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子供の“理科離れ”はウソ?20年以上愛される『空想科学読本』の著者が語る「嫌いなのは理科の“教わり方”」

  • 2020年12月9日
  • Walkerplus

理科に対する子供の興味・関心・学力の低下、いわゆる「理科離れ」が叫ばれて久しい。そんななか、マンガやアニメ、ゲームなどの空想の世界を科学的に検証する「SF科学」の考察本『ジュニア空想科学読本』の最新刊が12月15日に発売される。そこで今回、20年以上にわたって愛読され、続編・関連書を含む累計発行部数が500 万部を超える『空想科学読本』シリーズの著者・柳田理科雄さんと、編集者の近藤隆史さん(空想科学研究所所長)にインタビューを実施し、子供の“理科離れ”は本当なのか?“ツマラナイ理科”が面白くなる秘訣はなんなのかを聞いた。

■実は『空想科学読本』を啓蒙したのは女子小学生!?「彼女たちに感謝」

――かつて大ヒットした『空想科学読本』が、最近では子供向けの「角川つばさ文庫」レーベルで刊行されて、とても人気があると聞きました。

【近藤】小中学生に好評みたいですね。「角川つばさ文庫」では『ジュニア空想科学読本』という書名で出しているのですが、2020年の12月15日には21巻目が出ます。こんなに長く続くとは思いませんでした。

――かつての『空想科学読本』を、子供向けに書き直しているのでしょうか?

【近藤】初期はそういう作り方をしていたのですが、少しずつ読者からの質問や要望に応えるようになってきて、いまでは大半が書き下ろしの原稿です。21巻では、『鬼滅の刃』の無限列車のエピソードや、「次にくるマンガ大賞 2020」を受賞した『アンデッドアンラック』を扱ったり……と、雑誌みたいなノリで作っていたりします。

【柳田】新型コロナの影響もあって、数十年ぶりに再放送された『未来少年コナン』を扱ったりね。

――1996年に出された『空想科学読本』は、子供向けではなかったです。それを『ジュニア空想科学読本』にされたのはなぜですか?

【近藤】柳田と僕は中学時代の同級生です。最初に出した『空想科学読本』は、「自分たちが子供のころから見てきた特撮番組やアニメを題材にしよう」という意図で作りました。

【柳田】『ウルトラマン』の「身長40メートルで体重3万5000トン」や、『マジンガーZ』の「光子力エネルギー」など、子供のころから気になっていた設定やエピソードがいっぱいありましたからね。

【近藤】最初のうちは、そういう「懐かしネタ」だけで何冊も本を作ることができたんだけど、巻を重ねるごとに “読者はがき”の年齢層がどんどん下がっていったんです。そして、はがきには「もっと新しい題材を扱ってください」と書いてある(笑)。それで、途中からは想定読者層を高校生、大学生くらいにして作っていったんですが、彼らに聞くと「小学校のときクラスでブームになった」とか「小学校の学級文庫に置いてあった」などと言うんです。そこまで若い層に読まれるのなら、ちゃんと小中学生向けの本を作ったほうがいいと思いました。

――そうやって作った『ジュニア空想科学読本』は、すぐにヒットしたのですか?

【近藤】定着には、少し時間がかかりました。というのは、児童書文庫の読者は女子のほうが多いんですね。自分の子供時代を思い出してもそうですが、小学4年生から5年生のころに熱心に本を読んでいるのはもっぱら女子で、男子は外で走り回っている(笑)。でも『空想科学読本』の読者は男子が多い。女子読者からのコメントに「この本は男子が喜ぶと思うので、私がクラスの男子に薦めます」というのも結構あって、おそらく彼女たちが啓蒙活動をしてくれて、少しずつ人気が出たのではないかと(笑)。彼女たちにはすごく感謝しています。

――『ジュニア空想科学読本』を書くにあたって、意識されていることがありますか?

