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海外発の「縦読み漫画」が流行中!“待てば¥0”のシステムを生んだ漫画アプリ「ピッコマ」の戦略とは?

  • 2022年2月15日
  • Walkerplus

今では誰もがスマホやタブレットを持つようになり、いろんなものがスマホ仕様になっていくなか、著しい変化を遂げているのが「漫画」。アプリで簡単に好きな作品を買ったり試し読みができるようになったが、実は読む側だけでなく“描く側”にも同じく変化が起きている。その理由が「縦読み漫画」の発展だ。

縦読み漫画とは、スマホ画面を縦にスクロールして漫画を読んでいく形式で、コマ割りやセリフ、ストーリー展開も全て縦に進んでいくという、スマホの画面や使い方に合わせて読みやすく進化したものだ。

これをいち早く日本に取り入れたのが、“待てば¥0”でおなじみの漫画アプリ「ピッコマ」。話題の作品だけでなく韓国で人気の作品も読むことができる。今回は株式会社カカオピッコマ海外コンテンツ室室長の金アヨンさんに、縦読み漫画の魅力や日本に浸透させるうえで苦労していること、これからの漫画業界について聞いた。

■縦読みならではのダイナミックさが人気の秘密
縦読み漫画の発祥は韓国で、業界内では「SMARTOON」(スマトゥーン)と呼ばれている。縦画面の広さを生かしたダイナミックなコマ割りや、普段漫画を読まない人でも気軽に読み始められることで人気となった。そして近年では縦読み漫画作品から実写映像作品なども生まれ、注目度は上々だ。

現在ピッコマが力を入れている縦読み漫画は、韓国ではすでに一般的な漫画の形式に。そのため、配信している縦読み漫画の80%以上が日本向きにローカライズされたものだ。

■『梨泰院クラス』は『六本木クラス』に⁉️日本に定着させる工夫
海外では浸透している縦読み漫画だが、日本で定着させるためにさまざまな苦労を重ねているという。もともと日本には縦読みの習慣がなく、スマホで読む場合でも紙のような位置画面に複数のコマ割があるのが一般的。漫画大国の日本で、新しい形式の漫画を読んでもらうためのきっかけ作りが困難を極めた。

縦読み漫画が作られる際、スマホの画面に沿ってオールカラーにこだわったり躍動感のあるシーンに力を入れるなど、漫画を読み慣れていない人でも楽しめる工夫がされている。そして海外発の作品を現地の読者が違和感なく楽しめるように、配信する国々に合わせて翻訳や舞台設定などのローカライズもおこなっている。

動画配信サービスで人気の韓国ドラマ『梨泰院クラス』もピッコマで配信された漫画タイトルは『六本木クラス』、ピッコマの看板作品『俺だけレベルアップな件』も舞台がソウルではなく東京になっている。しかし「本当はローカライズをすることなく原作の魅力をそのまま伝えるのが理想」と金さんは話す。

「国境を超えて楽しんでもらいたいので、原作漫画の設定をそのままお届けしたいです。ですが文化の違いが読者にどのように受け入れられているかわからないことが現在の1番の悩みでもあります。現代ロマンスなど各国の文化の違いがわかりやすい作品については、日本の読者が違和感を覚えず楽しめるかどうか配慮しています」

過去に実写化された作品では、漫画が日本版でも実写は海外の原作の設定になっているということも多く、実写から漫画を読み始めた人をどのようにフォローするかが課題だという。「これからは映像作品と漫画をうまく連携させていきたいです」と金さんは意気込む。

■日本の漫画家も挑戦中!縦読みと横読みの違い
日本でも徐々に縦読み文化が流行し始めていることで、日本の漫画家でも縦読み漫画の制作に挑戦する人が多くなった。『東京タラレバ娘』など人気作の作者・東村アキコさんをはじめ、他にも日本の著名な漫画家が連載を開始するなど、注目が集まってきている。

しかし日本の漫画家が制作する際、どうしても壁になってしまうのが「縦」だった。縦読みは横幅があまり大きくないので、そこに収まるように1人のキャラクターにフォーカスを当てた演出をするなど、横読みの漫画とはまた違った表現が必要になることも。これまでの漫画の技法と異なることに苦労しているという。

