【動画】メスと交尾する権利を巡るキングコブラの「ファイトクラブ」

  • 2025年5月6日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

【動画】メスと交尾する権利を巡るキングコブラの「ファイトクラブ」

 2匹のキングコブラのオスが絡み合う動きは、まるで催眠術のようで、濃密な交尾の儀式だと思う人もいるだろう。ある意味、その通りだ。

 体長3.5メートルを超える2匹のオスが最長30分にわたって絡み合い、屈辱的な音とともに、相手の顔を地面に押し付ける。おそらく2匹はメスを巡り、この高度に儀式化された戦いを続けているのだろう。驚くことに、毒を持ち、ほかのヘビや同じコブラさえも食べることがあるにもかかわらず、勝利のために暴力的な手段を選ぶことはなく、暗黙のルールに従い、儀式的な戦いを繰り広げる。

「キングコブラは毒ヘビです。その気になれば、互いにかみ付き、殺し合うことも可能です」と米バージニア工科大学の研究者として野生生物保護に取り組むマックス・ジョーンズ氏は話す。

 コブラやほかのヘビの儀式的な戦いを撮影した動画が、YouTubeなどのソーシャルメディアプラットフォームに投稿されることがある。しかし、研究者がこの行動に言及することはほとんどなかった。2025年3月27日、ジョーンズ氏らがタイのキタキングコブラによる3つの戦いを学術誌「Ecology and Evolution」に詳述するまでは。

野生のキングコブラを追跡

 キングコブラはある種の再評価を経験した。もともと1つの種と考えられていたが、最近、4つの種に分類されたのだ。その結果、研究者たちは現在、この4種に生態や行動の違いがあるかどうかを明らかにしようとしている。

 ジョーンズ氏は2016年、タイにあるスラナリー工科大学の学生として北部サケーラート生物圏保護区のプロジェクトに参加していたとき、後にキタキングコブラ(Ophiophagus hannah)と分類されるキングコブラの研究を開始した。このプロジェクトでは、キタキングコブラの自然史をより深く理解するため、小型発信器で追跡を行った。

 2019年、ジョーンズ氏は保護区での現地調査中、キングコブラの儀式的な戦いを目撃した。「見応えのある戦いでした」

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 ジョーンズ氏は同じ年、首都バンコクの南西にあるケーンクラチャン国立公園のキャンプ場で撮影された戦いの動画を入手した。さらに、ジョーンズ氏らは小型発信器の追跡データから戦いの証拠を発見した。追跡データは、1匹のオスが別のオスを追い払ったことを示唆しており、その後、農家から話を聞き、実際にヘビの戦いがあった可能性が高いことがわかった。

「(ヘビの戦いを)自然界で観察するのは困難です」とブラジル北東部パラー州の州都ベレンにあるパラエンセ・エミリオ・ゲルディ博物館の動物学者であるアレクサンドル・ミサシ氏は話す。ミサシ氏はヘビの儀式的な戦いを研究しているが、今回の研究には参加していない。ミサシ氏はジョーンズ氏らの観察結果について、コブラの自然史に関する知識を大きく深めるものだと称賛している。

儀式的な戦いのルール

 ジョーンズ氏らが記録した戦いはわずかな数だが、コブラの儀式的な戦いの基本をのぞき見ることができる。3つの戦いはすべて、繁殖期に行われたものだ。これは儀式的な戦いを交尾に関連付ける仮説と一致している。メスの存在は確認できなかったが、近くにいたのではないか、とジョーンズ氏らは推測している。

 コブラの戦いはレスリングの試合をほうふつさせるもので、どちらのオスも相手の頭に後ろから顎を乗せ、相手の顔を地面に押し付けようとしていた。これが何度も繰り返され、明確な勝者が決まらないまま、攻防が続く。やがて、通常は小さいほうのコブラが、ゆっくりと去っていく。いずれの戦いでも、どちらも相手をかむことはなかった。

 直接観察された2つの戦いでは、どちらも頸部(けいぶ)をフードのように広げることさえなかった。そのような行動は不要だったためだ、とジョーンズ氏は考えている。

 フードは通常、コブラが危険な毒を持つことを知らない相手の威嚇に使われる。「このような状況では、(フードを広げる)メリットはありません。体を大きく見せても、相手がだまされることはありません。相手を驚かせて追い払うこともできません」

戦いではサイズが重要

 いずれのケースも、コブラたちは大きく、体長は最も小さい個体で約3.5メートル、最も大きい個体は4メートルを超えていた。コブラたちは長い体を互いに巻き付け、頭を地面から持ち上げていた。「まさにヘビの塊です」とジョーンズ氏は表現する。

 コブラたちが互いにかみ付かないのは、相手のサイズに敬意を示しているからかもしれない。コブラは、同じコブラ科のサンゴヘビなどと同様、自分より小さな種のヘビを捕食することで知られる。また、共食いの傾向もあり、繁殖期でなければ、オスが小さなメスを食べることさえある。

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 その結果、交尾の権利を巡る儀式的な戦いでなく、サイズ差が大きい場合、「リスクが高い戦いになる」とブラジルにあるターシャ・ムンディ研究所のビニシウス・メンデス氏は述べている。メンデス氏はサンゴヘビの戦いを研究しているが、コブラの研究には参加していない。メンデス氏によれば、サイズ差が大きいほど、相手にかみ付く可能性は高まるという。

 しかし、これらの儀式的な戦いは、両者がほぼ互角だったため、流血なしで終わった可能性がある。大きなオスのコブラは、文字通り、丸のみするには大きすぎる。

生息環境を守る

 ジョーンズ氏らが報告した3つの戦いのうち、1つは少なくとも30分にわたって続いた。確認できなかったものの、近くにメスがいて、勝者は交尾の権利を手にした可能性が高い。

 しかし、メスは多くを期待していなかったかもしれない。マラソンのように長い戦いを終えたオスは、おそらく疲れ切っていただろう。

「とても過酷な戦いで、2匹の大きなヘビにとっては消耗戦だったと思います」とジョーンズ氏は話す。

 ジョーンズ氏によれば、この戦いはコブラの繁殖地を守ることの重要性を浮き彫りにしているという。

 オスたちはメスを巡る壮絶な戦いから回復する過程で、人間の脅威にさらされやすくなる。多くの人がキングコブラを恐れているが、かみ付くことはほとんどなく、通常はまず威嚇を試みる。オスたちが開けた場所で戦っているとき、儀式への集中を好機と捉え、「マチェテ(山刀)で首を切り落とそうとする人もいる」とジョーンズ氏は述べている。

 コブラがどのような環境で戦い、繁殖するかについての理解が深まれば、「保護活動の助けになる可能性がある」とメンデス氏も指摘する。保護区が増えることで、戦いに敗れたコブラも諦めることなく、運と力が味方すれば、別のメスと交尾する機会を見つけるかもしれない。

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