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子供の頃から周囲になじめない。違和感の正体、自閉症スペクトラム障害のリアルを漫画に

  • 2022年1月6日
  • Walkerplus

「なんでみんなが出来るのに、自分は出来ないんだろう。なんで私が何かを言うと、なんだかおかしな空気になるんだろう」。毎週水曜日に「自閉日記」をTwitterで更新している水谷アス(@mizutanias)さんは、子供の頃から周囲になじめない違和感をずっと持ち続けてきた。

■子育てをして初めて診断がついたASD
現在女児2人を育てる水谷さんは3年前、育児と仕事の兼業が困難になり退職。子供たちと過ごす時間が増えたことで、子供が自閉症スペクトラム障害(ASD)であることを知った。

その後、自身もASDの診断を受け、幼い頃からの違和感の正体がようやく判明。現在は「社会が苦手だという特性を理解し、在宅で仕事ができる道を探るべく、漫画家を目指して2年前からSNSで作品を発信しています」と水谷さん。人に感情や情景を伝える力を鍛えるため、プロの漫画家を養成する学校「コルクラボマンガ専科」にも所属し、課題作品も発信している。

漫画を描くうえで特に意識しているのは、「幅広い人に『違うこと』のおもしろさを受け入れてもらえるようにすること」だという。

■自閉日記でわかる、自閉症スペクトラム障害のリアル
水谷さんの作品のうち、シリーズとして続いているのが「自閉日記」。これは自身と家族の姿を描いたものだ。子供がASDと診断され、昔からその傾向を感じていた水谷さんも、やはりASDと診断された。

実は自閉症スペクトラム障害の特性を持った人は10人に1人だといい、糖尿病と比率はさほど変わらないそう。特別珍しい存在ではないことを伝えたくて描いたのが、自閉日記の第2話だ。

自閉日記第3話では、なぜ「自閉症スペクトラム障害」と呼ぶのかを解説。自他の心の境界があいまいで、「他人の心の存在が分からない=自分の心を閉じている」ことから、このように呼ばれるのだとか。読者からは、「とても分かりやすい」「この漫画が発信されることで救われる人がいると思う」という感想が届いた。

さらに「生きづらさを感じている人には読んでほしい」という第5話、障害者がより生きやすくなればいいなと思って描いた第6話と自閉日記は続き、2021年12月13日現在12話まで公開されている。

自閉日記の登場人物は、基本的に水谷さんとその家族で、第三者はすべて同じ猫のキャラクターで描かれている。これは「家族以外の存在の行動や発言について、読者が性別や年代などの先入観を持たないようにするため」だという。さらに、漫画を描く際には、「視点を変えると正しさも変わると思う。何が正しい、何が間違っているみたいな描き方はせず、多角的に物事を見られる作品を心掛けています」と教えてくれた。

■相手の立場に立って物事を考える大切さを動物の物語でわかりやすく

水谷さんの作品群の中でも読みごたえのあるのが、「発達障害のある子供に対人スキルを育てるために書いた漫画」だ。自閉症スペクトラム障害の長女は人の気持ちを考えるのが苦手。そのため自分の思ったように動いてくれなかった相手が全面的に悪いと決めつけて、ケンカになってしまった。

本作で水谷さんは、人の立場を想像して考えることを、コアラとカンガルーが主人公の物語で説明した。「できるだけ、どちらが悪いという視点を持たせない話にすることを意識しました」と水谷さん。長女はこの漫画をケンカ相手と共に読み、仲直りをすることができた。本作には「発達障害の有無や子供大人関係なく、大切な考え方だと思う」といった感想も寄せられた。

■「多様性」をさまざまな例えで表現
水谷さんの多くの作品を貫く大きなテーマが「多様性」だ。その一つが、人間をテトリスのブロックで例えた「テトリス」。

「真四角や真っすぐのブロックばかりのの方が美しく積み上げやすいかもしれません。でもテトリスがそんなゲームじゃ面白くないのと同じで、凸凹を上手に組み合わせて大きな技を決められる世界の方が、ずっと面白いのでは」と水谷さん。自分はどのブロックだろう、と思わず考えてしまう。

同じく、自分に当てはめて考えたくなるのが、海をテーマにした作品。「学校を海に例えたとき、人間はすべて魚に当てはまるのだろうか?」という疑問を投げかける。

「すべての生き物が海で過ごせるわけでないのと同じで、『学校』という共通の場所で楽しく過ごせない子がいてもいいのではないでしょうか。全員が同じ場所を好きになったり、過ごしやすいと感じたりするとは限らないよね…ということを考えてほしくて描きました」

Twitterでは「わかりやすい」「こういう考え方が浸透してほしい」といった感想が寄せられた。

車の擬人化を通じて多様性を描いたシリーズ作品「くるま×社会」も、発想が面白い作品の一つ。「多種多様な車の特徴は、いい部分と悪い部分があって、それを生かしているのがくるまの社会。人間もそうだったらいいなと思って描いてます」

パトカーや一般車両、トラクターや田植え機など様々な車両が登場するが一つ一つの表情がかわいらしく、思わず引き込まれる魅力がある。ちなみに筆者は「稲作戦隊・スイハンジャー」のファンだ。

■多様な子供たちを多様な環境で育てていける社会になることを願って
多様な環境で子育てできる社会への願いを描いたのが、オルタナティブスクールについての漫画。前述の「学校を海に例えたとき」の海のような公立学校だけでなく、「いろいろな学校を作ることで子供たちの居場所は増やせる」と水谷さんは考える。そんな思いが込められた作品だ。

■心に残る作品も多数
自閉症スペクトラム障害や多様性だけでなく、さまざまなテーマの漫画を描く水谷さん。なかでも印象的なのが、「自分を育ててくれた母親への感謝と、今とこれからを考えていてふと思ったことを漫画にした」という「人生の荷物」。Twitterでは「泣いた」という声が多数見られた。

水谷さんは「現代の母親だけなのでしょうか。色々捨てないと子育てできないのは…」と疑問を投げかける。

また、コロナ禍で出前を頼んだ時のエピソードをもとに描いた「自分を変えたひと言」も、心に残る作品。こちらはネット媒体でも取り上げられ、注目を集めた。

■他人と違うことは面白い、同じでなくて大丈夫。そういう漫画を描けたら
水谷さんの目標は、「自閉日記を中心に自閉症スペクトラム障害・発達障害についての発信をし、いつか書籍を出すこと」だそう。また、「他人と違うことは面白い、同じでなくて大丈夫。読んだ人がそういう気持ちになるような、『誰かと比べない世界観』の創作漫画を描いていけたら」と今後の活動について語ってくれた。

読者に対しては「差別は知らないことから始まると思っています。なので、まずは知ってもらいたい。これから漫画づくりをもっと学び、生きづらさを抱えている人へ『ありのままで生きていい』とメッセージを送れるような作品を作りたいと思っています。共感頂けましたら、どうぞ応援よろしくお願いします」と呼びかける。多様性について改めて考えさせてくれる作品の数々に、ぜひ触れてほしい。

取材・文=鳴川和代

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