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“丸シール”を駆使した夜景がすごすぎる!思わず見入ってしまうアートの数々と先駆者が語る魅力を紹介

  • 2022年4月12日
  • Walkerplus

文房具などでおなじみの丸型シールを駆使したドット絵の芸術、丸シールアート。その先駆者であり、多くの受賞作品を持つとともに国内外で活躍しているのが、現代美術家の大村雪乃さんだ。丸シールアートを制作するに至ったきっかけや、ほかのアートジャンルとの違い、魅力などを教えてもらった。

■映画や本があふれる家に生まれ育って美大へ
――大村さんのプロフィールを教えてください。

【大村】多摩美術大学在学中に文房具の丸シールで夜景を表現する絵画を発表し、2012年には「TOKYO MIDTOWN AWARD」にてオーディエンス賞を受賞させていただきました。これまで、展覧会は銀座三越、高崎市美術館、ウッドワン美術館などで開催し、日本観光庁からの要請によりフランスで個展も開催しています。また、誰でも制作に参加できる観客参加型のワークショップの監修や、毎日放送(MBSテレビ)制作「プレバト!!」の丸シールアート査定の先生役としても出演させていただきました。

――現代美術家を志したきっかけは?

【大村】父親が趣味人で、家に映画のビデオや本が数千冊あるような家で育ちました。幼少期はカーペンターズを聴きながらトムとジェリーやバッグス・バニーのアニメを観たり、ガロの漫画を読んで育ったので、幼い頃から触れているものが少し異質だったかもしれません。

そんな背景もあって大学は美大に行きたいと思うようになり、ある日通っている予備校の特別授業で千住博さんが講演に来ました。そこで初めて生のアーティストを見て、「アートを極める人になりたい」と強い憧れを抱いたのがきっかけです。

■丸シールでの制作を始めた当時は異端だった
――丸シールアートを始めたきっかけはなんですか?

【大村】在学中からこの素材で絵を描いてみようと挑戦を始めました。当時は抽象画を学んでいて、なんとなく円に興味があって円を描く抽象画ばかり描いていたところ、丸を描くのがしんどくなってしまい、丸シールを貼ったほうがラクだと気付いたのが始まりです。

丸シールは当時の素材からすれば当然異端で、絵画学部でもそれを画材として使用する人はあまりいませんでした。ですが、現代アートという分野はどんな素材でも挑戦することに意味があると大学で教わったので、違和感なくこれを素材にすることを選びました。

また、当時は絵画を勉強しているというと、周りの人から「個性的だ」とか「才能がある」、「特別な人」という目線で見られることが増えました。しかし絵の勉強をすればするほど、自分は凡庸な才能しかない普通の大学生であることを痛感していました。それでも、「美大生」になった瞬間に「個性的で才能のある人」と分断されることに強烈な違和感を覚えました。

――丸シールアート制作は難しくないですか?

【大村】丸シールアートは、シールを貼るだけで誰でも絵が描ける芸術です。アナログの絵画を制作する場合、絵の具を用意したり場所や着るものを変えたりと準備することが多いのですが、丸シールは誰でも気軽に扱えます。制作するうえでのハードルの低さ、親しみやすさ、扱いやすさは広く受け入れられると思いました。もっと気軽に制作する楽しみに触れられるきっかけを作りたくて、この素材にこだわっています。

――丸シールアートと、ほかのアートとの違いはどういったところですか?

【大村】まずは、先述したように年齢や性別や障がいの有無も問わず、広く誰でも気軽に始められる親しみやすさがあるところ。また、原色カラーの丸シールが多いので、パリッとした絵がすぐ描けるのも利点です。

――丸シールアートならではのおもしろさ、難しさはどんなところでしょうか?

【大村】作り手の目線でいえば、シールを貼るという行為自体が楽しいので、制作をする楽しみを存分に味わえるところ。私自身の目線でいうと、丸シールだけでどこまでの表現(空は描けるか、山は表現できるか、など)が可能かと頭をひねるときが一番楽しく、またそこが最も難しいと思う点です。

観る方の視点では、シールだけでできているという素材の異質感はぜひ生で観てほしいです。パソコンなどで画像を見るだけでは決して味わえない、違和感とおもしろさを体感できると思います。

難しさでいえば、シールを貼り続けたり、頭の中で表現したいものをその通りに描き出すことの困難さを、パッと絵を観ただけで理解することは難しいかと思います。簡素で誰でも作れると思えるものほど、実はとても技術を必要としますが、そのことには気付かれにくかったりします。

■大きな作品の場合1カ月以上かかる
――得意なジャンルはありますか?

