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コーヒーで旅する日本/関西編|人の縁とローカルなつながりを大切に、多彩なコーヒーライフを広める「Basic珈琲」

  • 2022年3月15日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

大阪・豊中の目抜き通り、通称・ロマンチック街道沿いにある「Basic珈琲」。コーヒー商社に勤めた経験を活かして幅広いコーヒーの楽しみを発信し、地道に地域のファンを広げている、ロースターリーカフェの魅力に迫る。

Profile|坂原健史
1982(昭和57)年、兵庫県神戸市生まれ。大学時代のアルバイトを通じて飲食業を志し、卒業後はベーカリー勤務を経て、大阪のコーヒー商社に転職。生豆の営業担当としてコーヒーの知識や技術を学び、退社後に神戸のカフェ勤務を経て、2017年に豊中に「Basic珈琲」をオープン。

■開店へとつながった人との出会いの妙
豊中市を南北に貫くメインストリート、通称“ロマンチック街道”。車通りも多い道沿いにありながら、ビル奥にある「Basic珈琲」の入口は隠れ家的な雰囲気が漂う。引戸を開けると青い壁が爽やかな店内と対照的に、フロアの真ん中に年季の入った焙煎機が目を引く。「実はこの焙煎機は開店を後押ししてくれた、この店の原点なんです」とは坂原さん。学生時代のアルバイトを機に飲食業の道へ進み、当初はパン作りに関心を持っていたが、勤務先の京都で喫茶店巡りをするうちに、コーヒーの世界へと傾倒していった。「国や産地が一緒でも豆の種類で風味が全然違うし、焙煎によってもまったく変わる。その面白さ、職人的な仕事にも惹かれましたね」

そう思い立ったら、行動は早かった。すぐさまコーヒー商社へ転身し、生豆の営業を担当。原料から加工までコーヒーに関する知識と技術を吸収していった。「仕事でいろんな店を見ることができましたし、ハンドドリップの競技会に出場するなど、さまざまな勉強をさせてもらいました。特に焙煎に興味があったので、工場で長年のプロの仕事を間近で見たり、お客さんに持っていくサンプルを自分でローストさせてもらったり、ここでの経験はすごく大きかった」と振り返る。

この時、営業先の一つとして出会ったのが、前回登場した廣屋珈琲店だ。自らが深煎り党だったこともあり、ネルドリップの魅力に触れたことで、「独立する時はネルドリップのコーヒーを出したい」との思いが、今の店作りの指針となった。その後、商社を退職し、開店準備を進める中で、廣屋珈琲店で教えを乞うべく、自ら店で働きたいと志願。店主の廣井さんも、「とにかく真面目な人柄に惹かれた」と評する熱意で、ネルドリップの技術を学ぶことに邁進した。

古巣の商社から、焙煎機の譲渡の話があったのは、ちょうどその頃。「いきなり前職から電話があって、僕が独立に興味あったのを知ってた同僚から、以前担当していたお店から焙煎機を譲りたいという話をされて。まだ開店時期は決めてなかったんですが、“これは始めるタイミングでは?”と感じて、具体的に開店に向けて進むことにしたんです」。商社時代の仲間、廣屋珈琲店との出会い、そして焙煎機の譲り受け…幾多の縁がなければ、この店はなかった。

■看板ブレンドは“ややしっかりめ”の飲みごたえ
まさに人の縁から生まれた「Basic珈琲」。店名には、時代や流行に左右されないコーヒーを提供したい」との思いが込められている。商社時代の経験を生かして、豆は生産プロセスが明確なスペシャルティコーヒーを吟味。店の名を冠したベーシックブレンドをはじめ、ブレンド3種、シングルオリジン6種を定番に。深煎り党だけあって、焙煎はすべて2ハゼ以上の中深~深煎りで、浅煎りは置かないのがモットーだ。それゆえ、看板のベーシックブレンドも“ややしっかりめ”の味わいで、ネルドリップならではのコクのある飲みごたえが感じられる。

シングルオリジンについても、「基本は深めに煎っても、持ち味に違いが出る銘柄をチョイス。深煎りでも苦味は突出せず、バランスを重視した焙煎を心がけています」と坂原さん。中でも、修業時代にナチュラルプロセスの芳醇なフレーバーに衝撃を受けて以来、思い入れの深い銘柄がエチオピア・イルガチェフェ・ナチュラル。すべてのブレンドに使用するほか、単品でもあえて深めの焙煎で提供。

