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Vol.41 きこえる・シンポジウム 2013 夏 その3

  • 2013年8月22日

 前回に続き、「きこえる・シンポジウム 2013 夏 in senkiya」のトークの後半から、イベントの締めくくりまでをレポートします。トークは作家さんのものづくりのお話から、国産の木材が抱える様々な問題点にまで話が及びました。

宮薗さん(宮薗スプーン):もともと私は、湊さんの木工教室に通っていました。スプーンを作ったり、丸いものを作るのは得意なんですが、まっすぐのものを作るということがすごく弱くてですね、どうにかしたいな、と思っているときに湊さんに出会いました。実は今も通い続けているんですけども、、、。ダメな生徒です(笑)。

湊さん(ミナトファニチャー):スプーンづくりはすごく速いんですけど。

Quinka:今日のワークショップのスプーンも、1時間で作っちゃったんですよ。慣れている人でも3時間くらいかかるのに。でも今日は宮薗さんにつられたのか、皆さん速かったですね。

湊さん:彼女は曲面はこんなに凄いのに、平面になるとダメですね。カンナで削って木材を真っ平にするんですが、進みがホントに遅くて(笑)。

Quinka:今回、宮薗さんが展示されているのは?

宮薗さん:手彫りで一本一本削ったものになりますね。大学に入る前、途絶えてしまう伝統工芸のドキュメンタリーを偶然テレビで見たのがきっかけで、もし出来るなら自分もやってみたいな、と。そこからものづくりにすごく興味を持って、今に至るんですけど。

写真撮影:budori 秋本翼さん
写真撮影:budori 秋本翼さん

HARCO:でもスプーンは大部分が自己流とか?ひたすら自分に向かって彫っているという、危険な噂もありますが(笑)。

宮薗さん:基本スタイルとしてあぐらをかいて、そのあぐらのなかで削っているので、ちょっと離れたところから見るとあの人何やってるんだろう、と思うかも。あまり人と並んで作ったことがないんですよ。

HARCO:ワークショップのスプーンはKINOさんのキットなので、東京のスギですよね。仕上げまで終わらなかった人も多いと思いますが、持ち帰った場合どうすればいいんですか。

松本さん(KINO):蜜蝋を自宅で塗って仕上げてもらう形です。口に入っても大丈夫な天然素材のもので作ってある蜜蝋なんです。オリーブオイルでもいいんですよ。

HARCO:今日展示してある宮薗さんの作品の仕上げは?

宮薗さん:皆さんこれ、見てください。絵の具のチューブに見えると思いますが、実は漆なんです。まだ空けてない新品です(笑)。

Quinka:漆というと、ちょっと触るだけで全身かゆーくなると聞きますよ。

宮薗さん:私も学生時代に一度、洗礼を受けました。気付いたら頭の先から足の先まで、まっ赤っかになっちゃって。

Quinka:木に漆を塗ることによって、どんな効果があるんですか?

宮薗さん:漆というものは、時間が経つにしたがって中で固まっていくという性質がありまして、素材を強く、長持ちさせてくれるんですね。使って拭いてを繰り返して、日常使いをしてもらった方が、より艶が増すという性質があります。いっぱい使ってもらった方が、テッカテカのピッカピカになります。私はその育てていく感じが好きで、漆を使っています。

HARCO:さて、最後にKINOさん。正式にはKINO TOKYO TREE PROJECTという名前ですよね。

松本さん:はい、東京の山の木をうちは使っています。湊さんも仰っていましたが、植えたままでまったく使われていない木も、本当に山にたくさん残っていて、ぎゅうぎゅうな状態なんですよね。全国のどこでも、そんな現象になっています。木で家を建てる人が以前より少なくなっているんですね。鉄筋で建っている家が多いので、かなり需要は落ちています。たとえばDIYで古民家に手を入れたり、古材を使って家具にするというのは流行っていて、私も実際に好きなんですけど、、、。やはり昔から製材所や森で働いている人は、新築で家を建てるために製材している人が多かったり、そのために木を育てている方が多いので、木を使う機会は少なくなっているといえます。

HARCO:なるほど。ほかになにか、山に関する問題点はありますか?

松本さん:かつて大量に植林されたスギが花粉症の問題になっているということで、とくに東京はバーッと伐採していて、なかなか間伐できていなくて。それで小径木の木が、市場にたくさん残っているんですよね。

HARCO:伐採?