【大村】丸シールアートであれば、これまで夜景作品を多く手掛けてきたので、夜景の表現はかなり慣れてきましたが、未だ得意と思うことはあまりないです。好きということも特別なく、そもそも丸シールアートというジャンルが大好きで極めているということではないので、いつも悩みながら試行錯誤しています。

絵を描くというジャンルであれば、絵はそもそも私にとってとても難しく、「これなら描ける」というものはありません。いつも何を描こうかという点で悩みます。毎回難しいと感じています。

絵に限らず、好きなこと、得意なことであれば編み物です。最近着ているセーターはすべて手編みですね。

――ひとつの作品を作るまでどれくらい時間がかかりますか?

【大村】横幅1.5メートル縦幅1メートルほどの大きな作品なら1カ月以上。横幅50センチの作品は2週間ほどです。

――各方面での反響をどのように捉えていますか?

【大村】わかりやすい表現なので、受け入れてくれる人はいるという期待感はありましたが、国内のみならず海外でも反響をいただくとは到底思っておらず、今もこのように仕事をいただくことに大変驚きながら過ごしています。

加えていうなら、作品がすでにひとり歩きしている気配も感じていて。例えば、初対面でも作品のことを説明すると8割の人が見たことがあると言ってくれます。そのため、作品の価値を守るために、作品作りをやめてはいけないという覚悟を日々感じております。

――ターニングポイントは?その後生活に変化はありましたか?

【大村】2012年の「TOKYO MIDTOWN AWARD」で受賞したことが起点となりました。2013年に大学を卒業し、これからどうしようと思い始めた時にお仕事をいただけたので、すぐ自営業として就業できたのは大変ありがたかったです。

■お気に入りは最愛の人に捧げた作品
――最も気に入っている作品は?

【大村】2020年に制作した「君に贈る」という青い薔薇の絵が一番気に入ってます。これはお花を表現したのですが、最愛の人(現、夫)に愛と感謝を捧げるために描きました。これまで応援してくれた感謝と、これからも共に歩みましょうという気持ちを込めて作りました。個人的な感情を込めたのは初めてでしたので、思い入れがありすぎて販売はしていません。

――最も反響が大きかった作品は?

【大村】最近の作品では香港の夜景を描いた「Hong Kong -just gold-」です。縦2.3メートルもある巨大な香港の夜景を描き、アブストラクトなネオンライトの表現が大変好評でした。

――今後の目標を教えてください。

【大村】家族を守りたいです。最愛の夫とふたりの子供、この家族が健康で毎日笑顔でいてくれることを願っています。そのために仕事をたくさんこなしてお金を稼ぎ、大事に日々を過ごしたいです。

また、いつでも自分がこれまで築いてきたものを壊せるようありたいです。新しいことに挑戦して、丸シールだけでなく、さまざまなクリエイションでも人々を楽しませるような表現をしていきたいです。

教育に携わりたいという思いもあります。アートの業界に関わってから、あらゆる点で現在の教育の限界や厳しさを見てきました。表現をしても、理解してくれる人や作り手が減れば淘汰されるだけです。

わかりやすく消費しやすい文化コンテンツが主流になってきた昨今、アートはますますわかりづらく敬遠される存在になりつつあります。アートに何ができるかと問い続けるためには、アートを楽しむ教育的な素地が不可欠だと感じました。アートは誰のためにも必要だと思っていて、そんなメッセージを発信し続けていきたいです。

――この記事を読んでいる人にメッセージをお願いします。

【大村】アートは自らの教養を高めるものだと思う人がいるかもしれませんが、それは違うと思っています。それどころか時折アート作品を見ていると、そこに込められるメッセージの強さに恐怖を覚えることがあります。かつて、六本木で開催していたパブロ・ピカソの回顧展を観に行ったとき、絵画から発せられるあまりの情報量の多さに酔ってしまい、体調を崩し、めまいを起こしてしまいました。絵画から出てくるメッセージはあまりに強く、多感な私にとっては毒となりました。

つまり、アートは万人に受け入れられるエンターテインメントでもなければ、人を癒やすものでもありません。むしろ大変コミュニティが狭く、居心地も悪く、後味の悪いジョークを言い続けるピエロのような存在だと思います。

でも生きていると、そんな辛辣な作品だからこそ、一人ひとりの個人的な辛い思い出に寄り添ってくれる時があります。そんな方のために私も作品を作っていきたい。みなさんも、生きていると大変なことがいっぱいあると思います。そんな時こそ、のたうち回るような体験ができる作品を探してみてください。

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