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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第94回 幸福とは—、東日本大震災に思う

  • 2011年11月10日

特集/災いを転じて・・・(その1) 幸福とは—、東日本大震災に思う

ブータン人の祈り

 東日本大震災のニュースは「幸福立国」として知られるブータンにもくまなく伝わり、一人ひとりが、あたかも自分自身のことであるかのように悲しんだ。パートナーとブータンで旅行会社を経営する青木薫さんの話では、全国各地で法要が行われ、被災者のために祈りがささげられたという。首都ティンプーの寺で、在住日本人を招き法要をしてくれた人もいた。ブータン国王や首相も、現地の日本人を招待してバターランプに火を灯してくださったという。

 お茶のカップの中にハエが入っても「大丈夫?」と聞くブータン人の意味は、お茶が大丈夫かではなく、ハエが大丈夫かであって、「早くハエを救い出せ」という意味なのだ。ブータン人にとって、今度の震災はわれわれ当事者以上に想像を絶するものであった。

ボランティア、寄付の盛り上がり

 死者1万4,817人、行方不明者1万171人(2011年5月5日時点)という、史上未曽有の大災害には、被害の規模が大きかっただけに、物資の流通が遅れたり、とくに、ガソリン不足は震災後3週間たっても解消されていなかったりの問題はあったが、阪神・淡路大震災などの教訓を生かして、ボランティアやNPOの支援の立ち上がりも早かった。

 とくにここ2〜3年、ソーシャル・メディアと呼ばれるTwitter、 Facebook、SNS、ブログなどの普及で、筆者も参加しているTohoku Risingと名付けられた大震災の復興支援を目的としたメルマガが、ソーシャルプランニング代表竹井善昭氏の呼びかけで震災翌日に立ち上がり、現在約200名の会社員、独立系コンサルタント、学生、関西以西の人たちも含めて結成され、復興支援はわれわれの仕事として、ソーシャル・ビジネス(社会的企業)などプロボノ(公共目的)の視点で東北地方の社会起業家、NPOリーダー、学生らを発掘してその活動を支え、ファンドレイジングなどで支援していくことを目指している。

 日本初の寄付の実態調査をした『寄付白書2010』(日本ファンドレイジング協会編、日本経団連出版)では、日本人も寄付文化が遅れているなど言われていたほどではなく、民間だけで年間5,455億円の寄付をしているとわかった。

 おそらく今回の震災では、直接ボランティアに行けない人たち(私を含め)からの寄付も、伊達直人現象の後でもあり、かなり行われると期待できる。筆者の知り合いのNPO法人えがおつなげてが、福島県で三つの病院や介護施設などを回り、救援している大石ゆい子さんへの寄付を呼びかけたところ、3?4日間で124万3,349円の寄付が集まり、大いに彼女を励ましたとの報告があった。

未曾有の原発事故

 問題は、福島第一原子力発電所の地震と津波による被災と、その後の処理の問題。当初は1?4号機を通電し、冷水が炉に回るようにすればよいとされ、それが実現すれば、日本も何とか技術先進国としてのメンツが立つと思われたが、その後、さまざまなトラブルや放射性物質漏れが出て、40年前に作られた炉で、当事者たちの想定外のことが多く、日本の技術立国の看板はあえなく崩れかけている。ブータンの人たちも「日本の原発は安全だと考えていた」「あの技術大国日本をもってしても防ぐことができない津波災害だったのか」との感想をもらしている。

 震災被災者に対する世界のメディアも誉める日本人のやさしさと、被災者間の礼儀正しさの一方で、原発事故に対する本質をふまえた市民からの批判が乏しいことが気になる。

 ちなみに、ドイツ人記者マーチン・ケーリング氏は「日本語のブログ数は世界中の英語のブログより多いが、政治的役割がほとんどない」(外国人特派員クラブ機関誌「ナンバー・ワン新聞」2011年1月号)と書いている。筆者が日本とスウェーデンで2009年に「民主主義意識」の比較調査をし、民主主義に必要な「公平・公正」「平等」「機会均等」「透明性」「正論が堂々と通用する」がかなえられているかどうかを問うたところ「いずれもかなえられていない」が、日本76.6%、スウェーデン20.2%であった(本誌2010年1月号参照)。ここに日本社会の民主主義確立の面で遅れがあると思われる。

 原発推進は、日本の政府の方針(例えば、2005年10月「原子力政策大綱」を尊重する旨の閣議決定も行われている)であるから、今回の原発による被害は、国の責任において解決されるべきだが、福島原発の被災による「計画停電」の発表を真っ先にした経済産業大臣は、国民に対して理解と協力を求めるという配慮があまり感じられず、ISOの社会的責任規格「ISO26000」が発行され、各企業、団体が、その実践に取り組んでいるさなかであるが緊急事態とはいえ命令口調の発表に少なからず違和感を覚えた。

 原発でも、危険なプルトニウムを生成するウラン型でなく、プルトニウムを生成しない、もっと安全なトリウム型原発の開発が、中国で進んでいると聞く。日本が行っているプルトニウムを再利用するプルサーマル計画もまだ十分成功していないなど、日本の原子力政策には問題が多い。

サステナブル日本へ

 阪神・淡路大震災の後、ボランティア活動の重要性への気づきで、NPO法が制定され、米国より200年ぐらいの遅れで、日本社会に4万団体強のNPOが誕生している。

 今度の大震災と原発事故によって、日本社会はさらに大きなパラダイムシフトを求められている。その基本は、現在世代の幸福や満足度が将来世代にワリを食わせる、ないしツケを回すことであってはならない。つまり、持続可能な社会「サステナブル日本」の実現である。

 ギリシャの哲学者アリストテレスは「幸福はあらゆるものの中で最も望ましいものであり『最高善』である」と述べている。幸福感や満足度の高い社会は、われわれにとって最も望ましい社会であり、それを最高善とするためには「持続可能な発展」が担保される必要がある。そのためのあり方、「サステナブル日本」へのパラダイムシフトのポイントを述べる。

(1)エネルギー政策における原発依存度を減らす。ドイツ、デンマーク、スウェーデンのように再生可能エネルギー比率を高める。日本は再生可能エネルギー(風力、ソーラー、バイオマスなど)への取り組みが遅く、バイオマスを再生可能エネルギーと正式に認めたのも、2002年からであった。

 企業の工場などは、できるだけ「自家発電装置」を持つ。民間の住宅建設の際は、必ずソーラーパネルを設置し、国はそのための補助金を出し、電力は100%電力会社が固定価格で買い取る。
 企業などの自家発電で余った電力は、スマートグリッド(次世代送電網)で融通し合う。このシステムを確立すれば、世界に冠たる民間による環境技術先進国となりうるのではなかろうか。

(2)震災と原発事故によって、避難する人たちも、助ける人たちも、直接参加できない人にも、助け合い、絆(エンゲージメント)、分かち合い(シェア)が生まれている。

 ブータン人の23.2%が所得貧困ラインにありながら、97%の人たちが幸せと感じているのには、仏教の価値観のもとの「互助・互恵」「知足・少欲」があるためだ。ブータンは家族の絆、人とのつながりが強く、家族・職場・学校で互いに助け合う「ディグラム・ナムジャ精神」がある。互助・互恵の価値はいわゆるGDP(国内総生産)にはカウントされないが、そのおかげで、みなが幸福と感じ、社会のセーフティーネットになっている。ブータン人の幸福感に学ぶことも大切だ。この震災で今一度人とのつながり、絆をよみがえらせるのが、われわれの責任ではなかろうか。

(グローバルネット:2011年5月号より)


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