『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子
人気イラストレーター・すやすや子さんによる、初の創作コミック『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』。主人公は、9歳の娘ミレイ、生まれてすぐの息子、夫と4人で暮らすサヤカです。日々、家族との写真をSNSにアップしている彼女は、SNSで「幸せな家庭」を演じることで心の均衡を保っていたのです…。
幸せアピールがやめられないサヤカは、マンションの上階に越してきたママ友と親同士として交流を深めるが、お互いの胸の内には複雑な感情が渦巻いていました…。
自身も育児中で、ママ友との交流もあるという作者のすやすや子さんに本作誕生のきっかけをインタビューしました。
まずはあらすじをご紹介します。
あらすじ
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
主婦のサヤカは、美人でおしゃれ。娘ミレイ、生まれたばかりの長男のママです。自分のSNSに「絵に描いたような素敵な家族」の写真をアップし、承認欲求を満たしています。
その行動の裏には、壮絶な過去のトラウマがありました。
不仲な親のもとで不遇な幼少期を送った経験から、「周りからうらやましいと思われるような家庭を作る」ことに執着していたのです。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
そんなある日、サヤカたちの上階に新しい入居者がやってきます。
入居者はエミとその夫、娘リコの3人家族でした。リコが、サヤカの娘ミレイと同級生だったことから、エミとサヤカの交流が始まりました。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
サヤカは息子の世話で疲れ、娘を放置しがちだったため、リコの家にミレイが遊びに行くようになるまで、時間はかかりませんでした。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
自分は幸せだと言い聞かせるサヤカは、実はワンオペ育児のストレスと、不仲の夫ケイタへの怒りを抱えながら日々を送っていました。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
隠れて浮気三昧のケイタへは怒り心頭でしたが、幸せな家庭にこだわるあまり、日常をなんとか平穏につくろうことに必死だったのです。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
しかし、いつしかサヤカの夫への怒りは限界を迎えていました。
ささいな口論がきっかけで、サヤカ夫婦は怒鳴り合いのケンカを始めてしまいます。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
それを黙ってやりすごす娘ミレイ。その姿は、かつてのサヤカそのものでした。
耐えきれず家を飛び出したミレイに声をかけてくれたのは、リコの母親エミでした。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
エミはミレイを自宅に誘います。身なりに構われていないミレイを不憫に思って髪を結んだり、自分のもう一人の娘のように接します。
そしてその日の帰宅時、ミレイを思うあまり、サヤカに対し苦言を呈してしまったのです。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
「もっとミレイちゃんのこと考えてあげてください」
優しいエミの言葉は、サヤカの自尊心を傷つけるのには十分でした。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
サヤカの怒りは、娘のミレイに向かいます。
エミの家に行くことを禁じられたミレイ。
母親の言いつけに不満を感じつつも、まだ小学生の彼女には母親の言うことを聞くしかなすすべはありませんでした。
少しずつ崩れていくサヤカとエミの関係。それに巻き込まれてしまった娘ミレイは、幸せになれるのでしょうか。
インタビュー
――SNSでの幸せそうな写真にこだわったり、ママ友の何気ない一言に対し「マウントかよ」と発する主人公のサヤカ。その性格はどのようにでき上ったと思いますか?
すやすや子さん:サヤカは自分の実家や生い立ちに強いコンプレックスを抱えており、周りから可哀想と思われたり、下に見られることがなにより嫌いなのもあり、他人からのマウントに敏感に反応してしまうような性格になったかと思われます。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
――幼少期のトラウマから、サヤカは幸せな家庭であることに固執しているようにも思えます。しかし、夫の不倫がバレたり、下の子が育てにくかったり…、思い通りにいかない日常のなかで、サヤカはどんな心理状態になっていったのでしょうか?
すやすや子さん: 周りから見下されたくない、せめてSNSの中では幸せな自分でいたいと思う心理だと思います。
――服装に無頓着なママ友の洋服を必要以上にほめたり、「私のほうが太っている」と謙遜しながらマウントを取るといった印象的な場面が満載でしたね。こうしたエピソードは、どのようにして生み出されたのでしょうか?
すやすや子さん: 実際はこんな感じのわかりにくいマウントをしてる方の方が多いのではないかと想像しながら描きました。
『私はあのママ友より幸せだと思っていたのに』より / (C)すやすや子/KADOKAWA
――サヤカとエミとの仲がこじれたことで、サヤカの子・ミレイは、エミの子どもと遊べなくなってしまいます。親同士のもめごとに巻き込まれる子どもを描くにあたって、難しかった点、苦労した点はありますか?
すやすや子さん:子供に非はないということがちゃんと読者さんに伝わるように描くにはどうしたらいいかと考えながら描きました。
――ママ友同士のマウントや夫婦の不和、不妊など、デリケートなテーマを扱っている本作。読者が共感しやすいように、ストーリー展開やキャラクター設定で工夫した点はありますか?
すやすや子さん:実際に起こりそうな出来事だなと思ってもらえるように、ドロドロし過すぎず、程よく淡々とした感じのストーリになるよう工夫しました。
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子育て中で自分のことに構っていられず、SNSでキラキラしたママたちを見てモヤモヤ。そんな気持ちを抱えたことがある方は、ぜひこの作品に触れてみてください。SNS上の「幸せな家庭」の裏側には、誰もが抱える苦悩や葛藤が隠されているのかもしれません。この作品は、そんな現代社会のリアルを映し出しています。
取材・文=山上由利子