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Vol.61 社会起業について考える。でも、その前にちょっと…

  • 2010年11月18日

 

 みなさん、こんにちは。全国ツアーが始まったばかりのゴスペラーズ、北山陽一です。

 前回は、僕が考えている音楽と社会貢献を結びつけるプロジェクトの構想についてお話しましたが、それを受けてこの連載のスタッフから「北山さんの後輩もがんばっているようですよ」と、1冊の本を紹介されました。この連載のVOL.2223で取り上げた、僕の大学の後輩たちが中心になって進めている「カタリバ」というNPOの取り組みをレポートした『「カタリバ」という授業』です。うん、確かにがんばっている。本当に素晴らしい。勝手に先輩風を吹かせている僕としては嬉しい限りです。面白いなと思ったのは、この本のサブタイトルにも“社会起業家と学生が生み出す〜”とあるように、僕の後輩たちは社会起業家として認識されているということです。プロジェクトを始めた時点での彼らの意識のなかに「これは社会起業だ」という感覚があったのか今度是非聞いてみたいですが、彼らの取り組みはそういうふうに呼ばれて全然不思議じゃないし、そもそも社会起業と位置づけられることは一定の評価です。結果としてそのように評価されるのはひとつの理想像だと思います。僕自身起業しようとして、でも全然進まなくて、いろいろと難しいなと思っているところだったので、とても興味深く思ったわけです。

 というわけで、今回は社会起業について考えてみたいと思ったんですが、そこでまず先にひとつ触れておきたいのは僕がここ数年ずっと違和感を感じている社会の有り様の変化についてです。

宇宙×囲碁  宇宙のことにすごく興味があるんだけれど、周りに話題を共有できる仲間がいないし、新しい知識を与えてくれるような存在もいない、というKさん(仮名:36歳)の話をしましょう。Kさんは近くに住んでいる囲碁好きのYさん(仮名:36歳)に、機を見てそれとなく宇宙の神秘について語ってみました。するとYさんは「それって囲碁に通じるものがあるなあ」と言いました。二人はお互いに、宇宙と囲碁について教えあうことにしました。視点が違うことでの発見も多く、二人ともそれぞれ新しい興味を得て、趣味がさらに充実しました。

 さあ、この例え話。ちょっとポジティブすぎる感じもしますが、それより、時代が古い感じがしませんか?そうです、インターネットです。インターネットが発達したおかげで、自分と同じ興味を持った人を簡単に、もっと言えば「自分を拡張する」ということをしなくても、みつけられるようになりました。もともと興味のなかった囲碁を覚えたり、宇宙について勉強したりすることなく自分自身の興味に即時的に共感できる人があっという間に現れるのです。それは、一見すると同好の士が集まりやすくなって、人間の結びつきが進みやすくなっているように見えますが、実のところは社会の分離というか分裂が進んでいると捉えるべきなんじゃないかと僕は考えているんです。程度の差こそあれ、精神的なつながりを求める対象が基本物理的に自分の周りにいる人に限られていた時代は、余程幸運でない限り環境に自分を適応させる、つまり身近な人の興味や嗜好を受け入れる努力をしないと仲間を増やすことは難しかったんだと思うんです。言い換えると、今の自分が興味を持てないことに興味をもつきっかけがゴロゴロ転がっていた、ということです。でも今は、今自分の興味あることだけで十分過ぎるほどの仲間がすでにいるし、ひとつの細分化された分野だけで一生かけても読みきれないほどの情報が新聞雑誌や身近な数人だけでは到底到達できない深さで存在しているわけです。自分と違う誰かの趣味や嗜好を受け入れている場合ではない時代、と言えるのかもしれません。それが、いいことなのか、悪いことなのかは、僕にはわかりません。ただ、大きな違和感を感じてしまいます。

 ここで、話は社会起業に戻るわけですが、社会起業について考える、すなわち「社会のため」という動機がどういうところに向かうべきなのかを考える場合に、僕のいう「分裂」状況を踏まえると、そもそもの社会自体が変容しているということになります。従来は物理的に身近にいる人が精神的にも身近だったわけですが、いまはそうとは限らない、精神的には身近でも物理的にはすごく隔たっているということが大いに可能なわけですから。

 そういう変容した社会のために何をするのかを考えようとすれば、そもそものところから考え方を変えないといけないのは明らかでしょう。そこで、「カタリバ」という切り口をあらためて考えてみると、まさに現代の状況の間隙を突いているなあというふうに思うわけです。

 次回もさらに社会起業について考えます。

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