「日本の漫画家の方たちは制作される際、一度通常の横読み用でコマ割りを考えて、そこから縦に置き換えていく人が多いです。でもそうすると縦読みならではの動画のようなテンポの良さが出にくくなるので、そのあたりで苦労されているみたいです」

今後、日本の漫画家が描く縦読み漫画が一般的になったら、作品を海外へ逆輸入する流れもできるかもしれない。「縦読み漫画で異文化交流ができたらうれしいです!」と、金さんは期待に胸を膨らませる。

■実は8割が待てていない!?業界初のシステム“待てば¥0”
ピッコマは、2021年にアプリの累計ダウンロード数3000万を突破。成功の理由は、縦読みの話題性と“待てば¥0”の仕組みだという。“待てば¥0”は23時間待てば無料で続きを読めるという、ピッコマ発のシステム。アプリ内に広告をほとんど入れていないこともあり、作品1話ごとの売り上げが1番の収益になっている。

「例えば、1冊500円の漫画を購入するのはためらっても、話数ごとでは1話あたり60〜80円なので、気楽に買うことができます。なおかつ待てば0円で1話無料を『体験』できるので、抵抗はさらに少なくなります。ちなみに2016年から2020年までの期間で、14万回以上も“待って”読んでくれたユーザーもいましたよ!(笑)」

しかし2020年3月から2021年9月までのデータでは、なんと80%以上の読者が待つことができず、ストーリーが気になって続きを購入しているのだそう。これを後押ししたのも縦読みのシステム。作品自体のおもしろさや縦読みならではのリズム感ある演出が相まって、これまであまり漫画を読んでこなかった人たちが「簡単に読める漫画」として読み始めたことも、アプリが伸びた大きな要因となった。

「アプリの読者は縦読み漫画から読み始める人が多いですが、数カ月後には約半分の人がアプリで出版漫画も読まれています。この循環を大切にしながら、アプリの将来性を模索していきたいです。これからも横読み漫画と縦読み漫画という、2つのコンテンツを共存させていければと考えています」

■おすすめ作品は?試し読みでいろんなジャンルを楽しもう
ピッコマではさまざまなジャンルの作品が配信されているが、男性に人気なのが異世界系のアクションファンタジーで、女性に人気なのが西洋風貴族社会を舞台にしたロマンスファンタジーだという。例えば、一度死んでしまった主人公が転生後に復讐する物語や、異世界での恋愛要素を含む物語がよく読まれている。

そのなかでも特に人気なのが、『俺だけレベルアップな件』というファンタジーアクション作品。一度死んだ最弱の主人公が蘇生後に「レベルアップ」という、作中で自分だけが強くなる能力を身につけて成長を繰り返し、次々に強敵を打ち倒していくストーリーだ。

「この作品は2019年3月の配信当初から人気があり、これまでに月間販売金額が3億円を突破した月もあり絶好調です。主人公が敵を倒していく姿やストーリー展開がすごく爽快なので、ぜひ読んでみてください!」

ピッコマは基本的に内部に編集部を持たず、出版社から作品を預かり配信をするプラットフォーム運営が中心だった。しかし近年では出版社との共同制作にも力を入れていて、その代表例が『26番目の殺人』というサスペンス作品だ。

残酷な殺人を犯した死刑囚が記憶喪失になってしまい、「罪の反省なしの死刑執行は殺人と同様だ」という世論が形成されてしまうというストーリー。元死刑囚は記憶を取り戻して罪をつぐなうのか、それとも記憶を失くしたまま新たな人生を歩むのか。現代社会の倫理観に疑問を投げかけるこの作品は、現在ピッコマで最も注目されている人気作だ。

人々の生活のなかにスマホが欠かせない今、SMARTOONはスマホに適応し、現代のニーズに応えた新たな漫画の形となっている。縦読みと“待てば¥0”の戦略で、2021年に大きく成長を果たしたピッコマ。これからも「漫画」というコンテンツを大切にし、縦読みと横読みのどちらにも同じく力を注いでいく姿が楽しみだ。

取材・文=福井求

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