新型コロナウイルスの影響は我々の生活を大きく変え、新たな需要も生まれた。技術開発研究所「染めQテクノロジィ」の抗菌スプレーもその一つ。実はこれ、10年前に開発されたものの、売れることなく倉庫に眠っていた商品なのだとか。それが一転、コロナ禍で注文が殺到する人気商品になった。倉庫に眠っていた商品が脚光を浴びた経緯について、代表取締役の菱木貞夫氏に話を聞いた。
■10年前、当時流行していた鳥インフルエンザ対策で大量に生産するも…
「染めQテクノロジィ」はDIY向けの着色コーティング剤「染めQ」で知られる技術開発メーカー。創業当初から廃棄物を出さない、エネルギーセーブ可能、建物の再生・長寿命化可能な製品など、消費者や社会の“お困りごと”を解決するため、研究・開発し、製品化してきた。
特に力を入れてきたのが、コンクリートや鉄骨の劣化を抑えつつ、施工も簡単な塗料の開発だ。各地で老朽化が進む工場などの再生や延命に取り組んできた。そうした製品の開発で培った独自の「ナノ分子密着技術」を応用して10年前に開発されたのが、抗菌スプレーだ。
「当時流行した鳥インフルエンザが人間にも感染するのではと思い、研究・開発を進めました。弊社の開発に興味を持っていただいた方も多く、市場が求めていると思い、大量に生産しました」と菱木氏。しかし、感染の広がりは限られ人間にはうつらず、そのうち騒動も沈静化して、せっかくの商品は在庫となってしまった。
しかし、2020年、コロナ禍で消毒液の不足が深刻化。「こんな時こそ、近隣市町村に少しでも恩返しができるのではないか」と地元・茨城県五霞町や河内町など近隣の自治体に製品を寄付し、学校にも配られた。学校には手すりやドアノブ、図書館の書籍、体育用具など、不特定多数の人が何度も触れる場所が多く、長期間の抗菌状態を維持することができる抗菌スプレー「ウイルス増殖環境消滅」はもってこいの商品。「当初は使い方がわからない学校もありましたが、社員自ら使用方法の説明に出向いて活用してもらうようになりました」と菱木氏。
■これぞ逆転劇？寄付先からの口コミで人気商品に
「寄付先からの口コミでの広がりもあり、抗菌スプレーについて改めて説明する機会が増え、多くの企業が商品に興味を持ってくれるようになりました」そうして、「ウイルス増殖環境消滅」は2020年3月から10月で120万本以上を販売し約10億円以上を売り上げるヒット商品に。無用の長物からの逆転劇となった。
私たちが普段行っているアルコール除菌は効果が瞬間的で、1日に何度も行う必要があるが、「ウイルス増殖環境消滅」は最大で抗菌効果が1カ月持続する。ウイルスが増殖できない環境を作り、菌を寄せ付けないためだ。菱木氏によると、「杏林大学医学部の神谷茂教授の調査で、ノロウイルスやO-157、アシネトバクター菌、多剤耐性緑膿菌に対して有効であること。また、4週間以上その効果が持続することが実証されています」とのこと。塩素系物質を使用していないので、ツンとした臭いもなく、人にも環境にもやさしい優れものだ。
多くのウイルスや細菌類に効果があるので、「ウイルス増殖環境消滅」をスプレーするだけで抗菌仕様になる。ドアノブや家具などはもちろん、外出する前の衣類などにスプレーして使用。前述のように学校だけでなく、白衣や手袋、車椅子などにも利用できることから介護の現場でも活用できる。また、抗菌効果が長持ちすることから、毎日の除菌作業の負担を軽減できるという。
■学校の先生や介護士の方々など、本当に困っている方々の作業負担を減らしたい
シリーズ商品として、「マスクはガードしなければ！EX」も発売中。「マスクに付着した雑菌やウイルスを除菌する除菌効果と、菌やウイルスが嫌がる抗菌成分でマスクをガードする抗菌効果を持つスプレーです」と菱木氏。マスクの表裏面にまんべんなくスプレーし乾燥させることで、抗菌効果が24時間持続する。まさに今、必要とされる抗菌スプレーといえるだろう。
「ウイルス増殖環境消滅」や「マスクはガードしなければ！EX」の評判が広がり、一時期は注文が殺到し24時間体制で生産していたという。「多くの発注を受けられるように工場を増設して対応してきました。最近ではそれも落ち着いてきましたが、学校の先生や介護士の方々など、本当に困っている方々の作業負担を減らしたいという思いから、私たちができることを続けていきたいと思っています」と菱木氏。
「染めQテクノロジィ」では、現在、抗菌作業を効率化する噴霧器を開発中だという。消費者や社会のために、“お困りごと”を解決するもの、役に立つものを研究・開発し、販売していくという企業理念は変わらない。その思いが今後も新たな役立つ商品を生み出していくだろう。
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