エチオピアの豆は、果実味と華やかな香りを生かした浅めの焙煎にすることが多いが、深煎りの魅力を伝えるべく坂原さん独自の工夫を凝らしている。「いろいろ試す中で、ナチュラルプロセス(※1)の豆は、生豆を前日に洗ってから焙煎する方法に行きつきました。これだとナチュラルならではのフレーバーを残しながら、事前にチャフ(※2)を取ったぶん風味もクリーンになります。深煎りはお客さんにも珍しがられますが、ここならではの味も楽しんでもらえれば」と坂原さん。

他にも、二十四節気の名を冠して、季節ごとに2種ずつ登場する季節のブレンドや期間限定のシングルオリジン、時にはインド・モンスーンなど珍しい豆を入れるなど遊び心も発揮。ネルドリップで、多彩な味わいに触れられるのも楽しみの一つだ。

■コーヒーを介したローカルコミュニティー
店は駅からは離れた立地で、入口が奥まっているため、「いまだに知らなかったというご近所さんもおられます」と笑う坂原さん。それゆえ、近隣のリピーターが9割を占めるという、お客との密な関係に一役買っているのが、開店後しばらくして始めた「お喜びの声ノート」だ。

「お客さんの声を聞きたいけどSNSが苦手で、あえて紙でのコミュニケーション手段を考えました。これなら子供もお年寄りも書けますし、イラストや字体から人柄が伝わるのがいい。ノートは誰でも自由に見られるので、他のお客さんが勧めるニューを注文していただくなど、お客さん同士をつなげる宣伝役でもあります」。まるで文通のように、ノートの書き込みにはコメントもすべて書き込まれ、小さなコミュニティーの広がりが感じられる。アナログなツールは、ゆったりと時間が流れるこの店にはかえって似つかわしい。

定休日には、店内を近隣の人々の貸切やイベントなどに貸し出すなど、地域に根差した取り組みにも積極的。2021年からは、コロナ禍の影響もあり、毎週月曜午後に半径5キロの範囲でのコーヒーの宅配便をスタートした。「近所の人にいろんなコーヒーを体験してほしい」と、自ら豆や器具も届ける試みは、すでにリピーターも多く、来店したことのないお客からの注文も少なくない。

開店から5年を迎え、今後はよりコーヒー豆の販売に力を入れていきたいという坂原さん。「現在はカフェメニューでモーニングやランチなども提供してますが、フードを徐々に減らして、よりコーヒー豆の販売メインにしていく予定です。開業時から比べると焙煎のプロセスも変わってきてますし、試行錯誤を続けながら深煎りの味を磨いていきたい。深煎りはベストのポイントが一瞬で変わるので、煎り上げのタイミングは今でもドキドキします」

そんな坂原さんは、最近、手回しの焙煎機を購入したそうだ。「僕は世代的に、東京にあった大坊珈琲店など深煎り・ネルドリップの名店の味を経験してないのですが、伝え聞くその味わいを表現してみたくて、同じ手回し焙煎なら近づけるかもしれないと思ったんです。1回目で大失敗しました(笑)。まだ数回しか使っていませんが、いつかは店でも出したいですね」

■坂原さんレコメンドのコーヒーショップは「かみかわ珈琲焙煎所」
次回、紹介するのは豊中市・曽根の「かみかわ珈琲焙煎所」。「同じ豊中で、自分の店より1年前に開店されて、市内のイベントなどで交流、情報交換しています。うちには置いていない浅煎りのコーヒーを求められたら、おすすめのお店としてご案内しています。店主の河上さんは長年コーヒーの焙煎や品質管理に携わってきた経験があり、個性的なスペシャルティコーヒーを吟味されているので、安心してお勧めできる一軒です」(坂原さん)。

【Basic珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/FUJI ROYAL R105 5キロ(直火)
●抽出/ハンドドリップ(ネル)
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/ブレンド5種、シングルオリジン7~8種、100グラム650円〜

※1…収穫したコーヒーの実を、果肉が付いた状態でそのまま乾燥させる精製方法。果肉の甘さや酸味によって独特な風味を生み出す生産者や農場、精製方法などの単位で統一された豆のこと
※2…生豆の外側を覆っている薄皮(シルバースキン)のこと

取材・文=田中慶一
撮影=直江泰治




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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