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Vol.5 井場綾子さん
オーガニックコットンから見えるもの

  • 2006年4月1日

Vol.5 オーガニックコットンから見えるもの

井場綾子(いば あやこ)さん

井場綾子(いば あやこ)さん

 とにかく洋服が大好き。専門学校在学中から、フィッティングモデル、インディーズブランドのデザイナー、クラブスタップなど様々な職を経験。「自分が作った服を通じて人と関わる楽しさ」に目覚め、4年前、オーガニックコットンを専門に扱う企業が主催するデザインコンテストに参加したことから、オーガニックコットンの魅力に取り憑かれる。2005年9月、表参道でエコロジー&オーガニックをコンセプトにしたショップ「Zion」をオープン。自らデザインしたオーガニックコットン素材のオリジナル服や小物を展開。リメイク、直しのみもOKのうれしいサービスでリピーターも多い。

「服を大切に着る」ということ…

 大手アパレルメーカーのファミリーセールに行ったことがある。東京ドームがすっぽり入るほどの敷地に、所狭しと服やバッグ、靴が並び、通路という通路が人で溢れ返っている。お目当てのブランドを探し、次々と商品を手に取ってはワゴンに戻す。それをまた誰かが広げては戻す。売り場は騒然としていて、まるで戦場だ。

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 気に入ったものが見つかると、試着室で黙々とサイズを確認。返品できないセール品に失敗は許されないから、みんな真剣だ。レジに並ぶ人たちが持つ大きな買い物バッグが、無秩序に服ではちきれているのを見たとき、なぜだか見てはいけないものを見たときのようなバツの悪さを覚えた。そこは、作り手の存在や服の背景にある物語、売る側とのコミュニケーションが完全に失われた世界。「服を買うって、こんなことだっけ?」
 個人でオーガニックコットンの服を作り、販売もしているLOHASなお店と聞いて訪れたのが、表参道にある井場綾子さんのお店Zion(ザイオン)だ。環境にやさしい素材を使っているというだけでなく、「服を大切に着る」ということを大事にする井場さんの思いが、このお店を魅力的にしていることがすぐに分かった。素材やデザインにこだわるだけではない、作った服を通して生まれるコミュニケーションや、服を長く気持ちよく着ることを楽しめる雰囲気が、Zionで服を買う体験をとても楽しいものにしてくれている。

オーガニックコットンの魅力に取り憑かれる

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 昔から洋服が大好きで、「いつか自分の店を持ちたい」と考えていた井場さん。4年前、あるデザインコンテストで、初めてオーガニックコットンに出会った。それは、オーガニックコットン服の日本におけるパイオニア・アバンティが主催するコンテスト。同社の渡辺智恵子社長から、地平線まで広がる無農薬有機栽培のコットン畑の話、素材としてのオーガニックコットンの可能性を聞き、井場さんは「これだ!」と確信した。大好きな洋服を、長く、大切に着てもらいたい。生産段階からその思いが込められているオーガニックコットンは、井場さんの思いとぴったり重なるものだった。

地球上最大の環境汚染…コットンの生産現場

 通常のコットンは、土作りから除草、病害虫予防に化学肥料、農薬を大量に必要する上、収穫期には、枯れ葉剤で葉を落とすため、周辺の環境や生産者の健康へのダメージは深刻だ。10年前、全コットン製品のオーガニック化を果たした米パタゴニア社によると、「米国の農薬使用量の10%が、農地全体の1%にすぎないコットン栽培に使われていました。カリフォルニア州の6つの郡だけで、一般的な栽培法によるコットンに、毎年26,000トンの農薬が使用されます。さらに調査から、広範囲に集中的に使用している化学肥料、土壌調整剤、枯れ葉剤、その他の化学物質が、土や水、空気を汚染し、数多くの生物に対して多大な害を及ぼしていることがわかった」のだという。

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 では、オーガニックコットンとはどんなものだろう。日本オーガニックコットン協会(JAVOC)の定義によると、「3年間、農薬や化学肥料を使わないで栽培された農地で、農薬や化学肥料を使わないで生産された綿花のこと」。つまり、化学肥料や農薬を使っていない土壌で、化学肥料の代わりに有機肥料を、農薬の代わりにてんとう虫を使用し、枯れ葉剤の代わりに葉が自然に落ちるのを待って収穫するコットンのことだ。これは、作り手の、エコシステムへの深い理解、それを利用する経験と技術、そしてなにより熱意がなければとても成り立たない栽培法で、オーガニックコットンの価値を理解して市場を支える、成熟した消費者あっての製法と言われている。かかるコストは2割増しとも3割増しとも言われるが、それと引き換えに消費者が手に入れるのは、人と環境に配慮した”持続可能なコットン”と、作り手と消費者とのパートナーシップだ。工業製品化した洋服の現場が失ってしまった密接なコミュニケーションがここにはある。
 井場さんがデザインしたオーガニックコットンの服を見せてもらった。染色や漂白をしない、コットン本来のやさしい風合いが映える、とてもシンプルだけれど無駄がなく美しいデザイン。ジャケットやトレンチコート、ワンピースなどのアウターをオーガニックコットンで作るのはまだ珍しい。人気なのはトレンチコート。何も知らずに通りがかった女の子が、話を聞きながら、気に入って買っていってくれることも多い。妊娠中の女性が、マタニティドレスをオーダーしてくれたこともある。

リサイクルより、リユースやリデュースがLOHAS

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 Zionは、“衣生活における洋服の循環”を掲げる通り、古着の買取り、リメイク、直しだけの利用も歓迎している。捨てるしかなかった服でも、少し手を入れるだけで甦るし、ベビー服やペット服に生まれ変わることもある。「使い捨てのセール品を見てきた自分だからできるんです」と、井場さんは言う。いい服を、長く、直しながら、愛着を持って着てほしい。そんな思いを込めて作られた彼女の服も、それを着るお客さんも幸せだと記者は思った。一度、「大切に着る」ことを覚えたお客さんは、きっとその後の服との付き合い方も変わるに違いない。そこから、インテリアや食べ物の選び方だって変わるかもしれない。
 うーん、お客さんのライフスタイルを変えるきっかけを与えてくれるなんて、すごい! 次のシーズンには着られなくなるかもしれないセール品を、ぎゅうぎゅうに袋に詰めているより、こんなお店と出会う方がずっと暮らしを豊かにしてくれるんじゃないだろうか。オーガニックコットンから見えてきたのは、当たり前であたたかい、服と人との付き合い方。これが、Zion流の飾らないLOHASの姿だった。

■ Zion(ザイオン)
 150-0001 東京都渋谷区神宮前4-25-3
 TEL: 03-3403-1334 営業時間:10:30〜21:00

■ ライター紹介
川良 麗子(かわら・れいこ) 

Profile

NPOローハスクラブ、ライター。東京都出身。大学卒業直後に発生した新潟県中越地震で、災害ボランティアとして100日間被災地で活動。地元の経済復興プロジェクトに参加する。その後、食・農業分野の専門出版社に就職。東北から九州の農村を駆け回る。退職後、オーガニック専門誌「オーガニック電話帳」の編集、WEB制作を経験。2006年より、NPOローハスクラブ監修「緑のgoo〜LOHAS」の取材活動のかたわら、「LOHASトレンドが生む地域活性」を仕事にするべく活動中。

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