
太さ約7㎜、芯約4㎜の硬筆書写用鉛筆を使用し、デザインナイフやカッター、ヤスリ、針などを駆使して「鉛筆彫刻」を作り上げる、新潟県在住の鉛筆彫刻人のシロイさん。緻密で精巧な作品の数々がInstagramをはじめSNSで話題だ。鉛筆彫刻を始めたきっかけや、作品に対する思いに迫ってみた。
■偶然テレビで見た鉛筆彫刻に感動したのが始まり
偶然テレビで見た鉛筆彫刻に感動したというシロイさん。
「『文字を書く鉛筆自体で文字を形作ることができるなんて!』『鉛筆の芯なんて簡単に折れてしまうはずなのにどうして折れてないんだ!?』って、頭の中に凄いイナズマが走ったんです」と、当時受けた衝撃を語る。
そこから自分でもやってみたいと思い、カッターとナイフを引っ張り出し、鉛筆を削り出したのがスタート。「鉛筆彫刻」という存在を知ってもらうため5、6年前からInstagramに投稿し、続いてTwitterも始めフォロワー数を増やしていった。
■フォロワーからのコメントが創作の原動力
「SNSの反響は思った以上にありましたね」と語るシロイさん。
「『鉛筆彫刻を初めて見ました』という人が多く、知ってもらうために始めたので、とてもうれしかったですね。それ以上に原動力になったのが『これからも新作を楽しみにしています』というフォロワーの方たちからのコメント。作る者として本当にパワーがもらえ、モチベーションが上がります」
そして、制作や展示依頼、テレビ出演など、SNSの影響力の大きさを実感したという。
だが、一部のコメントに落ち込んだこともあったそう。
「以前SNSにアルファベットの『A~Z』彫刻の動画を掲載していただいたことがあったのですが、『鉛筆がもったいない』『資源の無駄』と書き込みがありました。かなり落ち込んで、そのことをTwitterでつぶやいたら、逆に『無駄じゃない!』『これは芸術だ!』と励ましのコメントをいただけました」
結果としてフォロワー数は倍増し、「#鉛筆彫刻を支持します」というタグを作る支援者も現れた。鉛筆彫刻に対してさまざまな意見もあるが、多くの人に「アート・芸術」と認識されたことが自信になったという。
■恐怖と緊張を乗り越えた代表作『ペンシルチェーン40』
Instagramでは300以上の鉛筆彫刻を投稿。その中でも一番難度が高かったのが『ペンシルチェーン40』。
「とにかく同じ作業の繰り返しなのですが、1つ間違えると今までの積み重ねがゼロとなってしまう恐怖心との闘いでしたね。特に30~40個の間は緊張感で手が震えました。技術的にも精神的にも難しかった作品です」
芯の表面を照らす光沢に、根を詰めた丹念な作業の想像が付く。さらに調和のとれた美しさに、神が降りたかのような超絶技巧を感じることができる。恐怖と緊張を乗り越え、技が集結した代表作だ。
■さらに腕を上げ作品を作り続けたい
今まで多彩な作品を作成し、中には企業からの依頼もあるが、「今度は個人向けにも作ることができれば」と今後の展望を話す。
「『鉛筆彫刻、そういうのもあるのか』と心の片隅に置いていただければうれしいです。これまではひたすら自分の腕を上げることばかりを考えていましたが、これからは皆さまに楽しんでいただけるような作品作りもしていきたいと思っています。ぜひSNSをチェックしてくださいね」
取材・文=下八重順子