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【漫画】「たぶん」「きっと」「おそらく」…言葉に“保険をかける”女子高生の漫画の優しさ

  • 2022年3月17日
  • Walkerplus

「自信がないから」「誤解されたくないから」「反論されたくないから」、コミュニケーションの不和を恐れて言葉に「たぶん」「きっと」「おそらく」と付け加えた経験はないだろうか。そんな“保険をかけた”言葉をテーマに描いたオリジナル漫画がTwitter上で共感を呼んでいる。

漫画家の奥灘幾多さん(@hitotoseshiki)が自身のTwitterに投稿した「(たぶんきっとおそらく)(でも責任は取れないから)」は、二人の女の子がバスケットボール部に入部するところから始まる。自己紹介の場で「ポジションはとりあえず中学の頃はPGでした!」と、自分の言葉に保険をかけてしまう「古賀れいな」と、臆することなく堂々と話す「野々崎ゆきな」。全中プレイヤーでバスケの実力は折り紙付きなものの、自分に自信のないれいなは、先輩へのアドバイスでも「私なんか」「たぶん」「きっと」「おそらく」「もしかしたら」と、ことあるごとに予防線を張った言い方をしてしまう。

ゆきなはれいなの話し方を「めっちゃ謙虚だよね」となんともなしに評するが、先輩たちの感じ方はゆきなと違った。「喋っててイライラするタイプだよね」という陰口を耳にし、「やめたいけどやめられないんだよねー」「私も野々崎さんみたいに自信がほしいよ」と打ち明けるれいな。

それを聞いたゆきなは「前提を壊すようなこと言うけどさ――」と、言葉の保険は“そもそも口に出すまでもない”のだと言う。「そんなの人間なんだから当たり前じゃん!」「そう考えたら楽じゃない?」と、あっけらかんと笑いながら続けるゆきな。れいなはその言葉の裏に膨大な数の“保険”が隠されていることに気付くのだった。

■「保険をかけない理由」を探して生まれた作品
意識無意識に、誰しもがかけてしまう“言葉の保険”と、自信のない少女の変化を描いた本作。ウォーカープラスでは作者の奥灘幾多さんに、本作を描いた思いや制作秘話をインタビューした。

――本作を描いたきっかけを教えてください。

「自分自身が話す中で保険をかけた枕詞をつけてしまいがちな人間なので、どうにか保険をかけない理由を作れないかなと考えていました。リハビリがてら一本短編を描きたくて、感情日記の中から思いがけずこれを選びました」

――「保険をかけた言い方」には読んでいて自分でも思い当たる節がありました。

「私が漫画や文章をかくときは、自分ごときの悩みは普遍的なものであると考えています。なので、今回の漫画の『保険をかけてしまう』という行為も、決して少なくない人間がしていると勝手に思っています。そんな中の誰かがたまにこの漫画のことを思い出してくれたらいいなと思い選びました」

――ご自身も保険をかけてしまいがちとのことですが、自分以外でも“言葉にかけられた保険”を感じることはありますか?

「自分自身はよくしてしまいますが、他人の場合は同じような枕詞がついていても保険をかけているのか、ただ丁寧に話してくれているのか文脈によって感じ方が違います。その印象もあくまで私の勝手な想像なので実態は違うかもしれませんが。そう考えると私が保険をかけた言い方をしていると自覚していても、勝手に良い方向に誤解している人もいるのかもしれませんね」

■きっと無数にある「省略された何か」。人それぞれの線引きを描く
――ゆきなの“保険”が垣間見える台詞はインパクトが強かったです。このアイデアはどんなところから?

「視覚的な引きが欲しかったのと、私が他人の言葉の裏を想像してしまうときの感覚を思い出しながら描いてみました」

――ある意味で本音のような、普段省いている「保険」にはぞわっとしました。

「ぞわっとすることなんてなくて、当たり前に無意識に省いている保険のような何かは無数にあると思うんですね。保険だけではなくて、ざまざまな事前知識やポジティブなことなども含めた膨大な情報が省略されているはずです。些細な会話の裏にもきっと省略された何かが存在しています。

社会的動物である人間がスムーズなコミュニケーションをとる場合、情報や文化を『共有すること』『共有できていると思うこと』『省略すること』が大切な気がします。同じ文化圏にいる人間であれば、ある程度は省略するべき範囲を共有できていると思うのですが、やはりそれには幅があり、どこに線を引くのかは人それぞれだと思います」

――確かに省略された内の言葉は必ずしもネガティブなものばかりではなく、れいなが選んだ結末にも温かさを感じました。

「情報の伝え方や相手の理解度を確認するような本はよく見かける気がしますが、どこまで省略して話すかなんて教わる機会はないですし、引いた線も人によって幅があるのも自然なことですよね。

分かりやすくするために『自分の発言に保険をかけてしまう女子高生』なんて表現を用いましたが、実態は『どこまで言うかの線引きが少しだけ周りと違う女子高生』だったと思います。“みんなとラインがずれている理由は自信がないから”と思い込んでいる女の子。でもそれをよしとしていない彼女に、何か楽になる理由を与えてあげられたらなと思って描きました」

――このほか、本作で特に意識した点があれば教えてください。

「物語というよりも1つの考え方の提示であるので、そこだけ伝わってくれるように意識しました。分からないという反応もあって嬉しかったです」

――最後に、今後の漫画制作について教えてください。

「描かれていない感覚があるのは嫌なので、身体の許す限り描いていきたいと思います。今回の漫画は、スキンシップと好意についての話、恵まれているが故に言い訳ができなくて苦しい話、部活動で試合に出ることが目的になる話、バスケの強豪校でギリギリベンチ入りした人間の話などと合わせ、5月発売予定の短編集に加筆修正して収録する予定です。ぜひそちらもチェックしていただけたらと思います!」

自分への引け目や思い込みが、ふっと軽くなるような見方を見せてくれる本作。同作が収録される短編集『スライトセルフエスティーム』は2022年5月刊行予定だ。

取材協力:奥灘幾多さん(@hitotoseshiki)

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