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Vol.7 食について

  • 2008年10月9日

 みなさん、こんにちは。北山陽一です。

 すっかり秋めいてきたことでもあるし、今回からの何回かは“食べる”ということに関する話題について書いてみたいと思います。じつは僕は現在、食事制限を続けているんですが、その話をするとたいていの人は「大変ですね」とか「ストイックですね」といった感じの反応を示します。でも、僕自身は何かの修業や禁欲的な生活を目指して、食事制限をしているわけではありません。簡単に言えば、“歌手としての自分のポテンシャルを高めたいから”ということになるわけですが、食事制限を続けていく過程で人間の体について多くのことを知るようになったし、“食”ということについてもいろいろと考えるようになりました。そのこと自体を僕は面白がっているわけで、この連載を読んでくれるみなさんにもその一端を紹介しよう、というわけです。

 まず、僕が食事制限を始めるきっかけになったのは、1999年11月にゴスペラーズがレコーディングのプロデューサーを探しにアトランタへ行ったときのひとつの出会いです。現地で評価の高いボイス・トレーナーのレッスンを受け、そのなかで「自分が元々持っている声に戻すため食事に気をつける」ということを提案されたんです。そのトレーナーが言うには、ノドに良くないものを食べていることによって、ノドが弱くなったり、本来の声とは違うものになっていたりする、と。それを、元々持っているノドに近づけるために私が言うものを3ヵ月間食べないでおきなさい、という話なんです。

 そのときに禁止されたのが、酒、タバコ、カフェイン、乳製品、それに4つ足の動物の肉です。ということは、食べられるのは野菜、魚、それに鳥ということで、これはけっこう厳しいんですよ。それに、それを言われたのが11月でしたから、そこから3ヵ月というと年始年末の宴会シーズンという最も辛い時期ではあったんですが(笑)、とりあえずみんなでやってみよう、ということでゴスペラーズのメンバー5人とも3ヵ月間はがんばりました。その最初のところで5人いっしょにやってなかったら、僕もここまで続けることはできなかったと思うんですが、お互いにいろいろ励まし合いながら…(笑)、たとえばお酒を飲めないのを隠すために徳利にお湯を入れてもらってお猪口で飲んでみたりもしながら、なんとか3ヵ月過ごしました。

 で、ちょうどその頃にアカペラのライブがあって、PAエンジニアいわく「声の具合が以前とは全然違う」と。それで僕は、自分の実感も考え合わせて、さらに続けようと決めました。他のメンバーは、子どもの頃からずっと歌ってるし、自分のノドとの向き合い方もよくわかってるからそれぞれの流儀があったわけですが、僕は歌い始めたのが94年で、そこからの5年間はほとんどベース・ボーカルばかりやっていたし、歌手としてステップアップするためにはこれはひとつのチャンスかなと思ったんです。

 そこからの約3年はかなり厳しくやりました。トレーナーの話では、声帯というのは筋肉だから、乳酸がたまりにくい、もしくはたまったら排除しやすい質の筋肉を作らなきゃいけない、と。つまり、アスリートと同じなんだっていう。で、その求められる質にするための食事なんだという説明だったんですが、続けていくうちにだんだん自分なりにも考えるようにもなっていきました。

特に03年、04年頃になってくるとテナー、つまりベースよりも高い音域も歌うようになってきて、これまで以上に楽器としての自分と向き合わなきゃいけなくなってきたということもあり、人間の体について、声帯について、それに食べ物と人間の関係について、いろいろ調べ始めたわけです。それでわかったのは、声帯というのは体の中でかなり優先順位が低い筋肉であるということです。

 たとえば、体の中の水分が足りなくなってきたらまず声帯から無くなる、みたいなことで、つまり声帯は大事なものではあるが生命のために必要不可欠というものでもないということですね。だから、普通のアスリートとは別の意味で特殊な気の使い方をしないと維持がむずかしい筋肉なんです。

 僕は、その維持のための方法として東洋医学や漢方、ハーブ療法などにも興味が向いて、いろいろ勉強し、またいろいろ実験していきました。その過程では、ちょっと体調が崩れていた時期もあったんですが、友だちの栄養士などにアドバイスをもらいながら試行錯誤していくなかで、だんだん自分の体と対話できるようになっていったんです。そして、ひとつのブレイクスルーに行き当たるわけですが、この続きはまた次回。


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