
Black Lily 黒百合短編集「交換」 / ぴのこ堂(蒼乃シュウ)
かつては純粋に憧れていた先輩漫画家を、今や自身のゴーストライターに仕立てた後輩。けれど歯車は狂い、再逆転の時を迎え――。
WEB発のインディーズ漫画は、今やアマチュアのみならずプロの漫画家も数多く発表するようになった。「日本、ここ行け Walker」グランプリを受賞したぴのこ堂(@pinokodoaonoshu)さんがAmazon Kindleの無料電子書籍などで発表している「Black Lily 黒百合短編集」もそうした作品の一つだ。
女性同士の想いをテーマにした“百合”を題材とした「Black Lily 黒百合短編集」。なかでも、師匠とアシスタントの間柄が逆転し、人気漫画家にのし上がった後輩漫画家と、彼女の先輩アシスタント兼ゴーストライターとして働く先輩漫画家との関係を描く「交換」シリーズは、プロとして長いキャリアを持つぴのこ堂さんゆえの説得力あふれる描写と、互いの強い感情が交錯する二人の姿に引き込まれる作品。「漫画家漫画をいつか描いてみたかった」というぴのこ堂さんに、同作の制作秘話を訊いた。
■後輩は人気漫画家!?先輩はアシスタント兼ゴーストライター
Black Lily 黒百合短編集「交換」(01) / ぴのこ堂(蒼乃シュウ)
Black Lily 黒百合短編集「交換」(02) / ぴのこ堂(蒼乃シュウ)
Black Lily 黒百合短編集「交換」(03) / ぴのこ堂(蒼乃シュウ)
本作「Black Lily 黒百合短編集」シリーズについて、作者のぴのこ堂さんは、「百合」と「ミステリー」の組み合わせに着目し、実験的な作品として制作を開始したという。5ページ完結の短編で、ラストには驚きのどんでん返しを用意する構成で、シリーズとして3本描くことを目標にしていた。
そして、3本目「交換」では、これまで描きたくても描けなかった「漫画家とアシスタント」という関係に焦点を当てることを決めた。漫画家を題材にした物語をどのように描けば、自分にとって最も適した形になるのかが分からなかったが、短編を重ねることで、「百合でミステリーで5ページ」という形式なら、この題材を活かせると確信したそうだ。
また、ぴのこ堂さんは「自分も漫画家なので、それしか知らない職業なんです」と語る。そのため、登場するキャラクターが些細なことに悩んだり、憎しみを抱いたりする場面では、若い頃の自分自身と重なり、複雑な気持ちになることもあるという。一方で「同時に俯瞰で眺められるようになって、昔の自分を励ましたいという気持ちにもなります」と気持ちの変化についても教えてくれた。
実力と人気を兼ね備えた少女漫画家・すみれと、彼女に憧れながらも歪んだ感情を抱くナツが象徴的な存在となっている本作。「誰しもがあこがれる成功した少女漫画家、そして世間がイメージするような少女漫画家でもあるすみれには、私自身のあこがれと皮肉が混じっているかと思います」と語るぴのこ堂さんは、キャラクターには自然と自身が投影されることを痛感したという。
本作は、読者を惹きつける緊張感のあるストーリーが魅力で、最後まで目が離せない作品だ。
取材協力:ぴのこ堂(@pinokodoaonoshu)
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