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「流産の悲しみから一歩先へ」不思議で心温まる胎内記憶を描いた漫画に反響続々

  • 2021年10月22日
  • Walkerplus

漫画家の竹内文香さんがInstagram(@ayyyyyaka.t)に、長女の胎内記憶についての漫画を投稿したところ、多くの女性から「前向きになれた」「流産して辛い時に救われた」と大きな反響が寄せられ、話題に。口コミが口コミを呼びフォロワーは現在約19万人以上に急増し、昨年7月には『おかあさん、お空のセカイのはなしをしてあげる! 胎内記憶ガールの日常』(飛鳥新社)として書籍化。ロングセラーとなり、海外での翻訳出版が決まるなど注目を浴びている。
今回は、竹内文香さんに胎内記憶漫画を描き始めたきっかけや作品に込められた思いなどを聞いた。

■友人の後押しでインスタデビュー
竹内さんは、高校時代に少女漫画家デビューし20代半ばで結婚、現在は3児の母親で、漫画雑誌 『マーガレット』(集英社)で「絡む想いのからまわり」を連載中。サンスマイルプリン浦和店のキャラクターデザインを担当するほか、自身の介護体験をつづったブログも執筆中だ。

胎内記憶について竹内さんが話を聞くようになったのは、長女が2歳を過ぎたころ。不思議な発言をするようになり、突然「赤ちゃんうんでもいいよ」と言い出したという。

「それまでにも不思議なことを言ってるなと思うことはあったのですが『赤ちゃんうんでもいいよ』と言われた直後に、妊娠が発覚した時は驚きました」と竹内さん。

一説では、一部の人間には母親の胎内にいるときの記憶「胎内記憶」と、胎内に宿るまでやそれまでに別の場所で過ごした記憶「中間生記憶」があると言われている。竹内さん自身、半信半疑なところがありつつも、長女の話が“ネタとしておもしろい!”と思い、育児記録を兼ねてFacebookに投稿したところ、友人たちから「おもしろい!」「もっといろんな人に読んでもらったらいいのに」とコメントが相次いだという。

友人の後押しを受け2019年10月にInstagramアカウントを開設。長女の語ったエピソードを順次公開していったところ、口コミだけであっという間にフォロワーが激増したという。

本人は目に見えない類のものを妄信するタイプではなくどちらかというと現実主義だという。それでも、この作品を描くことにしたのは漫画家としての嗅覚と、我が子の話だからこそ否定せずに受け止められた親心からだろうか。本作は、子供の話にしっかりと耳を傾けたからこそ生まれた作品だといえる。

「センシティブな内容ですし、どう受け取られるのか不安でした。個人的には『胎内記憶』『中間生記憶』に否定的な人がいるのは自然なことだと思います。私もいまだに半信半疑な部分もありますし、『こうなんだ!』と断言するつもりもありません」(竹内さん)と、否定派がいることにも理解を示す。

あくまでも作品で描いたのは“自身の家族の中で起こったこと”であり、漫画にする際はその範囲を脱しないことを心掛けたそう。

「『なんかこの本面白かったよ~』ぐらいで真偽はあまり気にしないでもらえると。なにせ目に見えない世界の話なので(笑)。楽しんで明るい気持ちになってくれたらうれしいです!」


「私自身、胎内記憶って神秘的だなって感動しつつも、『自分で親を選ぶ』とか『運命が決まっている』とか言われると、疑問に思う部分もあります」

近年も、子供に関する悲しい事件が日々起こっている。そんななかで「胎内記憶」は、世論的に扱いが難しいのが現状だ。過度にスピリチュアルな面ばかりがクローズアップされてしまうことも多く、「胎内記憶」という言葉自体にいい印象を抱かない人が多くいることも事実である。そんな中で、この作品を世に出すことを決めた理由の一つに、自身の流産の経験への反響の大きさがあった。

■流産の経験を乗り越えて
「初めて妊娠が発覚した時は、なぜか当たり前のように無事に生まれると思っていたんですよね」(竹内さん)。流産は約8~15%前後の確率で誰にでも起こりうることなのだが、「自分が流産するかもしれない」と考える人は少ない。しかし、実際に経験すると、悲しみに暮れて自分を責めたり、不安になったりしてなかなか立ち直れず、人には言えずに悩みを抱え込んでしまう女性も多い。

竹内さんもそんな一人だった。

「どうしたらいいのかわからなくなって、毎日泣いていました。『何が原因だったのか』『赤ちゃんが欲しい』『また流産したらどうしよう』『もう子供はできないのかも…』とそんなことばかり考えていました」

流産の経験を綴った章は、竹内さんが特に大切に描いたエピソードの1つだという。
「流産した経験と、自分がどうやって受け止めて、前に進んでいったのかということを大事に描きました。作品では胎内記憶のことを中心に書いていますが、ほかにも出産時のことなども載せています」


書籍内(「流産したときのこと」)では竹内さんの旦那さんが当時思っていたこと、感じたことが描かれている。流産や死産は心身ともに女性への負担が大きく、男性側の戸惑いや気持ちがわからずにすれ違ってしまい、関係が悪化することもある。旦那さんの描写を通して、男性側の心理を垣間見られるのでぜひ参考にしてほしい。

■知るはずのない過去を話し出した長女
メディアも多く取り上げられている『お空のセカイのはなし』。この章では、長女が語った中間生記憶が描かれている。お空のセカイにはたくさんの赤ちゃんが住んでいて、そこからお母さんを見つける。そして神さまのOKが出たら虹色のすべり台をすべってお腹にやってくるのだという。想像するとまさにファンタジーの世界だ。

