サイト内
ウェブ

「古さ」を「あたたかさ」に転換、昭和の世界観に生まれ変わる西武園ゆうえんちの戦い方

  • 2021年5月14日
  • Walkerplus

5月19日(水)にグランドオープンが決まった埼玉県所沢市の西武園ゆうえんち。2020年に開業70周年を迎えた老舗遊園地は、“心あたたまる幸福感に包まれる世界”を新コンセプトに昭和の世界観を打ち出したテーマパークに生まれ変わる。コロナ禍に加え、既存の遊園地の相次ぐ閉園や、人気IP主体の新施設オープンなど大きく変動するレジャー業界において、同園が“昭和”を武器に臨んだ理由とは。

■来園者は全盛期の約1/5、100億円規模リニューアルで「復活」へ
1950年にオープンし、鉄道会社系遊園地として70年以上の歴史を持つ西武園ゆうえんち。最盛期の1988年度には年間来場者数約194万人を記録したが、以降は徐々に入場者数が減少。2019年度は年間約37.8万人に留まった。

こうしたなか、2020年1月に同園はマーケティング集団「刀」との協業による一大リニューアルを発表。発表前も含め約3年強の期間に約100億円を投じリニューアルを実施。記者会見で西武園ゆうえんちの藤井拓巳代表取締役社長が「おせっかいな人情味あふれる人懐っこい人々との心の触れ合いを通じて、あたたかい幸福感を感じてもらえる場所を作る。そういった考え方で新しい西武園ゆうえんちが皆さまから選ばれ愛される遊園地として、いわば“復活”させることを目指してまいりました」と話すように、昭和をコンセプトにしたテーマパークへ変貌を遂げる。

■“60年代”の世界観に一新、ゴジラアトラクションも登場
新しくなった西武園ゆうえんちの顔は、1960年代の日本の世界観で作られた「夕日の丘商店街」。旧来3カ所あった入場口を西武園ゆうえんち駅に隣接するエントランスに集約したことで、来園者が最初に必ず訪れることになるエリアだ。

単に昭和の街並みを再現しただけではなく、各施設では園内通貨「西武園通貨」で飲食や買い物といった体験が楽しめるほか、エリアの各所で突然始まるパフォーマンスも特徴。商店街の住人として溶け込むパフォーマーたちが来園者の間近でショーを繰り広げるという。商店街そのものが予測不能のライブアトラクションとなっているのだ。

さらに、商店街を見下ろす高台には新設アトラクションとして「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」が登場。映画館を模した建物の中で楽しむライドアトラクションで、映画監督の山崎貴氏が手掛けたゴジラやキングギドラたちの激闘の映像とともにスリルたっぷりの体験が楽しめるという。

また、ファミリー向けのエリアとして誕生する「レッツゴー!レオランド」では、ジェットコースター「アトムの月面旅行」や、回転型ライド・アトラクション「飛べ!ジャングルの勇者レオ」など、手塚治虫作品のキャラクターの魅力が持ち込まれたアトラクションが登場。隣接するアトラクションエリアには、大観覧車をはじめとする既存のアトラクションに音響効果やスタッフのインタラクションを加え、体験を一新している。

■既存のイメージを逆転、「古さ」を顔に
こうしたリニューアルの背景には、これまでの西武園ゆうえんちにブランドとしての「顔のなさ」があると、マーケティングを担当する株式会社刀の近藤正之氏は話す。

「西武園ゆうえんちは70年の歴史を持つ遊園地であるがゆえに、現代の消費者からは『懐かしい』『昔からある』『古い』というイメージを持たれていて、それ以上に語るべき特長、“顔”がなかった。西武園ゆうえんちに行くとどんな体験や楽しみがあるのか、消費者が具体的に思い浮かべることができないという状況にありました。『今度の休みはどこに行こうか』という会話のなかで西武園ゆうえんちが選択肢として現れない、選ばれないということが一番の課題でした」(近藤氏)

そこで今回のリニューアルでは既存のイメージや逆手に取り、古さを価値にできるような文脈として昭和の世界観を取り入れた。リニューアル以前のアトラクションなど同園にある本物の昭和からの資産を活用することで、投資をコンパクトに抑えることにもつながっているという。

また、マーケティングを行うなかで、SNS時代の反動で「現代の人々は昭和の時代にあったような人と人とのつながりや人情味あるあたたかさに飢えているのではないか」という仮説に至り、単に昭和レトロを打ち出すのではなく、それらが生み出す心を動かすような懐かしさやノスタルジーの演出に焦点を置いているとし、特に若年層には「どことなく懐かしくも、知らないがゆえに新しく感じる」非日常の体験につながるのではないかとも話す。

■二極化進む遊園地、リニューアルは老舗施設の今後を占う試金石に
昭和というハードを用いて、いわば現代社会へのカウンターのような世界観を提供しようという西武園ゆうえんち。同園でマーケティング課長を務める高橋亜利氏は「まずは関東近域の方に来ていただいて、西武園ゆうえんちがどんなところか知ってもらうところからはじめていきたいと思います」としながらも、ゆくゆくは全国から集客できる施設へのステップアップも視野に入れていると話す。

コロナ禍以前、遊園地・テーマパーク業界は右肩上がりの成長を続けていた。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によれば、業界の年間売上高は4693億円(平成21年)から7004億円(平成30年)と約1.5倍に。その一方で、平成21年の調査では165事業所あった公園、遊園地・テーマパークは、平成30年には126事業所と、9年間でおよそ4分の3にまで施設数が減少するなど、選ばれる施設とそうでない施設の二極化も進んでいた。

近年、遊園地・テーマパークではユニバーサル・スタジオ・ジャパンの新エリアとして今年3月にオープンした「スーパー・ニンテンドー・ワールド」や、としまえんの跡地に2023年オープン予定の「スタジオツアー東京‐メイキングオブハリー・ポッター」のように、版権作品をテーマにした新施設やエリア拡充が話題だ。こうした明確な“顔”を持つ施設に対し、西武園ゆうえんちはゴジラや手塚治虫作品といったIPを取り入れながらもあくまで“心あたたまる幸福感に包まれる世界”をテーマに独自路線を選んだ。リニューアル後の同園は、既存の遊園地が今後どう生き残るかの試金石とも言えそうだ。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright (c) 2024 KADOKAWA. All Rights Reserved.