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「コミックボンボン」は“ガンダム情報”の命綱だった?『ガンダムX』のコミカライズで「アニメと同じ」にこだわったワケ

  • 2022年3月23日
  • Walkerplus

TVアニメ『機動戦士ガンダム』(1979年)の放送終了後、1980年代に巻き起こったガンプラブームに乗り、伝説のガンプラ漫画『プラモ狂四郎』の連載をスタートさせた「月刊コミックボンボン」(講談社)。王道路線のコロコロ派か、ちょっとディープで大人な気分もあったボンボン派か?この話題で盛り上がった記憶のある方は多いだろう。

爆発的ヒットを記録した『プラモ狂四郎』に牽引される形でガンプラ情報、ガンダム情報に力を入れたコミックボンボンは、1984年に『機動戦士ガンダム MS戦記』を、さらに翌年にはTV放送に合わせて『機動戦士Zガンダム』のコミカライズをスタート。その後は「SDガンダム」ブームも起こり、ガンダムファンはボンボン派に回ることが多かった。

そんなコミックボンボンで『ガンダム』コミカライズを担当したのが漫画家・ときた洸一氏。1994年に連載された『機動武闘伝Gガンダム』ではアニメ本編に忠実な路線を進み始め、好評を博すことになる。現在は『機動戦士ガンダムSEED ASTRAY』シリーズで知られるときた氏だが、コミカライズを依頼された当時は漫画家として「駆け出しの新人」。ではどのような経緯でコミカライズを依頼されたのか…?26年前、コミックボンボンで連載されていたときた氏の『機動新世紀ガンダムX』が新装版で復刻されたのを記念し、当時のコミカライズ事情を聞いた。


■コミカライズは「ガンダムストーリーのもう一つの世界線」?

――ときたさんにとって『ガンダム』の原体験は?

【ときた洸一】ファーストガンダム(1979年放映の「機動戦士ガンダム」)で、当時中学3年生でした。ただ、放送時間(関東地域:毎週土曜17時30分)に家にいることがあまりなく、ちゃんと見るようになったのは11話「イセリナ、恋のあと」から。最初は何気なしに見ていましたが、勧善懲悪のロボットアニメとは違って、国家間のイデオロギーの対立や兵士たちの葛藤、一瞬で散っていく“名も無き兵士たちの死”が描かれていて、「なにこれ?」ってカルチャーショックですよ。こんなロボットアニメは他になかったから、それからは放送時間に必ずテレビの前にいるようになり、毎週土曜日が待ち遠しかったです。

――今でこそ世界的コンテンツに成長した『ガンダム』ですが、1990年代から2000年代までは浮き沈みも大きかったと聞きます。そういう中で、ボンボンでガンダム漫画が掲載され続けた意味は大きかったと思います。

【ときた洸一】ちょっと大げさになりますが、ガンダムシリーズのコミカライズはアニメの放送地域にいない人にとっての“命綱”だったと思います。『ガンダムX』放送の1996年はネット配信なんてない時代で、本放送は関東を中心とした一部地域だけ。地域によっては再放送もないし、レンタルビデオが出るまで待つという状況でした。その時代、全国の子供たちに“最新のガンダム”を知ってもらうためには漫画というツールしかなく、コミカライズの責任も重大でした。私も“ガンダムチームの一員”という気持ちを持って、みんなに『ガンダム』の良さを知ってもらおうと頑張っていました。

――『機動武闘伝Gガンダム』『新機動戦記ガンダムW』もそうですが、ときたさんのコミカライズはアニメに忠実です。それ以前は、作家のオリジナルというか、アニメと漫画でストーリーやキャラクターデザインの印象がずいぶん違った記憶があります。ときたさんの“原作路線”は編集部からの要望ですか?