松本さん:そうなんですよ、伐採というのは、間伐ではなくて、ごっそり切ってしまうことを意味していて。

Quinka:昔から禿げ山と言ったりしますよね。

松本さん:そうです。今は代わりに花粉が出ない杉を植えてるんですけど、伐採で切った木をどうするのか、これから植えていく木をやがてどうするのか、というのもあまり決まってないんですよ。

写真撮影:budori 秋本翼さん
写真撮影:budori 秋本翼さん

HARCO:とくに東京は花粉対策を都の政策としてすすんでやっていますよね、人口もダントツで多いし。ところで、無闇に伐採したら、切っていい時期と切っていけない時期とかあるんじゃないですか。

松本さん:そうなんです、製材所には使わないで残っていた木にたくさん虫が付いて、「このままだと使えないよ」という話だとか。

HARCO:できるだけ間伐材や無垢の木を使えたらいいですね。

松本さん:でも漆と一緒で、とくに無垢の木は高くてみんな尻込みしちゃうんですよ。それに比べて海外の木が安いのは、平たい土地が多いので、運搬が楽というのが大きいそうです。そういうところで運んで製材してっていうのに比べて、日本という山が多い島国で、木を植えて育てて山から下ろしてという一連の作業は、凄く大変なんですよね。

湊さん:大変です。僕は山のなかに入っていろいろと見させていただく機会があるんですが、何が大変かって、間伐よりも道を切り開くこと。経験のある人でも大きな岩に当たることなどがあるみたいで。

松本さん:私は山に入って、皮むき間伐というものを体験したことがあります。木の皮を下からビヤーッと剥くんですよ。そうすると立ち枯らしといって、そのまま枯れていって、水分がなくなるから軽い木になって運びやすくなる。HARCOさんもその皮むき間伐に行ったことがあるんですよね。

写真撮影:budori 秋本翼さん
写真撮影:budori 秋本翼さん/写真左から:松本さん、HARCO、Quinka

HARCO:3年前くらい。普通のスギの木を倒すと地響きとともに、「ドシーン!」ってなりますよね。でも皮むき間伐の杉の木を倒したら、地響きはするけれど音は「ドファ〜ン」みたいな(笑)。要するに軽くなった分、スギの幹のなかに空気が入ってるので音が反響し合い、不思議な響きになって。でもそんなことに反応していたのは僕だけでしたね(笑)、なにしろ普段から音に敏感なので。とにかくそのときの体験で、間伐に対してすごく勉強になりました。

松本さん:「どうして山の人たちは木を育てているのか」という情報や、「木を使ってください」という想いが、普段生活していると伝わってこなくて、、、。それをちゃんと伝えようと言う気持ちで、KINOとしてスプーンを作っています。たとえば作家さんひとりひとりが、塗装に関するこだわりや素材の自然さもそうですけど、やはりどんな想いで作ってるのかということも、皆さんにお話しながら、ワークショップを続けています。普段はうちの会社(budori)で、いろんな作家さんを呼んだり、製材所のおじちゃんを呼んだりもしています。

HARCO:作品に選んでいる木の種類だけじゃなくて、その先にはこれから森のために、という想いがあって、今回のこのメンバーが必然的に出会えたというのは、きっとありますよね。

Qunika:日本は自然を身近な神様として崇めるみたいな気持ちが昔からあると思うんですけど、集まってくれた皆さんも含めて、山の神様が繋げてくれたような、そんなことも強く感じました。

 8人で囲んだトークはここで終了し、最後はHARQUAのライブです。僕たちそれぞれのソロ楽曲や、HARQUAとしての新曲「私だけの木とツバメの手紙」も披露しました。ワークショップに参加した方々が、自ら制作した木琴やカスタネット、スプーンを使って僕たちの演奏にも参加してもらうコーナーもあり、陽が暮れていくのに逆行するように、僕らやお客さんのテンションはどんどん高まっていきました。

写真撮影:budori 秋本翼さん
写真撮影:budori 秋本翼さん

 そしてsenkiyaの庭が薄やみに包まれるなか、最後の1曲を。まわりの照明やPA機材の電源をオフにしてもらって、出演したミュージシャン全員で「キャンドルナイト」という僕の曲を歌い、演奏しました。この曲は、この日出演してくれたビューティフルハミングバードのふたりと、7年前に一緒にレコーディングした曲です。こうやって当時と同じメンバーで、しかも実際の歌詞と同じように、電気を使わない完全アンプラグドのなかで歌える日が来るとは。なんとも感慨深い瞬間でした。

写真撮影:budori 秋本翼さん
写真撮影:budori 秋本翼さん

 こうして2013年夏のきこえる・シンポジウムは幕を閉じました。半年に1度のこのイベント、次回は11/30、北海道砂川市で開催します。僕と同じように環境のことに関心のある、北海道在住のアーティスト“かねあい”と共に企画しました。詳細がまとまったら、再びこの連載でお知らせしたいと思います。

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