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フィギュアスケート全日本選手権はペア競技が実施されず。「残念だが、今以上の成長をモチベーションに」三浦璃来選手インタビュー

  • 2020年12月25日
  • Walkerplus

昨シーズン、木原龍一選手とペアを組み、わずかの期間に長足の進歩をとげたフィギュアスケートの三浦璃来選手。今回は、さらなる飛躍が期待される彼女に、スポーツ写真家の中村康一氏が現状や目標などをオンラインで取材した。ただ取材後、彼女が活躍を期していた全日本選手権でのペア競技が実施されないという非常に残念な発表があり、追加でコメントもいただいたので、それも含めてお届けしたい。※オンライン取材は2020年10月31日に行われました。

■ロックダウンの中、地道に練習を重ねたオフシーズン

三浦選手の取材は今春以来だった。雑誌「東海ウォーカー」のコラム執筆のため、メール取材をさせていただいたのだが、それは世界選手権の中止が決まった直後のこと。メールの文面では明るい印象の三浦選手だったが、当時の率直な気持ちについて、あらためて聞くことからインタビューを始めた。

「世界選手権をシーズンの集大成にしようと調子を上げていってました。なので、いきなりドーンと落とされた感じがあって、二人ともモチベーションが保てなかったですね。頑張ってきたのにな、という気持ちが強かったです。カナダでのロックダウンは3月末、世界選手権が中止になってからすぐでした。私は連れ出されない限りずっと部屋にいる人なので、散歩に連れ出されていました。部屋では毎日、チームメイトとのZoomレッスンを受けていました。ダンス、ヨガ、筋トレなどです」

ずっと部屋にいることがストレスにならない性格が、ロックダウンを乗り切るためには幸いしたそうだ。しかし氷上練習ができなかったことは大きな負担だったという。

「氷が使えなかったのは3月の末から6月の最初まで、約3か月です。氷に戻ってからも、最初の2か月はシングルの練習でした。ペアの、顔と顔を合わせての練習が駄目だったので。ペアとしての練習は8月からです。練習が思うようにできない期間が長くて、結構大変でした」

そしてシーズン入りはしたものの、出場予定だったスケートカナダは中止となった。

「スケートカナダの中止は、世界選手権の中止ほどの喪失感はなかったです。ただやはり演技をお見せできる機会を失ったことは、スケート選手として悔しいな、という気持ちでした」

このインタビューの時点では、全日本選手権がシーズン初戦となる予定だった。

「全日本はもう不安しかなくて(笑)。でも少しずつ新しい技を取り入れて、仕上げていってます。初めてスローループを入れます。スロージャンプは、前はサルコウとルッツだったんですけど、今季はループとルッツで挑みます。あとはリフトがほとんど変わりました」

なかでも課題となるツイストリフトの出来栄えについて、大きな自信をのぞかせていた。

「カナダのジャッジさんに見てもらったんですよ。以前はレベル1しか取れていなかったんですが、そのジャッジさんには『これならレベル3が取れるよ』と言ってもらえました。それを試合で出せるように頑張りたいです」

ツイストリフトで点を稼げるようになることは、ペアとして一段上のステージに進むことともいえる。調整は順調に進んでいるようだが、その一方で、先の見えないコロナ禍においてモチベーションを維持するのは大変なことだろう。

「本当に難しいですよね。今後とかも。今、本当にどこにも行けないから、モチベーションを頑張って探しています。一日一日、今日はここを気をつけようとか、小さな目標を積み重ねています」

今季、特にファンに見てもらいたいアピールポイントについて、意欲的な答えを聞くことができた。

「今回初めて、スロールッツが入る前に、龍一君の足の間をくぐって持ち上げて、お姫様抱っこからスローをするんですよ。そこの流れを見てもらいたいです。カナダのジャッジにもすごいと言ってもらえたんです。それを見てもらいたいです。私よりも多分、龍一君の方がしんどいと思うんですよ。私が足を振り上げた時に、靴に龍一君の指が当たってしまって、突き指になってしまいました。あとは、スターリフトから入って、ポジションチェンジをして、キャリーリフトに移行するリフトがあるんですけど、龍一君が座っている状態から持ち上げて、座るように降ろすんです。そこも見どころです。男性が女性を持ち上げてキープしたまま移動するリフトです。私達は、一回プッシュして(氷を蹴って)、そこから膝立ちで降りる感じです」

このリフトはかつてフランスのジェームス&シプレ組がやっていた形だ。かなり筋力がいるはずだが、木原選手への負担が心配になる。

「立膝が痛い、って言ってました。私の体重も乗っているので」

このような力技もプログラムに組み込めるまでに成長しているようで、早く実際の試合での演技を拝見したいものだ。

■日本に帰れない中での、異例の大学生活

三浦選手は今春、中京大学に入学した。とはいうものの、カナダ滞在中にロックダウンを経験し、それ以来帰国も叶わず、一度も大学のキャンパスには登校できてない。異例な状況でどんな大学生活を送っているのかも話してくれた。

「学校には行けていないんですけど、教授がものすごく優しくて、『(日本に)帰れないんです』という相談をしたら、オンラインの授業があるからそこに入っていいよ、とか、いろいろしてくださってます。オンデマンドの授業もあるんですが、ZoomやGoogle Meetを使った授業もあります。日本の時間に合わせて、こちら(カナダ)の夜中、2時とかです(笑)」