【ときた洸一】それは私からの提案です。私の子供時代のコミカライズというと『仮面ライダー』や『ウルトラマン』でしたが、子供ながらに違和感がありました。「テレビのライダーと違くない?」って。

――雑誌に掲載されるコミカライズの多くは、本編とは異なるオリジナルストーリーでした。

【ときた洸一】『仮面ライダー』の原作は漫画ですが、私はテレビから入ったため、漫画を読んだときの距離感が大きくて…。なので、『Gガンダム』のお話を頂いたときに、アニメの内容に近い漫画にしたいという希望を伝え、編集部、サンライズに了承をいただきました。

これは先ほどの話ともつながりますが、TV放送のない地方の子供たちにとっては、コミックボンボンの『ガンダム』のほうが先なんです。漫画を読んだ子供たちが後でアニメを見て、「あれ?」と思わせたくない。なるべくキャラやストーリーは同じにして、アニメではないけど、「これが最新の『ガンダム』だよ」というものを届けたかったんです。

――想像ですが、先達の漫画家たちがアニメと同じものを描けなかったのは、資料不足(脚本や絵コンテが与えられない)という事情もあったと思います。ときたさんはその点をどう解決したのですか?

【ときた洸一】先にプロットを頂いてはいましたが、あくまで全体概要の把握レベル。細かいことは脚本待ちですが、それも完成稿を待っていては間に合わないので、実際の作業は準備稿を元にしました。準備稿ならある程度先まで上がっていることが多いので、それを(コミックボンボン)発売日の1カ月先の話数まで頂いて、どこまで載せるかを考える。なぜ1カ月先まで頂いていたかというと、私も人気を取りたかったので、アニメより一週間先の話まで載せればみんな読みたくなるだろうって(笑)。今だとNGを受けると思いますが、当時は「まあ、いいんじゃない」っていう大らかさがありました。漫画の中に「あれ、アニメと話が違うぞ?」という箇所がいくつかありますが、それは準備稿でのパターンだったわけです。

――準備稿パターンというのは興味深いですね。「こうなる可能性もあった」という、アニメサイドの“もう1つの世界線”のようです。

【ときた洸一】たしかにそういう見方もできますね。ページ数との兼ね合いで変えた部分もありますが、せっかくなのでそこは言わないでおきます(笑)。

■ドラマ性に優れる『ガンダムX』はもっと評価されていい

――『ガンダム』シリーズは今年で43年。『ガンダムX』を観たことがないという世代も増えています。コミカライズを手掛けた立場から、本作にどんな魅力を感じていますか?

【ときた洸一】『ガンダムX』はストーリーの完成度がとても高く、1話からラストまで、小さなエピソードを挟みながらも散らからず、軸のしっかりしたドラマが楽しめる作品です。ジャンルとしてはボーイ・ミーツ・ガールの王道路線。1人の少年が少女と出会い、自分が変わり、世界も変わっていく。『ガンダム』という題材に関係なく、このドラマ性にはぐいぐい引き込まれると思います。『ガンダムX』はもっと評価されていい。今からでも総集編を作ってもらいたいくらいの面白さを持った作品だと思います。アニメ未視聴の方にはぜひ見てほしいです。

――新装版3巻には新作『NEXT PROLOGUE「あなたと、一緒なら」』が収録されています。こちらの見どころを教えてください。

【ときた洸一】ストーリーは川崎ヒロユキさん(『ガンダムX』シリーズ構成)の書き下ろしで、TVシリーズの続きが読めるファン必見の漫画です。「Blu-ray メモリアルボックス」(2018年)の特典漫画として描いたものですが、ファンの反響が大きく、今回新装版に再収録させてもらえることになりました。じつは執筆を打診されたとき、私はスピンオフ系かと思っていたんですが、川崎さんのほうからTVシリーズの続きを書きたいというご提案がありまして。「え?できるんですか!?」って感じですよ。とんとん拍子に話が進んで、なんと新章が始まってしまいました。もちろん、高松信司さん(『ガンダムX』監督)にも監修してもらっています。素晴らしい(笑)!!

――これを読んだ読者は新シリーズの連載を期待していると思います。

【ときた洸一】私もぜひ描きたいですし、読みたいです。ファンの後押しがあれば実現すると思うので、応援よろしくお願いします。



【プロフィール】
ときた洸一:1961年生まれ。1993年、月刊コミックボンボン(講談社)の『ザ・グレイトバトルIII』で漫画家デビュー。月刊コミックボンボン、月刊ガンダムエース(KADOKAWA)で『機動戦士ガンダム』シリーズのコミカライズを数多く担当。近年の代表作には『機動戦士ガンダムSEED ASTRAY』シリーズ、『GUNDAM EXA』シリーズなどがある。

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