【柳田】“科学的な正しさ”にこだわり過ぎないことですね。“誰から見ても科学的に批判されようのない文章”というのを書くと、それはもう科学の専門家にしかわからない話になってしまいます。

【近藤】いい加減なことは決して書きませんが、すべての前提や計算過程を細かく示すと、“正しいけど、わかりづらい”ことになってしまう。

【柳田】いちばん大事にしたいのは『ジュニア空想科学読本』を読んで「理科は楽しい」「科学は面白そうだ」と思ってもらうことです。かつて『空想科学読本』をキッカケに理系に進んだり、研究者になったり…という人はかなり多いんですが、『ジュニア空想科学読本』も同じように、理科の“楽しさ”を知ってもらう入り口になると嬉しいですね。

■子供から届いた質問は8000通!「子供は本の中身を楽しい記憶として定着させている」

――先ほど、『鬼滅の刃』など最近のヒット作の話も出ましたが、『ジュニア空想科学読本』では『マインクラフト』など子供に人気のゲームを扱ったりもしていますね。情報はどうやって入手しているのでしょうか?

【近藤】あちこちで質問を募集しています。「角川つばさ文庫」の編集部とか、空想科学研究所のHPやYouTubeとか……。期間限定で、教育系企業の「電子書籍読み放題」のサイトで質問を受けたりすることもあります。

――1日に何件くらい質問がくるのでしょうか。

【近藤】空想科学研究所のHPだけでも、1日に10件から20件くらい届きます。以前に「電子書籍読み放題」サイトで募集したときは、約8000の質問が来ました。もちろん、そのすべてを読みましたが、とても1日では無理で、「毎日1000ずつ読もう」みたいな日々でした(笑)。

――それだけたくさん質問が来れば、ネタ探しには困らない?

【近藤】それが、質問をもらってからが大変で…。まず、聞いたこともないマンガやアニメがいっぱいある。それらをネットで検索していくのですが、児童文庫で扱うには過激すぎる作品や、お色気の多すぎる作品も結構あって(笑)。1冊の本は原稿30本ほどで構成しますが、マンガやアニメやゲームのバランス、作品の新旧のバランスなども考えながら、科学的に検証できそうな題材を選んでいきます。そこから作品内の具体的なエピソードに行き着くのに、またかなり時間がかかります。

【柳田】たとえば『ONE PIECE』についての質問でも、子供たちは「何巻の何ページ」とまでは書いてくれませんからね。質問の内容から推測して「あのキャラがそういうことをするとしたら、この話のこのあたりだろう」と思って40巻から読んでいくけど、そこから30冊読んでも見つからない。実は15巻のエピソードでした…なんてことはよくあります。

――巻数の多いマンガとかだと大変ですね。

【柳田】実際にあった例でいうと、『NARUTO -ナルト-』への質問で、「ナルトが大量出血しました、大丈夫ですか?」っていう内容の質問が来たんです。「ナルトって大量出血するようなシーンってあったかなぁ?」と思いながら、最初からずーっと読むんだけど、全然出てこない。それでよくよく調べてみたら、いちばんの大量出血っていうと、イルカ先生がナルトの「お色気の術」で鼻血を出すシーンなんですね。

――ああ!滝のように出していますね (笑)。

【柳田】たぶん、記憶のなかで、あのシーンとごっちゃになったのだと思います。ナルトじゃなかったんですね、大量出血してるのは。

【近藤】さんざん調べた結果、「質問に書いてあったシーンはありませんでした」ってことも割とあります(笑)。子供たちは、曖昧な記憶と印象で質問を送ってくるんですね。

――楽しかった記憶を補完して、より面白くしちゃっているケースもありそうですね。

【柳田】でもそれは決して悪いことではなく、そもそも記憶、思い出っていうのはそういうものなんですよ。子供たちが作品からインスピレーションを得て、空想を広げてより楽しい記憶として定着させている。そんな自由な発想は、むしろ伸ばしてあげたいですね。