日本の時間に合わせたリモート授業に参加しているということは、カナダでの練習のスケジュールとの両立は大変なことだろう。

「早く大学に行きたいです。けど友達を作るのがあまり得意ではなくて、それがめっちゃ心配です。しゃべりかけていいのか躊躇します」

ただ中京の選手はフレンドリーな性格の人が多く、あまり心配は要らないように思う、というのが正直なところ。なによりパートナーの木原選手がとても人望が厚い。ここで、インタビューには参加していない木原選手の話題で盛り上がった。こちらの想像以上に、彼は良い”相方”ぶりを発揮しているようだ。

「木原君はコミュニケーション力がすごいんです。彼はいつも通り、前向きに練習しています。自分がネガティブな方なので、彼は『大丈夫、大丈夫』と言ってくれます。気持ちの上げ方がすごいんです。言葉もそうですし、行動でも表せる人ですね」

昨季の急成長ぶりは本人も予想していなかったとのことだが、手応えは早期から感じていたようだ。

「組む前のトライアウトの時から、初めてツイストリフトで上げてもらったとき、『もう降りるだろうな』と想像したタイミングで、『あれ?まだ跳んでる?』と。すごいな、と思いました。ステップアップしていけば、いい結果を残せるんじゃないか、とは思いました。龍一君にカバーしてもらっているからできていると感じています。恐怖心は一切ないです。安心して命を預けられます。『絶対に落とさないから』と言ってくれますし」

昨季の東日本選手権での取材でも、「安心感がすごい」との発言をしていたが、驚いたことに、それから1年以上経過して、練習で一度も危ない思いをしたことがないのだそうだ。そして練習以外の生活でも、木原選手にはとてもお世話になっている、というより、お世話されているようだ。

「大学の課題を先週は8個ぐらい溜めてたんですが、週末で全部片付けました。龍一君に『課題やりなさい!』って言われて(笑)。もう、本当にお母さんみたいなんですよ。毎日車で送り迎えしてくれるんですけど、車から降りるときに『手洗いうがい、しなさいよ』って。私の母が『私より母親らしい』って(笑)」

ただ、彼をそうさせたのは三浦選手ではないかとも感じる。昔の木原選手はそういうキャラクターではなかったはずだ。

「自分は本当に、誘われない限り家にいるんで、それもあるんじゃないですかね。ホームシックならぬ、日本人、家族が恋しい状態で、それでズーンと気持ちが落ちていたりしたので、それでいろいろな所に連れて行ってくれたりしました。この前は、練習前に二人でキャッチボールをしましたね。龍一君は野球をしたいと言ってました。今は気持ちを上げてくれる存在がいるので、私は大丈夫です」

■世界のトップ選手入りを目指して

更に、将来の目標についても語ってもらった。

「やはりオリンピックに出たいな、という気持ちもあるんですが、その前に世界でトップ選手達と争えるように、完璧な演技を見せられるようになりたいです。トップの選手って失敗を失敗と見せないじゃないですか。そうなってくるとトップ選手達の仲間入り、と言えるんじゃないかと思います」

確かに世界のトップ選手は、ワンミスしてもあたかもパーフェクトのような雰囲気を出すのがうまい印象だ。

「私ミスしましたっけ?ってオーラがすごいんですよ。特にスイちゃん(中国のスイ・ハン組)とか。そうなりたいです」

木原選手は昨年、「コーチがやっていたような大技を自分もやりたい」と言っていたが、三浦選手は大技への思いはあるのだろうか。

「ははは(笑)。でも、興味はありますね、4回転。練習でもやったことはないです。トリプルアクセルは怖い、って聞いてたんで、ちょっと無理かなと。メーガンも『アクセルより4回転の方がやりやすい』と言ってました」

これはぜひ挑戦してもらいたいと伝えると、三浦選手らしい答えが返ってきた。

「もう、防具めっちゃ着けて頑張ります!(笑)」

■全日本選手権でのペア競技中止を受けて

このインタビュー、本来ならばもっと早期に掲載予定だったのだが、掲載直前に全日本選手権でのペア競技の中止が決まった。三浦選手の気持ちが落ち着くのを待って追加コメントをお願いし、メールで以下のコメントをもらうことができた。残念に思う気持ちがにじみ出ているが、一方で前向きに気持ちを切り替えて、世界選手権を見据えている様子もうかがえる。

「日本には練習環境はもちろん、ペア競技を教えてくださるコーチもおらず、また、1度帰ってしまうと何か月もの間、自主練をしなくてはいけなくなることや、少なくともコロナウイルスに感染するリスクを伴うため、日本スケート連盟にご相談したところ、ご配慮していただく形になりました。ペア競技は常に怪我と隣り合わせなので、第三者の目がないと本当に危険ですし、技の調整も難しくなってしまうので、今回このような判断となりました。四大陸以来久し振りにファンの皆様の前で演技をすることを、本当に楽しみにしていたのでとても残念ですが、もし私たちにとって初である世界選手権に選出していただけましたら、その舞台で今以上の成長、先シーズンとの差を感じていただきたいということを今のモチベーションに、頑張りたいと思います」

このインタビューを読んだ方々には共感していただけると思う。本当に、心から思う。早く彼らの演技を観たいものだ。

写真・文 中村康一 / Image Works

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