「私自身も初めて聞いた時は『作り話かな』と思いながら聞いていました。ですが長女が知るはずのない、“流産した過去”について話し出したことに衝撃を受けたんです」(竹内さん)

先にも述べた通り、竹内さんは第一子を流産していた。もちろん、そのことは長女に話していなかったが『次女ちゃんがお空のセカイに帰ってきたから先にわたしが行ったの』と教えてくれたというのだ。このエピソードは、流産を経験した人からの反響が特に大きかったという。

「私自身もこの話でとても救われました。それでも当時のことを思い出すと今でも涙がでますし、心の中に大事にしまってある経験です。すべての方がこの話で救われるとは思っていませんし、私が当時他の人からこの話を聞いていたとしても受け入れられたかはわかりません。けれどもし、縁があって読んでくださった方の気持ちが少しでも楽になってくれたらうれしいです」

実際に、筆者はこのエピソード、そして作品に救われた一人だ。

自身も第二子で流産を経験した。第一子は何のトラブルもなく出産していたためか、両親や親しい友人には妊娠も伝えていたし、不安を感じることなく日々を過ごしていた。しかしある日突然出血し、急遽受診するとすでにお腹の子は亡くなっていた。突然の出来事に心が追い付かなかった。「ごめんね」と何度も謝りながら涙が枯れるのではと思うほど泣いたし、「もう何もできることがない」と自分の無力さに打ちひしがれて、自分を責めた。

日常に戻ってからも、どこか空虚感を抱えながら平静を装って過ごしていた。まだ幼い長女の育児に奮闘しながらも、夜寝かしつけながらふとした時に涙が止まらなくなってしまう…。そんな時に、偶然竹内さんのInstagramを発見し、無我夢中で投稿を読んだ。読みながら、号泣した。

流産した事実は変わらないし、悲しみが消えるわけではない。でも不思議でどこかあたたかい、お空のセカイの話を読んでいると「もしかしたら、あの子(第二子)は一度お空のセカイに帰ったのかもしれない」「もしかしたら、もう一度出会える時がくるのかも」そんな風に思えた。筆者にとってはそう思えたことが、立ち直る第一歩になったのだ。

■印象的だったメッセージとは?
Instagramや書籍を見た読者やフォロワーからは、たくさんのメッセージが寄せられているという。そんな中で印象的だったことを聞いてみた。

「本当にたくさんのご連絡をいただきます。流産のことや妊活のこと…一番多いのが自分や家族にも胎内記憶や中間生記憶があります、という内容なんです。60代の方から『自分も子供のころから娘さんと同じ記憶があります。ずっと夢だと思っていましたが、中間生記憶だと気づきました』とメッセージをいただいたのも印象的でした」(竹内さん)

筆者自身は胎内記憶も中間生記憶もないため、大人になっても覚えている人がいるのかと驚いた。また、たくさんの人からメッセージを読んできた竹内さんの話では、それらはまったく同じではなく、どれも少しずつ違うという。「長女が以前言っていた『いろんなパターンがあるんだよ』とはこういうことかと納得しました」(竹内さん)


■縁があって出合った人に読んでもらえたら
この作品をどんな人に読んでもらいたいかを聞いてみたところ、竹内さんはこのように答えてくれた。

「自分からグイグイ行きたい、という気持ちはあまりなくて…。縁があって手に取ってもらった人に『読んでよかった』と思ってもらえたらいいなと。信じない人は信じなくても、エンターテインメントの一つとして読んでもらえて、楽しいなと思ってもらうことが一番なので」

話を聞いていると、あくまでも価値観は人それぞれであって押し付ける気はないというスタンスを徹底しているように感じた。実際、「自分は胎内記憶を信じていないけど、この作品は好き」と支持する読者も多い。


■書籍とInstagramどちらも楽しんでもらいたい
書籍『おかあさん、お空のセカイのはなしをしてあげる! 胎内記憶ガールの日常』を担当したMさんもInstagramで投稿を見ていた一人。育児疲れの果てにたどりついた竹内さんの投稿に感銘を受け、竹内さんにアプローチしたという。

「Instagramって“消費されるもの”だと思っていたんですが、繰り返し読んでくださる方が多かったんです。そういう方には、本の形で手元に置いてもらえたらうれしいです」(竹内さん)

書籍では、再収録にあたってすべて描き直され、Instagramではアップできなかったエピソードも入っているので、違うものとしてどちらも楽しむことができる。

また、書籍化するにあたって、本の印税の一部を寄付することを家族で決めたという。

「私にとっては娘から聞いた話を知らなければ有り得なかった出版です。娘には『神さまから覚えておいてねと任されたのなら、世の中の人のためにその影響力を使おうね。残ったものを私たち家族がありがたくいただけばいいんだよ』と伝えました。おかげさまで家族でどんなところに寄付をするかを話し合う時間も作ることができました」

作品を世に出すだけでなく、そこから先自分に何ができるかまでを考えて活動している竹内さん。Instagramやブログの投稿からも、竹内さんの人柄や考え方が垣間見える。また、仕事や育児に奮闘している姿とその人間性にも多くの支持が集まっているのではないだろうか。

流産、死産の悲しみから抜け出せない人や、妊活で悩んでいる人をはじめ、この作品を必要としている一人でも多くの人に、この作品が届くことを切に願う。

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