカーがあるが、最初から、アロマコーヒーでも使用しているPROBATを導入することに決めていた宮本さん。その理由をこう話す。「私がコーヒーで最も大切にしているのは、香りです。アロマコーヒーさんも屋号が示すように、香りをとても重視されており、私自身、その味作りが好きでした。『ロッサコーヒー』の屋号にも、バラのように香り豊かなコーヒーを提供したいという想いを込めています。そういった理由から導入するならPROBATと決めていました」

焙煎機を探し始めてまもなく、ドイツの企業のSNSを通して1954年製の焙煎機がオーストリアのウィーンにあることを知り、すぐに交渉をスタート。「約70年前の製品の上、長い期間使用されずに放置されていたため、写真を見る限りボロボロでしたが、しっかりとメンテナンスしていただけるとのことで購入を決めました」と宮本さん。

偶然、自身が理想とする焙煎機を探し当てることができた宮本さんは、さらに、「ロッサ焙煎所」の場所探しでも良縁を得る。ロースタリーとしたのは、国の有形文化財にも登録されている古民家の一角。「以前から、趣のあるこの古民家のことは気になっていたのですが、まさか一角をテナント貸ししているとは知らず。焙煎所の物件探しをしていることを伝えていた知人から、この古民家でテナントを募集しているということを教えてもらったんです。早速、大家さんに相談に行きましたが、木造建築ということもあり、最初はお断りされました。ただ、どうしてもこの場所で焙煎をしたかったので、焙煎機の構造や安全性などについてしっかり説明し、資料を作り、交渉を重ねた結果、最終的にOKをいただきました」

かくして、理想とする焙煎機と場所を手に入れることが叶い、2021年6月に念願のロースタリー「ロッサ焙煎所」がオープンした。

■自身が好きな味わいを表現し続ける
「ロッサ焙煎所」の焙煎度合いは、浅煎りもしくは中煎り程度で仕上げるのが一般的なスペシャルティコーヒー業界では珍しく、深煎りが主体。なかでもおすすめは、アロマコーヒーが農園から直接仕入れた生豆を使う、深煎りのハウスブレンド、楠並木ブレンドだ。「私自身、しっかりとしたボディ感を感じられる深煎りのコーヒーが好きですし、『ロッサコーヒー』で開店以来人気のラテも、ある程度深めに焼いたコーヒーの方がミルクとの相性も良いと思っていて。生豆の品質が良く、かつ焼き味はできるだけ付けないようなプロファイルにしているので、ある程度深めに焙煎しても生豆由来の香りや酸味は感じることができると思います」と宮本さん。

ロースタリーがオープンして丸1年経ち、豆売りをメインとした店には、日常的に多くの常連が訪れる。小売りはもちろん、卸しにも力を入れ、焙煎士として日々コーヒーと向き合う宮本さん。最後に今後の展望を聞いてみた。

「7年前に『ロッサコーヒー』を始めた時は、まさか自分が焙煎するとは思っていませんでしたし、店舗を増やすことになるとは想像もしていませんでした。ただ、ずっと考えていたのは、この街に根付くコーヒーショップになること。それを地道にやって来て、さまざまなご縁に恵まれ、今があります。私は自分自身が純粋においしいと思える味わいを大切にしていきたい。トレンドに左右されることなく、普遍的でありながら、どこか個性が光るコーヒーをこれからもお客さまにご提供できたらと考えています」

■宮本さんレコメンドのコーヒーショップは「Rametto」
「おすすめは同じ宮崎市内にある『Rametto』。店主の後藤くんは、もともと『ロッサコーヒー』によく来てくれていた常連さんで、エスプレッソマシンの抽出に興味を持つなど、すごく勉強熱心な若者。福岡市内で店をやっていた時期を経て、宮崎にUターンして『Rametto』をオープンさせました。店の空間づくりから、後藤くんと奥さんのセンスの良さを感じることができ、SNSでも話題です。後藤くんはラテアートもすごく上手なんですよ」 (宮本さん)

【ロッサ焙煎所のコーヒーデータ】
●焙煎機/PROBAT PROBATONE12キロ、1954年製PROBAT3キロ
●抽出/ハンドドリップ(クレバーコーヒードリッパー)、エスプレッソマシン(VIBIEMME)
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム900円〜





取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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