■アニメやゲームなど“物語の世界”は「理科は面白そう」と思えるきっかけになる

――日本では「理科離れ」が深刻だと言われています。でも、『ジュニア空想科学読本』は子供にしっかりと読まれているし、多くの質問が寄せられていると聞くと、「子供は理科が嫌い」というわけではなさそうな気がしますね。

【柳田】そのとおりだと思います。「理科離れ」「理科嫌い」というけど、決して理科の中身が嫌いなわけじゃないんです。講演会などで理科の実験をやることも多いのですが、どの地域でも、子供たちは目を輝かせて食いついてくるし、「この実験やってみたい人」って言うと、ほぼ全員が手を挙げます。みんな理科には興味がある。嫌いなのは、理科の“教わり方”なんです。教科書に書いてあることを教わって、「さあ、わかりましたか?」と覚えさせられ、その後どれだけ覚えたかテストされる。これでは、せっかくの好奇心がツブされてしまう。

――自分の好きなアニメやゲームが、理科を使えばより面白く感じられることを実感できると、理科に興味が沸くでしょうね。そういう視点を、学校の授業にも取り入れられるといいのでしょうが…。

【近藤】僕らもずっとそう考えてきました。それで、今年「STEAM空想科学教室」というオンライン授業を何度かやってみました。グリム童話の『ラプンツェル』を題材に、子供たちに「気になる疑問」を挙げてもらい、それらを科学的に検証した結果、物語が変わっていく…というものです。

【柳田】たとえば「ラプンツェルの髪は長いけど、伸ばすのに時間がかかったのでは?」という疑問から、髪の伸びる速さと時間を計算してみる。すると、80年くらいかかった可能性があり、だったらラプンツェルはお婆さんだったかも、という話になって…。

――ははは。それは、まさに『空想科学読本』そのものですね。

【近藤】そうです。『空想科学読本』をそのまま授業にすることで、「理科は面白そう」と実感してもらいたい。もっといえば、文系や理系の垣根を超えて、「身近な世界に疑問を抱き、自分で考える」ことの面白さを伝えたい。この企画は、経済産業省の「未来の教室」という事業の一つに採択されました。

【柳田】オンライン授業を何度かやってみた印象でいえば、子供たちの発想はとても豊かです。授業の後半では「塔に閉じ込められたラプンツェルを救うにはどうすればいいんだろう?」という問題をみんなで考えるんだけど、「髪の毛でバンジージャンプする」や「塔の横に穴を掘り、水を満たして飛び降りる」など、次々にアイデアが出る。僕は「髪の強度はバンジージャンプに耐えられる?」とか「どれだけの水量なら大丈夫だろう?」といった理科の視点を示しながら、子供たちといっしょに計算していく、という感じです。

――頭を使うことが面白く感じられそうな気がします。

【柳田】参加した子供たちにとっても、刺激があって、面白いようです。日本中の学校や学習塾などで、この授業が行われるようになってほしいですね。

――『空想科学読本』が20年以上にわたって愛され続ける理由がわかってきました。

【近藤】マンガやアニメは、とても身近な世界です。現実の世界より、身近に感じることさえ、ありますよね。それだけに、その世界に対する疑問は、突っ込みの部分も含めて、誰もが抱いたことがある体験でしょう。『空想科学読本』がこれほど長く愛されてきたのは、そんな“共通体験”がベースにあるのだと思います。

【柳田】そんな体験に、あの“ツマラナイ理科”を用いると、世界がぐんと広がるというオドロキもある。

【近藤】アニメやゲームなど“物語の世界”は、「理科は面白そう」と思えるきっかけになります。生物を観察したり、器材を使って実験したり……というのも大切だけど、マンガやアニメやゲームは、それと同じくらい豊かで深い“理科の入り口”です。

取材協力:柳田理科雄、近藤隆史

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